四万打企画 | ナノ


▼ 夢のふちで腕ひとつ落としてきたわ

一般的な兄妹の関係について考えてみたのだが、私とネジ兄さんはそれから酷くかけ離れたものであることだけ理解できた。

「ネジ兄さんや、なぜそんなに修行するの?」

道場の隅で膝を抱えた私が質問しても返事は返ってこなかった。「つまんねー」修行に飽きてネジ兄さんにも無視された私は大の字になって寝転ぶ。日向家の修行は死ぬほどきつい。しかしその間も絶えず、ネジ兄さんの修行音だけが、耳に入ってきていた。兄さんは、毎日飽きもせず黙々と修行を繰り返すだけの少年だ。一般的には糞真面目野郎ともいうが、私に言わせれば彼は意固地になっているのだろうと思う。過酷な修行は逃避の一種だ。日向の分家という一族の呪いに縛られ、誰よりそこから自由になりたいと願っているくせに、そこにしか居場所を見出せない哀れな奴。え?妹のくせにひどい言い草だって?待て待て、妹だから言わせてもらうけど、ネジ兄さんどシスコンだからまじでほんとほんと。何言っても怒らないので、毎日適当に好き勝手やらしてもらっているすまんな。ネジ兄さんの髪ゴム何回かちょろまかしたの私です。
おっほん。
そんな兄さんに、アカデミーで仲間ができたのは妹として純粋に、嬉しかった。やっと少しは自分の時間を持つのかとほっとしたし、何よりこの物騒な時代で忍者として戦う理由が「宗家のため」、なんてのはなんとも味気ない。最近の流行りは愛する妻と息子を守るため犠牲になるうんちゃら。信頼する仲間でも代用可。その点リーさんもテンテンさんもいい人のようだし、特にリーさんなんかは糞真面目野郎の兄さんにはちょうどいいくらいの馬…んん"!熱血少年だ。まあ要は戦う理由くらい自分で見つけろって話だゾ。え、私?まだアカデミー生なんでそういうことはちょっと…。
しかし蓋を開けてみれば兄さんから仲間の話、なんてものが出た試しはなく、依然として修行に明け暮れる日々が続いていた。あ…だめだこりゃ。

「いいか、ナマエ。人は生まれた時からその全てを運命によって決められてるんだ。父さんを殺した宗家を、ナマエの額に呪印を刻んだ奴らを俺は許せない」

どっこらしょ、と足の力だけで体を起き上がらせた。あの時は齢3歳の妹になんて物騒な宣言をするもんだなと思ったものだ。お陰で当時の他のことは何一つ覚えていないが、ネジ兄さんの血気迫った迫真の顔と震える両腕だけが鮮明に脳裏に焼き付いている。「何をおいてもナマエは守るよ。兄さんとの約束だ」ゆーびきりげんまん、嘘ついたら針千本のーます。あの約束をまだ兄さんは覚えているだろうか。いやまあ、覚えてなくても全然構わないんだけどそこらへん美しい思い出大事にしていきたいっていうか…多少はね?

「ナマエはまだできないのか」
「待て兄さん私まだアカデミー生。それで日向の奥義できたら逆に怖くね?」
「お前はサボりすぎなんだ。どうしてこう…俺とは似ても似つかない性格なのかさっぱりわからん」
「いやあなんででしょ」

間違いなく甘やかした兄さんもその一端を担っているが本人の名誉のために黙っておくことにした。修行を終え、布で汗を吹いている兄さんに対して汗ひとつかいていない適当な私。どちらが優秀かなんて比べるべくもないことだ。そうでなくとも兄さんは日向歴史上でも類を見ない天才と言われている。ことさら宗家が気に食わない理由、お察し。

「兄さん、明日は任務で里外に行くんでしょ?弁当いる?」
「ああ」
「気が向いたら作るわ」
「ナマエの場合本当に気が向いた時なのがな…」

「いってらっしゃい」と「いってきます」が成り立つことの素晴らしさはアカデミーでクラスメイトであるナルト少年に懇切丁寧な解説をされた。その大部分に私も賛成したが、ある一点においては否定したい。私個人の気持ちとしては、兄さんには「おかえり」と言ってもらいたい。私はいつも、誰かに見送られる側がいい。

「私も、忍者になる」
「ならまずはその適当な性格を治さないとな?」
「楽して勝ちてえ〜!」

ほんま世界一度滅びかけたりして一致団結みたいな神ムーブ起きんかな。







おま、おま……。起きろって言ったけど、言ったけどさ……。

「死ねとまでは言ってないじゃんやりすぎだゾ……」

ネジ兄さんが死んだ。仲間を守った名誉の死に敬礼!……って気分では流石にない。仲間のために戦ったほうがいいんじゃね?とか思ってたけどな?それは助け合えってことであって盾になって死ねってことじゃないんだぜ?拡大解釈しすぎの忍まじつらたん。おまけに笑って死なれちゃ妹としちゃ立つ瀬がない。こいつ死に際私のこと一ミリも考えてなかったな?ナルトたちのために死ぬ気で戦って、守って死ぬ。我が兄のことながら美談すぎて涙が止まらんわ。これで一本映画作れそ。
騒ついた周囲だったり泣いてる仲間だったり、私の方をチラチラ見てくる人間も多かった。が、当の私の心はすん……、って感じだった。妙に腕の力が抜けて、まだ戦闘中にも関わらずふと空を見上げた。薄暗いじめっとした空気は今の気持ちにあっている。

「あーあ」

「ナマエは守るよ」って、嘘ついてんじゃねーぞクソ野郎。
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