ときどき泣いてるよ



「…あまり楽しくないかな?」
「お、枸橘君?」
「ナマエさん、ずっと一人みたいだし気になって」
「いや、いやいや、そんなことはないよ。これは自分の問題だから」
「え!?どこか具合でも悪いんじゃ…」
「そういうことじゃないけど真実をいうのも辛いやつだこれ…もうそれでいいよ…」

ナイーブになってるのさ。そして海の広さに心を浄化している最中なのである。

「冗談だよ」

「問題って?」と干柿君がさっきまで座っていた位置に今度は枸橘君が座る。

「案内役の枸橘君に聞かせるような話じゃないしなぁ」
「あはは…かもね」
「始まりはそうだな、私の生まれからなんだが…」
「話すんだ…」

苦笑いされてしまった。でもこれきりの関係なわけで、普段話せないことを吐き出してしまうのもいいじゃないか、と思った。思ってしまった私は死んでくれ。そうはいいつつ枸橘君も姿勢を直してどうやら割と真面目に話を聞いてくれるらしい…ありがてぇ、ありがてぇ。こんな話は口が裂けてもクラスメイトには言えないからな。

「さっきの長十郎様の話を聞いてちょっと思ったんだけど」
「うん」
「まあ確かに昔の人間のゴタゴタは知らんけど、身内の話となれば、話は変わるなとも思うわけよ」

日向に稽古に行き始めた頃は、まだ宗家も分家もわかっていなかった。私に修行をつけてくれとヒアシさんに頭を下げたのが父さんだったと知った時に額の呪印を見たが、子供ながらに父親を尊敬した。自分を半分奴隷のような立場に追いやった張本人に娘を預けられるんだぜ?普通の神経じゃないわ。しかも父さんはこれっぽっちも宗家を許していないのも本人に確認済みである。だから、私は日向に関しての真面目な話をするのが一番嫌いだ。いらぬことまで考えて今のようになってしまうのがわかりきっているし、父さんからしたらありがた迷惑だろうことも理解している。

「父さんの中では日向との確執はまだ続いてるんだよ」
「ナマエさんは父親に気を使っているんだね」
「子供なりにね…。でも代わりに私が宗家にどうこうするってお門違いも甚だしいしてか私関係ないし。忍者だって、今の時代別にそこまでたいしたもんでも…」

やべ。現役の忍者相手にこの言葉はど直球に失礼だと思ってお口に急いでチャックをかけた。

「いいよ。オレだって高尚な理由があって忍者をしているわけじゃないし。側近にしてくれた長十郎様には感謝しきれないけど、元々は貧しい漁村の出だからね」

「食うに困ってってやつ」言いづらそうに枸橘君は視線を逸らした。意外や意外、里のために命を捧げます的な如何にもな理由かと思いきや、今までの真面目くさった枸橘君の印象に反し、随分と即物的な動機だ。へーぇ、と生返事を返す。

「ナマエさんは考えることを悪いと思っているみたいだけど、オレは大切なことだと思う」
「へ」
「忘れちゃダメだ。…そういうのは、うん」

……私は突っ込まないゾ。枸橘君は妙に現実味のある言い方をして海の方を見つめているが、つまりあれでしょ、何か本人にも心当たりがあるってことだ。まーた闇抱えてる系ですか、あ、そう。私のアラームがものすごい勢いで危険信号を放っているので、これ以上の会話はやばいと判断する。それに、話を聞いてもらい若干頭の整理もできたことだし、枸橘君にお礼を言って立ち上がることにした。次は確か記念碑に向かう予定のはずだし、日もそろそろ暮れてきている。修学旅行もまだ1日目だというのにこの先これでは思いやられるな。元々そこら辺を全部気にせずに他里で完全にハイになれる予定だったから、余計に私、撃沈。くそが、誰だドキドキワクワク修学旅行とか言ったやつ出てこい。

「そろそろ戻ったほうがいいかな」
「そうだね」
「悩みは片付いた?ボルトといい、君たちは本当にいい人たちばかりだ」
「イケてるメンズかよ…」

ときめきがメモリアルする前に早く引き返そうと枸橘君の背中を全力で押す。若干躓いてたので爆笑しておいた。
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