Q.正義



なんで私がこんな目に、なんて巻き込まれるたびに考えていたらきりがないとは思うのだけど、やはり今回の件ではそう叫ばざるを得ない。私は、まじで、何も、していない!ふざけるなぁ!忍刀七人衆の復活なんて勝手にやって勝手に頓挫してくれればいいものを、わざわざ私たち木の葉のアカデミー生が修学旅行中に決行しなくてもいいじゃないか。屍澄真の蹴りで完全に意識が飛んでいた私は、目を覚ました瞬間眼前に広がった光景に「ひぇ…」と顔が青くなった。おまけに体のあっちこっちから血が出ていてズキズキと痛い。僅かに身じろぎした私を俵担ぎしていた屍澄真が気づいたらしく、投げるような形で乱雑に地面に降ろされた。ばしゃ、と水が跳ねる音がする。遠くからボルトの呼びかける声が聞こえるが、そっちも大概血だらけだ。その横にいるのは多分枸橘君。君は反省してどうぞ。返事をするのも億劫なので、取り敢えず無言で休ませてもらうことにした。「まさかナマエ裏切」「敵に満身創痍で俵担ぎされる裏切り者がいるか」それは流石におこだよ?周囲にはさっき見なかった何人かの忍が立っていた。男女、屍澄真含めて6名。忍刀七人衆、というには一人足りない。私は…そうだ、確か霧隠れのアカデミーに向かっていたはず。地面が水、つまりここ演習場。薄っすらと目を開けてボルトたちの方を見る。ボルトは屍澄真を睨みつけていて、枸橘君とはしっかりと目があった。顔面蒼白で、酷い顔をしている。

「ぁ、ナマエ、さん…?」
「かぐらぁ、お前はどれだけ取り繕うが、こっち側だ。それに長十郎の現体制は、自分たちに都合の悪いものはなかったことにしようとしてるんだよ」

今何が起きているのか完璧には把握しきれないが、どうやら、さっき屍澄真本人が言っていた通り、ボルトを殺しにきた、ということだろうか。血だらけでふらふらのボルトとそれを支える枸橘君。周りを取り囲む屍澄真一派。うつ伏せで倒れている私。なかなかシュールな絵面だ。屍澄真は戦争を起こし、その中で自分たちの主張が正しいことを証明したいらしい。大戦以降疎まれている自分の一族の名誉を取り戻すのだ、と。いやその理屈はおかしい。無念を晴らすための革命だと嘯いているが、だとしたら私を人質に取るだなんだと隙を見てボコボコにしないだろ。まあ平和とか長十郎様がうんぬんとか今はどうでもいい。それより単純に蹴られた借りは必ず返す。私は基本ゆるく生きているが、やられたら根に持つタイプだゾ。これが血霧の里新忍刀七人衆だと屍澄真が言うと、ボルトが6人しかいねえじゃねえか!と突っ込んだ。しかし屍澄真はニヤニヤと笑い続けている。
枸橘君の背に、見覚えのない形の何かが背負われていることに気がついた。それは魚を横から見たような大層可愛らしい造形で、持ち手が二つ付いている。それが忍刀の一つに数えられる「ヒラメカレイ」であることと、枸橘君自身が屍澄真の考える忍刀七人衆最後の一人であることを声高に叫ぶ様子をどこか遠くで見ていた。相変わらず意識がぼんやりしていて、おまけに戦争なんて現実味がない話のせいか何もわからなかった。そもそもこのチンピラに真面目くさった枸橘君が付いていくとは思えない。…え?これすごい当たり前だけど付いていかないよな?ボルトは傷に呻いたものの、「戦争なんて、起こさせてたまるかよ」と強く屍澄真を否定した。

「第一、オレのダチをボロボロにした奴なんかに従ってたまるかってばさ。かぐらだって…かぐら?」

枸橘君と合っていた目が逸らされた。やめてくれよ、なんか、それでは、ダメみたいじゃないか。そこで枸橘君が屍澄真についていくのだとしたら、私がここまでボロボロになった意味がまるきりなくなってしまう。一応、昨日会ったばかりだけど友人だと思ったから、ボルトと枸橘君のために戦った私の気持ちを考えてくれ。昨日散々ゆぅじょぅを築いたと思ったのは気のせいだったらしい。逃げることしか考えてなかったとかそんなことは断じてないし、ボルトと私は一応頑張って戦ったんだぞ負けたけど。負けたけど!ここは、枸橘君にも気合を見せて欲しかった。優秀な霧隠れの忍者で、私たちを友人というならね。しかし、そんな私の期待とは裏腹に枸橘君は立ち上がり、屍澄真のほうへ一歩足を踏み出した。

「屍澄真さん。貴方ならもっと正しい未来を作れると、そう言うんですね?」
「ああ、この命をかけよう。生き恥を晒すつもりはない」
「おい、かぐら!」
「ごめん、ボルト。オレはやっぱり、どこまでいっても四代目やぐらの孫なんだ。オレの刀、手は血に濡れている。…行ってくれ」
「おいおい。オレはそいつを切れと」

言い終わるより先に、枸橘君がヒラメカレイを背から引き抜いて屍澄真に突きつけた。「ボルト、ナマエさんを連れて早く行ってくれ」「何を甘いことを!」と敵方の一人が叫んだが、屍澄真がそれを手で制した。

「いや、いい。可愛い後輩がオレに刀を向けてまで頼んでるんだからな。だがまあこの女は…」

動けないのをいいことに足でつつくなこの野郎、汚い。「こいつの"これ"は是非とも欲しい」これ、が何を指すかは簡単だ。血継限界の白眼は開眼したものを他人に移植することが可能であり、移植先でも問題なく使用することができる。かつてそれを恐れて宗家は呪印を分家に施していたわけで、今の時代でもその希少性は変わらない。むしろ積極的に忍者になる人間が少ない今、その価値はより高いのだろう。両目を抉られるというのは想像するだけでゾッとする話だ。私が開眼していることは多分、最初に霧が出たあの時にでもバレたのか。

「三大瞳術は今後のために是非欲しかった。ナマエちゃん、知らない里で単独行動は危ないぜ?」
「彼女はまだ木の葉のアカデミー生です。忍者ですらない彼らを犠牲にするというなら、オレは、貴方には従えない」
「おっと早とちりするなよ。お前がそこまでこの二人のお友達を大切にするっていうなら、別に構わないさ。…いいだろう」

枸橘君が突きつけていたヒラメカレイを下ろしたが、それは同時に取引が成立したということでもあった。私とボルトと見逃す代わりに、枸橘君は屍澄真についていくことを了承したことになる。
呆然と、去っていく奴らと枸橘君の背中を見送るしかなかった。ボルトは何やらまだ叫んでいたが、私はぐっと腕に力を入れた。傷だらけの体にビショビショの服が気持ち悪いがそうも言ってられない。重い体を引きずり這いずるようにしてボルトの近くまで行く。ボルトは「くそっ」と水面に拳を叩きつけていた。私は片手でボルトの服を鷲掴んで、「あいつまじでぶっ飛ばして。まじで…お願い…」と懇願した。ここまできたらあのチンピラに一矢報いるまで修学旅行なんかやってられるかってんだよ。枸橘君も何を血迷ったのかわからないが、あいつらについて行ってしまった。思春期だからね、グレたくなることもあると思うけど、それがテロリスト予備軍っていうのはまずいと思うよ。バレる前に連れ戻さないと、きっと忍ですらいられなくなってしまう。

「ああ、ナマエの分もきっちりぶん殴ってやるってば、うっ」
「ぼ、ボルトー!?」

意識失ってんじゃねー!チャクラの支えが失って段々と沈んでいくボルトの体を必死で支えながら、私自身も視界が狭くなっていくのがわかった。あ、これ死
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