模範的な祝日



私が風邪でアカデミーを休んでいる間に一体何があった。ボロボロの校舎を見上げて唖然としていると、たった今登校してきたらしいいのじんが「あれ、ナマエがいる」と頭の後ろで手を組みながらあっち、と指差した。

「校舎、壊れたから青空教室なんだ」
「うそーん……」
「あーあ、ナマエがいたらもうちょっと穏便に済んでたかも知れないのに」
「しかも私のせいかよ」
「サラダとボルトが熱くなってさ、おまけにチョウチョウとかが悪ノリしたんだ。あの二人に意見できるのナマエくらいだろ」
「や、多分二人だと無理」
「まあもうどうでもいいけど。それよりさ、今日転校生が来るらしいよ」
「て、転校生?今の時期に?」

いのじんに案内されて青空教室なるものが設置された広場に行く。そのままシノ先生が来るまでいのじんと談笑していると、遅刻ギリギリの時刻になってボルト、イワベエ、シカダイが滑り込んできた。いつものメンツなのでもはや反応すべきこともない。

「ナマエの白眼って実際どのくらいまで見えるのさ」
「はい?」
「昨日の男女対抗戦の時ナマエがいたら、どこまでこっちのこと筒抜けになってたのかなって」
「校舎内だったら全部把握できるけど」
「まじ?」
「日向は木の葉にて最強なんすよ〜まじで〜」
「うわその顔うざ」
「なんの話だってばさ?」
「ボルトが白眼使えてたらよかったって話」
「はあ!?」
「まあまあ、ボルトは私と違って色々忍術使えるじゃん。白眼くらい譲ってよ」

隣に座ったボルトが片足立てて額に青筋を浮かべたのでどうどうと宥めていると、シノ先生がやってきた。隣に連れている水色の髪の男の子が、噂の転校生とやららしい。このクラスの顔面偏差値の高さが最近やばいことになっている気がしないでもないが、私はめげないゾ。凡人顔でも需要はどこかにあるはずなのだ。
「ミツキといいます。音隠れの里から来ました」男の子のその言葉に、みんな騒ついた。というのも音といえば木の葉壊滅を目論んだ事のある里だからだ。絶対訳ありじゃねーか。めんどくせえ。私は多分露骨に嫌そうな顔が出ていたのだろうか、シノ先生から「そんな顔をするなナマエ」と注意された。

「みんなも知っての通り、音はかつて木の葉壊滅を目論んだ。しかし今は新たな忍の里として復興しつつある。ミツキも友好の一環としてこの里にやってきたのだ」

ええ〜?ホントにござるかぁ?絶対なんかあるだろう。主に大人の事情とか事情とか。ところが女子たちはそのイケメン具合に当てられたのか、「かっこよくない?」と呟きあっている。興味なさげに「くだらない」とサラダは一括していたが、確かに私も顔はいいと思う。顔はな。ミツキ君はシノ先生に促されるがままこちらに歩いてきた。ん?私の前でピタリと立ち止まったミツキ君は、「退いてくれないかな」と私の座っている位置を指差した。ナンデー。嫌そうな顔したから怒ったのねえ、ごめんって。
罪悪感もあってすごすごと場所を開けた私は反対側のいのじんに「弱っ」と馬鹿にされた。当のミツキ君は私になど一瞥もくれず、ボルトに話しかけていた。なんだなんだお前ら知り合いかよ。ミツキ君も「ボルトの隣座りたいから」くらい言えや!私はガシガシと頭を掻きながらミツキ君は変な奴なんだと早々に認識を固めた。そして多分それは間違ってなかった。明らかにアカデミーの範囲を逸脱している問題をスラスラと解いたり、演習の時イワベエを絞め殺しかけたり、とにかくしっちゃかめっちゃかクラスをかき回したのだ。

「……むかつく」
「サラダ、ライバル意識?」
「違う!」
「転校生がボルトにずーっとくっついてるから、イライラしてんでしょー。カロリー足りてないのよ」
「ああなるほど」
「違う!!」

おまけにお昼のサラダの機嫌は最悪だった。今日一日かなり荒ぶっていたのは、やはり転校生のせいなのか。私はお弁当の卵焼きをつつきながら「まあ、私もなんか苦手だわ」と言うとチョウチョウとサラダから意外そうな表情をされた。おいおい、失礼な。

「あんたって人に嫌いも好きもなさそーだと思ってた」
「私も」
「ええ?私だってそのくらいの感情はあるんだが」
「なんかナマエって、どれもどーでもいいって感じだもん」
「いやいや、深く考えてないだけだし」
「それはそれでどうなの?」

なんか、何考えてんだかわからないあの蛇のような目は、どうも好きになれそうにないと思ったのだ。幸い私から絡もうとしないければあれ以来話す機会もなかったので、少しホッとしている。それにボルトを見てる時の彼なんか怖くね?え、私だけ?

「まああちしは嫌いじゃないけどね」
「ミツキ君?」
「ちーがーう。ナマエのそういうトコ。一番人生楽しめそうだし」
「私はもうちょっと計画的に動くのをお勧めする。まあ……それがナマエの個性なんだろうけど」

お?お?なんだなんだよ、二人とも今日はやけに優しいじゃないか。私が感動してそっと卵焼きを渡すと、突き返された。あ、そうですかいらないですか。これでもそこそこ料理はできると自負しているのだが、いまいち伝わらない地味な特技である。
そうして、もはやミツキ君のことなど忘れて二人と会話していると、私は視界の端でシノ先生が歩いていくのを捉えた。職員室のある方面に向かっていくようで、それ自体はなんの変哲も無い光景である。
私は「おつかれさまでーす」と心中で声をかけながら、残りのお弁当を掻き込んだ。
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