鱗はとける



はい質問です!ジャポンのしがないいち学生にすぎない私が、世の掃き溜めと噂される流星街にいるのなぜでしょう?答えはCMの後で!

「親に捨てられたンゴ…」
「そうか。ここじゃよくある話だな。お前くらいデカくて教養も受けてるのは珍しいけど」
「ガスマスクさん…私これからどうしたらいいんでしょう」
「さあ?」

ことは流星街の入り口でぽつんと立っていた私に、ガスマスクをつけた体格のいいお兄さんが「何してんだ」と話しかけてきたところから始まる。何が親の癇に障ったのかはわからないが、17歳にしてゴミ山の中に放り込まれた私は、何をしていいのかもわからずただ呆然とするばかり。一応流星街といえどコミュニティや地域を統括する組織は存在するらしく、まずはそこに向かうべきだと親切にも教えてくれた。ただし、とガスマスクさんは親指を立てる。

「道中、鳥に食われたり殺されたりしないことを祈っとけ」
「世紀末かよ…」
「まあお前は見たとこ大丈夫そうだろ…多分」

多分ってなんだ多分って。責任放棄はやめろ。なんならお兄さんが連れて行ってくれればいいのにと思ったが、看守が仕事なので離れられないし、そこまでする義理はねぇとのこと。至極真っ当な意見ありがとうございます。腐敗臭の蔓延る流星街で私のやけに小綺麗な学生服は目立つ気がしたが、隠すものもなく恐る恐る足を踏み出した。ぐちゃ、とぬめりけのある何かを踏みつぶした感触に下を向く。人間の造形を何とか保っているだけの何かがあった。oh…。ぶうん、とたかっていた大量のハエが私を避けるように飛び去っていく。その黒い軍隊はゴミ溜めを超えて消えた。よく見れば同じような固まりはポツポツとあって、つまり、そういうことだった。流星街は何を捨てても許されるとは聞いていたがここまでとは。なるべく地面を見ないようにしながら私は足を動かす速度を速める。
そもそも、きっと私がサイコパス扱いされていたのが原因ではないかと思った。親は何かとこちらを目の敵にしていたし、自分的には普通に学生やっていたのだが、初めは優しかった両親も次第におかしなものを見るような目で見つめてきた。かといって体裁を保ちたい彼らにとって、施設に送るといった行為は考えられなかったらしい。だから、ここ流星街に連れてこられたのだ。ヨークシン観光とか聞いてテンション上がってる1日前の自分よ気づけ…。私としてはさっさと街に引き返したいと思ったのだが、それも叶いそうにない。流星街は閉鎖的ゆえに、中に入るのは簡単でも出るのには手続きを踏む必要があり、兎にも角にも一度は統括組織に顔を出す必要があると。
そんなルール律儀に守る奴もいないということに私が気がつくのは一ヶ月後で、馬鹿正直にも私はえっさほいさと感覚で歩を進めた。

雑な継ぎ接ぎの受付カウンターに座っていたこれまたガスマスクに、今度は防護スーツまで着込んだ男だか女だかわからない風貌の人物に、私は「あのー…」と声をかけた。「はい」とやはり篭ってよく聞き取れないしゃがれ声で応えてくれた。

「流星街に間違って入ってきてしまったんです。ここから出たいんですけど」
「え…?許可取りに来たってことですか?」
「え…?はい」
「あ、ああ、わかりました。少しお待ちください。それで、登録番号は?所属地区は?」
「と…?いや、何もないですけど」
「では新しく作成します。ただし、個人での外出は認められていません」
「というと?」
「組織管轄のどこかのコミュニティに所属している場合のみ外出許可証が発行されます」
「いやいやいやいや、今来たばっかだって言ってんじゃないすか」
「組織管轄のどこかのコミュニティに所属している場合のみ外出許可証が発行されます」
「あの」
「組織管轄のどこかのコミュニティに所属している場合のみ外出許可証が発行されます」
「もういいこの野郎、いいからさっさと外出許可証とやらを渡せ」
「組織管轄のどこかの…」
「うぜええええ!」

意味のない押し問答が続いたので、諦めて私は引き下がることにした。机の端に当たり前のように立てかけてあるごつい銃が目に入ったのも理由の一つだった。再び外に出た私は、ゴミ溜めの山の一つの上で燃え尽きた。金でどうにかなるならまだいい。しかし、こんな年中フリーマーケット状態の場所でそんな施設があるかどうか疑わしいものだ。もし仮に金銭が有効だったとしても、今私が持ち合わせているのはジャポン円と両替したジェニーが数銭。おまけに使ってしまって小銭しかない。はい詰んだ詰んだ〜。きっとここまでが両親の計算に違いない。ちくしょうめぇ!

「はぁ…」
「お、ラッキー」
「は」

は?と私は言ったのだと思う。咄嗟に避けられたのは僅かな殺気を感じ取れたからだ。さっきまで私が座っていた場所には刀が突き刺さっていた。アイエエエ!顔に突き出された少年の右拳を左腕でガードしたところ足の踏ん張りがきかずに吹っ飛ばされる。ゴミの山に突っ込んで埋もれた。目と鼻の先に骨があって少し気持ちが悪い。「いたたたた…」寝っ転がって空を見上げていると、刀を引き抜いて肩にポンポンと打ち付けながら少年が近づいてくる。彼はよっこらせ、と年寄り臭い仕草でしゃがみこんで、私と目線を合わせた。

「お前何者だ?一応それなりに気合入れて殴ったんだけどよ」
「痛い…絶対折れてる…」
「おー、全然何ともないから安心しろ。だから、質問に答えな。身なりがいいしカモかと思ったがただの女じゃないよな?」
「ジャポン出身、ちょっとお茶目なただの花のJK17歳、名前=名字でふ…」
「ただの女子高生が凝をした拳を平然とガードするかよ…ってお前、ジャポン人か!?オレもそうだぜ、偶然だなおい!」

急に笑顔になって、かっかっかっ、と特徴的な笑い声を発したかと思うと腕をとって起き上がらせてくれた。え?何この変わり身の早さ。それに凝?なんだそれ。今まで受けた拳の中ではかなり重い方だったが、別にそれほどのものでもなかったように思う。が、少年曰く、何受け止めてんだよ、ということらしい。いや理不尽すぎるだろ。…それにしても、ジャポン人という少年の体を頭の上から爪先まで見た。ちっちゃいちょんまげが…

「…流行らないと思うよ」
「どこ見て言った?お?やるかおら?殺すぞ」
「そうだ、君さ、私今日ここに来たばかりなんだけど、ここってどんな生活してんの?教えてよ」
「あ〜ん?んん…そうだな…お前、上の連中の娼婦って身なりでもねぇな」
「花のJKだっつってんだろ殺すぞ」
「は〜まじでその歳で捨てられたのか?自分から来たのか?どっちにしろ御愁傷様なこった。ここでのことは…別に教えてやる義理はねぇな。同郷のよしみで身ぐるみは剥がさないでおいてやるよ。じゃあな」
「え!?そんな殺生な!ちょ、ごめんって!謝るから待って!!」

待ってーー!という甲高い私の声は流星街に反響して消えていった。…まじで帰りやがったあいつ。あっちが年下だと思って下手に出てやったのが間違いだった。どうやらこの世には神も仏もいないらしい。助け合いの精神のカケラもねぇ、私は先の見えない流星街での生活に涙を零した。
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