実際問題精一杯



慰霊碑の前には私の食べかけの魚がそのままになっていた。や、やばい。幸いなことに誰からも突っ込まれなかったのでセーフ…だよな?あとで回収しておこう。そんなことは置いておいて、慰霊碑の前で黙祷を捧げた後、次に案内されたのは四代目水影の時代、アカデミーの最終試験が行われていたという場所だった。無機質で無骨で巨大なその建造物を、枸橘君は「本当に凄惨な歴史だよ」ときつく見据えていた。やっぱりさっき来たので私的には2回目の訪問になる。観光もクソもないので明日は絶対団体行動乱さないと固く心に誓った。

「けれど血霧は霧隠れになった」
「そんな昔の話かよ?実際、オレのじいちゃんは四代目水影…橘やぐらに殺されてる。これは、今も生きてる人間の話だぜ」

イワベエが、そんな枸橘君に食ってかかった。ここ最近妙にイラついているなとは薄々思ってたけど、なるほど、四代目水影に親族を殺されていたのか。修学旅行の話をみんなとしているときも「あんな里、ろくなもんじゃねえ…」とかなんとかふかしていた気がする。どうでもよすぎて今の今まで忘れていた。いつもの俺は一匹狼だぜアピールだと思ったゾ…。四代目水影がやばい奴だということは十分よくわかった。慰霊碑にも橘という名字は一切なかったし、この里の人間にとって四代目水影は全里民からの恨みを一身に受ける対象なのだろう。なんかそこまでくると逆に可哀想になってきたわ…そこまで一人に政策の責任を押し付けるのもどうなんだ、そこのところ偉い人に詳しく聞きたいものである。そして、そうこうしているうちにうちの正統派不良イワベエがオラつき始めた。やめてくれ〜。問題を起こさないでくれ〜。修学旅行終わってからなら一人でいくらでもやっていいから〜。

「…すまない」
「なんでてめぇが謝るんだよ。そういうとこ、逆にムカつくな…」
「それは」
「なめてんのか?昼間の不良のおっさんどもといい、てめえといい、どうなってんだよ血霧さんはよぉ!」

ちょっと待て。今聞き捨てならない言葉がイワベエから飛び出した気がする。おい昼間のおっさんってなんだ。んん〜?ここには昼間何もなかったって言った奴がいるな?「ボルト?え、おまさっき何もないって」と聞いてみたところ無駄にうまい口笛を吹き始めた。もう世の中の何も信用できそうにないぜ。あれこれ委員長の時も思った気がする。私が膝をついて絶望していると流石に哀れに思ったのか、サラダが「なんか、ごめん…」と申し訳なさそうな表情を見せた。一応私に押し付けた罪悪感は持っているらしい。でもごめんで済んだら警務部はいらないだろォん?
「いいや、逆に考えるんだ。もうこれ以上悪くはならないさ、と」と言うといのじんから「知ってる?ナマエそれ、フラグっていうんだよ」と至極当たり前のことを返されてしまった。めんどくせ〜!
ボルトの行動を甘くみていた私自身と、問題起こすなっつったのにやりやがった馬鹿どもに対する怒りとで頭を抱えていると、「なんだぁてめえらウルセェぞ」と青春ドラマもびっくりなほど不良イメージに忠実な奴らがいつの間にか私たちの目の前に現れていた。終わった…。なぜ適当に、ほどほどに、修学旅行を楽しむという5歳児でもできそうなことができないんだ…。

「んだテメェら」
「お前ら木の葉の人間だろ?オレたちの里で勝手にあちこちプラプラされたらたまったもんじゃねえんだよ」
「あ?」
「それにかぐらてめぇが引率かよ。そうやってしっぽ振って、まるで犬だな」

下品な笑い声が不良側から上がった。不良たちは霧隠れの里の額当てをしているので忍者ということになる。なぜだろう、これには流石に術無しでも負ける気がしないぜ。枸橘君は不良に対して「お前には関係ない」と毅然とした態度をとった。それでもなお詰め寄ってくる不良に、イワベエの方が先に痺れを切らして掴みかかっていく様子を見て私は泣き崩れる。「正気失ってんな」とチョウチョウがツッコミを律儀に入れてくれたがそんな場合ではない。

「やめろイワベエ。せっかくの修学旅行を台無しにするつもりかよ」
「おまえは〜ははん、うずまき家の坊ちゃんか」
「…親は関係ねぇってばさ」
「あるね、今ここでお前をしめちまえば、オレたちの名が上がるってもんよ!」
「あ」

不良の手には苦無があった。ボルトは流石に武器を向けられたので、多分躱すか殴るかしようとしたのだろうが、その前に割って入った枸橘君の手によって苦無は受け止められた。あいたたたた。グローブ越しとはいえ血が滴っていてグロい。もうちょっと目に優しい受け止め方はなかったんですかね。本人も痛いし誰も得しない。そうこうしているうちに生き生きし出したイワベエが不良の顔面に一発お見舞いして殴り合いの喧嘩になる。もういいや好きにして。イワベエの土遁でボコボコにされた不良は「きょ、今日はこれくらいにしといてやるよ!」とまたしてもありがちな捨て台詞で去っていった。イワベエも「おととい来やがれ!」と返す辺りお前ら仲良しか打ち合わせしてたろ。

「これで大丈夫」

委員長によって枸橘君の手には包帯が巻かれた。幸いそこまで深くはなかったようだ。「みんな、妙なことに巻き込んで、すまなかった。それから君も、君の言うことは最もだけど、やっぱり謝らせてくれ」とイワベエに繰り返し頭を下げる枸橘君にけっとそっぽを向いただけで、結局その場でイワベエが何か言うことはなかった。そうこうしているうちに集合時間になってホテルに戻ることになり、イワベエも大人しくなってずんずんと先生の後ろをついていく。その様子をちょっとばかし伺っていたが、イワベエの性格からしてもう一波乱くらいは余裕であるな。私の占い、よく当たるんですよ…?か、帰りてえ〜!
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