そこそこデリケートにできている
「おはよう、ナマエ」
肋骨に包帯をぐるぐる巻きにされた次の日、登校するとミツキ君に笑顔で挨拶された。しかも名前呼び捨て。チョウチョウに貰ったばかりのポテチがぽろ、と地面に落下していった。因みにキャッチしたチョウチョウによって食われた。
「……お、はよう」
「うん。あ、おはようボルト」
「はよー……」
「ちょっとどういうこと?昨日の演習やっぱなんかあったっしょ?」とチョウチョウに肩を揺さぶられたが、正直こっちが聞きたい。確かにあの後シノ先生と色々話し合って、私たち四人はなんとなく秘密を共有する仲になったわけだが、態度の急変っぷりに薄ら寒い思いがした。暫くミツキ君を観察しているとシカダイにも話しかけていて、先日の、あからさまにボルト以外興味ありませんという若干ホモ疑惑のある態度が解消されたのだとわかった。ミツキ君なりに人と関わることを始めたらしい。うん、気づいたけどすごくどうでもいいね。サラダは相変わらずそういったことには興味ないですという顔で朝の読書に勤しんでいる。君はそういうやつでほんと安心したわ……。
「何?ナマエは噂の転校生と仲良くなったわけ?」
「いや、肋骨折れた演習で仲良くなる要素とかないから」
「ふーん。全治一ヶ月くらい?」
「綺麗に折れてたからもうちょっと早い」
「じゃあそれまでナマエは役立たずかー」
「お?いのじん、やるかおら」
「はあ?体術できないナマエとか相手にする価値もないってわかれよ」
「ナマエさん安心してください!ボクがその状態でも行えるトレーニングを考えておきました!」
「お、おう。さんきゅーめった」
メタルに押し付けられた紙束の中には綺麗な字で「トレーニング!!!」と表題がデカデカと書かれている。すまん、正直すごく要らん。明らかに手間をかけて作られたであろうそれをパラパラとめくりながら、私は帰って押入れの奥にこれをしまうことを決意した。いつか使うかもしれないからね、今はまだその時じゃない、仕方ないね。
「でも、それじゃ帰りは食べて帰れないね」
委員長が残念そうに呟いた。そうだ、今日はチョウチョウ、サラダ、私に委員長と帰りにどこかに寄っていく約束をしていたのだ。
「病院いかなきゃいけないからさー。すまぬ」
「ううん、お大事に」
ふんわり笑った委員長に後光が差していて私は目を覆った。つ、強い……!なんだこれは……!「女子力」とぼそっと呟いたいのじんは後で校舎裏に呼び出しておこう。くくく、白眼を使えばいのじんのフルチンも見えるんだぜ?キモいから絶対やんないけどな。最近気になっているのは、日向一族の中で白眼で女湯覗いた奴っていなかったんだろうかということである。思春期なら真っ先に思いつく発想だと思うのだが。
しかしそんな私の下衆な考えは、シノ先生が青空教室の始まりを告げる声で打ち切られたのだった。