つまらないことで喧嘩してばかり
「修理の邪魔ばっかしやがって!いつになったら終わるんだ!」と騒いでいる修理業者を影から伺いつつ、私はチョウチョウに付き合わされ食堂から大量のポテチを避難させられていた。どうやら先日から何度も何度も壊れる校舎にストレス溜まって暴挙をしでかしたらしい。正直すまんかった。シノ先生に謝りに行こうとした矢先の出来事で、各人どうするよ?と目線を合わせた。私は関わりたくないので先生を呼んでくるに一票。ところがシカダイによると、この症状はメタルにも現れたことがあるらしい。不審な事件はここ最近多いが、生徒間だけで止めるのはいかがなものだろうか。ふとボルトを見ると、彼の片目が真っ黒になっていた。「ひえ…」と私が叫んで後ずさっていると、それを見ていなかったサラダに「あんたも行くのよ!」と右手を掴まれる。私肉体派の自覚あるけど無理やりはいくない!
「私が手裏剣でアシストするからナマエが取り押さえて!隙を見てシカダイが影縛りをかける!」
「……チョウチョウは?」
「あちしはポテチ守れたしパース」
「この野郎覚えてろ」
とはいえ、八卦空掌とか使ってしまうと相手を殺しかねない。私はメタルの剛拳と正反対の柔拳使いであると同時に、割と力の使い方が大雑把なのだ。掌拳で父さんを十数メートル吹っ飛ばした事実からも察してほしい。ざつぅい!日向家のヒアシさんとかハナビさんとかに教えてもらって数年だけど点穴とか何それおいしいの?
そうしてどうやって取りおさえるかを思案していると、男が持っていた角材を投げつけてきた。私とサラダは地面を蹴って間一髪避ける。ええいままよ!女は度胸!死ぬほど嫌だけど!特攻隊長に任命されたため、真っ先に私は男の懐に潜り込んだ。怪我をさせてはいけないという条件があるので、男の拳を左右にいなしつつ取りおさえる隙を伺う。点穴がつければこの程度数秒で終わるのによお畜生お、とは無い物ねだりである。そもそも点穴見えない。
「ちょこまかと、ガキが調子に乗るなよ!」
「ナマエ!」
「い」
取りおさえる前に、男の角材が油断した私の脇腹にクリーンヒットした。サラダが叫んでいるが、い、一応安心してくれい。至近距離で戦わなくてはならない体術使いは必然怪我が多くなるのだ。そのための訓練もしているわけで、大きく仰け反った体を空中で何とか立て直し、確実に男に足払いをかけた。でも痛いのは変わんねーからな!やっぱアカデミー怖い。はよしてくれ!という意味も込めてサラダの名前を叫んだ。
「サラダ!」
「任せて!」
続いてサラダの手裏剣が男を牽制し、シカダイの待つポイントまで誘導することに成功した。私は地面にへたり込んで、不自然な格好でピタリと静止した男にこんなのもう絶対やんねえと誓った。
「ナマエは大丈夫かー?」
これ絶対折れてるとか思いつつ、階段下から男に影縛りをかけているシカダイの呼びかけにひらひらと手を振る。視界が広がるのは便利だが、正直同じ血継限界でもシカダイのような後方支援型が良かったと思う。私は元々暴力を好まない穏やかな人間であるからして、殴ったり蹴ったりは自分でもドン引きなのだ。私を助け起こしたサラダは眉を下げて「大丈夫?」と言った。へーきへーき、この程度あれだよ、ハナビさんの裏拳より弱いから。
「ごめん」
「いたたっ、何?」
「私がナマエを巻き込んだせいで怪我、させちゃった」
「おいおい、火影目指してる天下のサラダ様が、仲間の怪我ひとつで弱っちくなんないでよ。死ぬわけじゃあるまいし」
「ナマエ…」
「でも正直もう勘弁。いででっ、保健室行ってくるわ…」
「ぼ、僕連れていくよ!」と近寄ってきた雷門君の肩を借りて私は保健室に向かった。結局骨は折れてなくて打撲のみ。自分の丈夫な体が恐ろしいぜ全く…。その後男の影縛りが解けたりボルトが男を殺しかけたりなんだりとさらに一悶着あったらしいが、すやぁ、と眠りこけていた私には知らぬことであった。ちゃんちゃん。