ハローきみの火の粉になる



あと1分で雷車が出発するというところで滑り込んだ私をサラダやチョウチョウは呆れた目で見ていたが、普段は決してそんなことはないのだ誤解しないでくれ。初めての里外旅行でテンション上がりまくった結果である。肩で息をして、持ってきた荷物を係員の人に預ける。なんで修学旅行に行くのに忍具を持っていくのが義務化されているのかは突っ込まないゾ。もう巻き込まれたくない。

「あれ〜、珍しいじゃんナマエが日向の服着るなんて。あちし初めて見たかも」

雷車で隣の席になったチョウチョウが朝っぱらからポテチ片手に物珍しげな表情を浮かべていた。私の今日の服装を指してのことだろう。

「まあね」
「どういう心境の変化?」
「修学旅行の間くらいはいいかなって」
「ふうん…お、おおお、海だ」

橋に差し掛かると霧隠れの里と木の葉隠れの里の間を隔てている大海が顔を覗かせた。生まれて初めて…というわけでもないが、皆それぞれ立ち上がって窓から景色を眺めていた。私は使い捨てのカメラを雷車の窓に向け何回かシャッターを押したあと、朝ごはんにと渡されたおにぎりを食べながら霧隠れの里のパンフレットを読み返すことにした。なんか周りでは霧隠れの里が田舎とかいう話が出ているが、これによるとずいぶん栄えている港町のようだ、どこ情報だそれ。元はずいぶん物騒な里という話だが、木の葉と同じように近代化が進んだ今や観光地として人気が高い。先日の水月さんからのお土産かぶったぜしまった、とも思ったが、実際に行くのとではやはり違うだろう。パンフレットを握りしめている私にサラダは少し可笑しそうに笑った。

「なんか、未だ嘗てないほどうきうきしてるね」
「こちとら生半可な覚悟で修学旅行来てないから」
「そ、そう…楽しめるといいわね…」
「サラダはボルトといちゃいちゃしてなよ」
「はあ!?」
「それな。いい加減犬も食わねーっての」
「チョウチョウまで…」

ボルトとサラダの間に何があったのかは知らないが、五影会談の日以降二人ともお互いに意識しあっているような雰囲気が見られるのだ。私が職員室で縛られてる時に多分できちゃったてきなあれなんだろう。え?違う?だいたい合ってればいいんだよこういうのは。おにぎりのおかかをごくんと飲み込んだ。びし、と指を突き出した。

「修学旅行で男女がくっつくなんてよくあるよくある」
「あちしにふさわしい男子はちょーっとこの中にはいないけどね?ナマエくらいならいい人いるんじゃない?」
「おい、なんか色々つっこみたいところはあるけど、まず失礼だな」
「え…?ナマエって人をそういう目線で好きになるの…?」
「私は一体何者なんだ…」

私は…誰だ?いやまあそういう恋愛絡みには一切縁がないし、私自身も特に興味がないので基本的にガンスルーで生きてきたわけだが…言っても私まだ十代前半だぜ?いいでしょ!別に!ぷんぷん!
それに、まず私は好きになった人がDV夫になる可能性を秘めてる場合は断固拒否する。このクラスは基本的に私に暴力的だから、冷静に考えなくてもやばくね?は…待てよ、もしや雷門君って御曹司だし一般的に見て最高なのでは…?んん、いや、やっぱりボルトとかのパシリだからだめか。そもそも雷門君ほどの優良物件が私を好きになるとは思えない。自分が選べる立場だとも思ってないょ…委員長には前に言ったけれど、ありのままで生きていきたい。ありの〜ままで〜。

そんな風に、一丁前に女子らしく恋愛トークなんかしながら乗っていると雷車は停車し、港に到着した。ここからは、船を使って霧隠れの里の里に向かうことになるらしい。今年から豪華になるとは言っていたが、片道1日かけて訪問するとは気合の入りようが違う。なんか今までのアカデミー生に申し訳ない。巨大な豪華客船にはプールまで付いていて、水着を持ってきた何人かは早速飛び込んでいた。私自身は優雅にクルージングを楽しませてもらうことにしよう。芋ジャーのようなあの水着を晒す勇気はない。
それに実行委員という立場上人数の確認や明日の予定を伝達しなくてはいけないため、常に手を開けておく必要があった。楽しい修学旅行の自由時間は何処へ…と項垂れながらふと反対側の甲板を見るとメタルが青白い顔をして蹲っていた。あれよりはましか。

「ナマエちゃんー!」
「どうしたの委員長」
「あのね、一緒に写真、撮れたらなって…」

やめてくれ、そのあざとさは私に効く。やめてくれ。水着のなみだやわさびも混じってきゃっきゃっうふふと写真を撮っていると、少し遠くの方にいたシノ先生が凄くいい笑顔で何回も頷いていた。今の所驚くほど順調でうちのクラスじゃないみたいだ。「はい、ピース!」わさびの念入りなチェックによってポージングさせられた写真の出来栄えはとても可愛らしい。私以外。こういう写真ってなぜか自分ばかり悪く見えるんだよな…。だから、私の分は遠慮しておくよ。
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