四万打企画 | ナノ


▼ わたしにあったと云ってもいい

※術解けるくらいにまで年齢操作してます。





上忍になってから暫く、久しぶりに家に帰ってきたので、ついでに部屋の整理をすることにした。懐かしのうちはくんマスコットも名残惜しくはあるが捨てるビニールに乱雑に突っ込んで、一旦押入れにしまい込んだのが昨晩。今朝私はゴミ出しのためにそれを引きずり出したはずだ。

「どこだよ」

目の前に広がるのは木造の家屋。その趣は日向亭に近いだろうか、大きな居間はそのまま外の縁側へと繋がっていく。私は布団の入った押入れから中途半端に顔を出した状態で嘘だろ…と顔を青くさせた。もぞもぞとふかふかの布団に挟まれて現実逃避で寝てしまいたくなった。どうしてここにきたのかわからないわけではない。間違いなくあのクソマスコットのせいである。ゴミ袋に触れた瞬間に時空間忍術特有のあの嫌な感覚がしたので間違いない。ちくしょう、若かりしサラダに写輪眼潰されたんじゃなかったのかよ。それとも捨てられると悟った奴からの復讐か。こうなったら意地でも帰って私自ら焼き払ってくれるわ、待ってろ。そうと決まればどこらへんまで飛ばされたのか知る必要がある。顔面から倒れこむ形で私は這い出した。額当ても忍具も何も持っていない、完全に部屋着のままで、当然裸足である。畳の上に慎重に足を乗せた。鼻から息を吸い込むと微かな潮の香りがした。それから空気が湿っている。十中八九海沿いの里だろう。波の国か水の国か…いずれにせよ早いとこ帰りたい。だるいぜまったく、と頭を掻きながら縁側まで足を延ばすと、人影が見えた。この広い屋敷にやけに小柄なその人物像は浮いていたが、自然に馴染んでいるようにも見える。足をフラフラとぶらつかせて縁側に座って遠くを見ていた。この屋敷の住人かと思って私は声をかけた。しかし返事がない。もしや寝ているのかと横から伺うように顔を覗き込んだ。それにしては背筋伸びまくってるけど。

「……は」

その少年の顔が、友人の影と朧げに重なって見えた。一瞬見間違えたのは、あまりに雰囲気が酷似していたためだ。よく見れば彼よりも幼い顔立ちをしているし、背格好など全く別人だと気づける。最近会っていないけど枸橘君は元気だろうか。驚きのあまりぎしし、と大きな音を立ててしまってやばいと思ったが、依然その枸橘君に激似の少年からは反応がなかった。それどころか、少年の虚ろな瞳はひたすら虚空を捉えていた。
少年は幻術にかかっていた。
それも一等強力な類で、自我を一切表層に浮き上がらせないレベルの、人格を変革させる幻術。今日日このレベルの幻術を扱える人間なんてそういない。知っている限りでは…うちはサスケとか、そのあたり。うわー、うわー。ため息がさっきから止まらなくて息切れみたいになってるぜ。自我を一切持たせないレベルの幻術かけられてるって、このご時世どんな状況だ。少年、哀れなり。私は同情半分で術を解いてやることにした。ものすごく軽率なことをしている気がしないでもないが、なにより私は早いとこうちはくん抹殺のために帰りたかった。微動だにしない少年の頭を抑えて、眼球スレスレまで目を近づける。

「……近い」

術は存外簡単に解くことができた。白眼の解術は大方の幻術を解くことができるが…こう相性が良かったとなると、いよいよ写輪眼の類かもしれない。まさかうちはサスケの任務を邪魔したとかそんなことはないと思いたい。こんないたいけな少年に幻術をかけて放置だなんてしないって私信じてるからな。少年の意識はすぐにこちらに戻ってくる。先ほどまでなかった焦点もバッチリと合った様子で、めちゃくちゃ距離の近い私に二、三拍間を置いてから上記のような唸り声を漏らした。動揺しないあたり大物だ。それで、貴方幻術かかってましたよ、と私が説明するより先に少年の方が動いた。ばき、という音は少年が傍に置いていた棒のようなもので私が殴られ吹っ飛ばされたからだ。ああ"〜。
反射的に白眼を発動して臨戦態勢になる。続け様に少年は「水流弾の術」と印を組んだのだが弾というより大砲クラスの化けもんが飛んできた。まさか水のないところでこのレベルの水遁を…?こいつ何者だ。

「八卦掌回天…ちょ待って待って」
「う」
「こっわ、まじこっわ」

しかし術を放った後の少年は弱々しく片膝を立て棒に寄りかかり、それでもまだ多少ふらついていた。お体に触りますよ…。術と術がぶつかったせいで縁側は部屋まで巻き込んでかなり悲惨な状態だ。めちゃくちゃ殺意のこもった目で私を見てる。待て、話せばわかる。話し合おう。ひとまず術を食らう危険性だけは避けたいと、私は両手を頭の上にあげた。

「お前……どこから、ここは水影亭で」
「冤罪だ、私は賊じゃない!」
「う、…頭がガンガンする」

すまん。だが脳を完全に支配されていたのだから、当たり前だけど解いた負荷もそれなりだ。

「まあ、いいか…ちょっくら殴り倒して諜報部隊に引き渡せばいい…ああ、クソ、なんだってんだよ」
「ひぇ…」

待て待て、仮にも五影で結んだ平和条約は何処へいったんだってばさ。よく見たら腰の辺りに額当てもしているし…霧隠れかよ。お、おう、こっちにゃ水影の側近の友達いるんだぞこら。舐められないようにいきっていこう。さっきのだいぶ動きやばかったし術も凄いし戦ったら多分負ける気がするゾ。

「たんま!待て!ストップ!30秒だけでいいから!」
「……あ…?」
「誤解がある。まずはそれを解きたい」

待て、頼む。全力で待ったをかけると一旦だが動きが止まる。なんとか30秒の猶予は与えられたらしい。私は所属と経緯を事細かに話し、何も貴方にしていませんということを死ぬ気でアピールした。時空間忍術の誤作動といえばまともな忍者なら話が通じるはずだった。ちなみに説得に失敗したら本当に死ぬことになる。霧隠れの里の諜報部ってすごいってよく聞くよなあ。痛いんだろうなあ。私の説明を聞くうちにだいぶ少年の方も意識がはっきりしていったらしく、ぼんやりとした様子から次第に感情の伴った表情を見せ始めた。が、同時になぜか眉間に皺が寄っていく。しまいには構えているのも馬鹿らしくなってきたのか、縁側にどかっと座り込んでそのまま胡座をかき、頭をかきむしりはじめる。理解が追いつかない、と言った感じだ。そしてそれは幻術にかかっていたという事実にでも、私が急に現れたことに対してでもなかった。「んんん〜」と少年が再び唸る。

「つまりなんだ、その七代目とやらから何か頼まれたわけでもないって、言いたいのか」
「うん」
「オレにはお前が何を言ってるのかわからねぇよ。七代目?火影は確か今就三代目…四代目だろ?」
「は…」

あっはは、ずいぶん面白い冗談だね!見ると少年のは「嘘なら、今のうちに撤回しとけよ」と言った。……いやそっちが嘘だろ?…嘘だと言ってくれよバーニー。よく考えればこの状況は私の方が余所者で、少年はここの住人である。その少年が言うことに果たして偽りがあるだろうか。それも火影の年代とか言うクソどうでもいいことで。え?……時かけちゃったかよ。

「んん、時空間忍術にはいくつか覚えがあるぜ。でも文字通り時間を飛ぶ、なんて話は聞いたことがない」

少年は放心する私とは全く逆で、冷静に現状を分析しようとしているようだった。その意見は意味がわからない、と言った割に私に対して肯定的なもので、「あれ?信じるの?」と思わず突っ込んでしまった。

「オレを誰だと思ってんだ?四代目水影やぐらだぜ。本当に未来から来たのなら名前くらいは残ってるだろ?」
「ふぁ!?!?」

いや顔は存じ上げませんが…は?やぐら?そこで少年に見覚えがあった理由にようやく合点がいった。

「あの、お噂はかねがね」
「急に正座してどうした。さっきは殴ってごめん、事情はわかったし、その真相はともかく、オレの幻術を解いてくれたという事実だけでオレは貴女をある程度は信用するさ」

だれだこいつ…。四代目水影といえば、悪逆非道の限りを尽くしたやばい奴という触れ込みだったはずだが、何がどうしてこんな好青年なのか。枸橘君がこの水影を見たら一体どんな反応をするだろう。それか私は時どころか時空まで飛び越えたのだろうか…パラレルワールド…いや、流石にそれはないと思いたい。しかし同じ時間軸とすると、先ほど解いた幻術が何かの鍵であったのか。四代目水影の圧政の裏には、幻術をかけた黒幕がいた…。なんか凄い突拍子もない話だが妙に的を得ている気がする。うっ、私、消されるのか…?だって仕方ないだろたまたま出会った少年が四代目水影だとかだれが予想するんだできた奴でてこいよおら。
やぐら君は腹のあたりをなでさすって一瞬ホッとした表情を見せた。しかし次いで途端に険しい表情になる。

「そうだ。里は……」
「あっ」
「里は……そうか」
「うわ……記憶あるんだ」
「いや、徐々に靄が晴れてきたって感じだな。それからオレに幻術をかけた奴らは分かってる、暁とかいう連中だろう」
「暁…」

アカデミー生の頃遭遇したうちはシンを思い出した。確か、あれは暁という極悪組織を復活させようとしていた。それが現役の時代に私は来てしまった。そして、その組織によって四代目水影は陰から操られ、外部からは霧隠れの里が血霧の里と呼ばれたと…。壮大すぎてほ、ほー、と頷くことしかできない。本来の四代目水影は今私が接しているように、表情豊かな明るい好青年だったんだ。……なぜか少し切なくなったゾ。

「なんか…ごめんなさい」
「なんで謝る。ははあ、もしかして、オレがやばい奴だとか思ってたな?そうだろ?」
「その通りなんだけどうんというのはとても憚られる」
「オレは操られた時点で水影としての責任を果たせなかった。そこでどれだけ自分が蔑まれようと甘んじて受け入れるさ…忍の世界じゃよくある話だよ」

よくある話であることと、平気なことは全然違うというのに、笑えるやぐら君は七代目と同じ良き影だったのかもしれない。「そしてそれでもここはオレの里だ。守る義務と、立ち直らせる責任がある」

「お前も早く自分の居場所へ帰れ」
「お、そうだな」

そうしたいのは山々だがその帰り方がわからねえって話なんだよ。忘れかけていたが糞うちはくんがいないので、代わりの時空間忍術使いでも探すしかないのだろうか。それにしてもやぐら君、ついさっきまで超ド級の幻術にかかっていたのに冷静すぎやしないか。この時代の人間にとってはあれくらいよくある話なのかも定かでないが、特にそれ以上感想を漏らすこともなく立ち上がったやぐら君は足早にどこかへ向かう。待ってくれー。壊れた縁側の床板や瓦礫をひょいひょいと避けながら「誰か時をかけられる方をご存知なかろうか」と聞くと「いや知らん」とバッサリ切られた。なら火の国に行く方法は…と、どうやら今の情勢では国家間の忍の行き来はとても難しいらしい。もちろん強引に行けば行けなくもないが、そうなると完全にお尋ね者、相手方の忍者と交渉なんて不可能になるだろう。

「こっちは切羽詰まってんだけど」
「そりゃオレもだよ」
「大切な子孫の頼みだゾ〜」
「いやお前木の葉だろ。霧隠れじゃないし」
「私君の孫の友達なんだけど〜、修学旅行先霧隠れなんだけど〜」
「え?オレ孫いるの…?結婚してないけど」
「まじかよ」

枸橘かぐら君という君を恨みまくってる立派なお孫さんができますよ…と言うのは流石にやめておいた。身内からも散々な言われようというのは哀れだ…うん。「孫ねえ」とやぐら君は未来から私が来たという事実より、そちらの方が飲み込めないご様子。

「自分のことだけならいいが…孫なんか作って、未来のオレは何考えてんだかな」
「うわ、確かに計画性ないわ。最低かよ」
「お前、なんかさっきからどんどん口悪くなってきてないか?」

なんかやぐら君がフレンドリーなんでついつい。今まで会ってきた影の中でも多分年がかなり近いこともあって全く敬語を使う気にならないぜ。あとは雰囲気の問題なので嫌なら自己改善してもらいたい。話が逸れてきたので戻すと、協力してほしいがタダでは無理、とのことだ。それはそうだがこちらは里の命を救ったも同然なんだからもっと上から目線で行けばよかったと今更後悔。

「じゃあお前はオレに何してくれる?」
「は」
「オレは早急にオレに幻術をかけた奴らを殺しに行く。それから里の立て直しも……本当に感謝しているけど、余裕がないんだよ」
「こ、こいつ、脅してやがる…」
「幻術とは相性が悪いオレだがそれでもそうそうひっかかるもんじゃないんだ。そんな強力な幻術を解いてみせた…えっと、名前なんだっけ」
「名字ナマエ」
「ナマエ、お前の力を使わせてくれるってんなら、その後でオレもお前の帰還のために全力を尽くすさ。火の国でも未来でも、どこへなりとも、ってな」

振り返りキザっぽい口調で腰を折ったやぐら君。そのはにかみ顔は枸橘君のそれと似ている気がした。……だが、目は完全にギラついている。人を使い潰す気満々の忍者の思考回路が嫌という程伝わってくるが、現状で水影という支援者を手に入れられるチャンスはもうないだろう。
私はヒクついている口角をなんとか持ち上げた。うちはくん、まじで絶対焼くぞこら。
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