勝手に泣かないで
ようやっと見えてきた「火」と書かれた大門に、どっと疲れが押し寄せてきた。
「はー!結局あちしのパパは見つかんなかったなぁ」
「まだ諦めてなかったの?チョウチョウ…」
「そういや、この旅はそんな始まりだった」
かなり序盤で忘れてたけどそうだった。ていうかそもそもチョウチョウの父さんは普通に里にいるのだから出る必要もないのである。なぜそんな事でここまで大事になれるのか…これがうちのクラスマジックである。もはやおかしな忍術で呪われていることすら視野に入ってくるレベル。となるとまさか?私もか?否定しきれなくて泣いた。と、噂をすればなんとやらだ、少し先に行ったところに、任務帰りだろうか、チョウチョウの父さんであるチョウジさんと、猪鹿蝶トリオのいのじんの母さんいのさんが立っているのが見えた。…?なんか、チョウジさんのシルエットがおかしい気がする。
「チョウジ!任務の帰りだってばよ?」
「ああ、ナルトー」
「あー!サスケ君もいる!久しぶりじゃない!」
七代目やうちはサスケと同期である二人はお互いに親しげな様子を見せた。一方で、「え、あの、マッチョなイケメン…?」とチョウチョウが放心していた。は?…は?たたたっと駆け寄ってチョウジさんの掌を頭の上に乗せたチョウチョウはかっと目を見開いてこれだー!と指をさした。そもそも私には最初から情報が不足しすぎていて、今何が起きたのか全くわからない。
「え…何?どういうこと?」
「こっちが聞きたいわ」
「ていうかナマエはなんでそれ持って帰ってきてるの?」
「うちはくんのこと?」
「いやうちはくんって」
もう死んでるし持って帰っても怒られないかなって…。こっそりとポーチにつっこんだうちはくんだが、手先が微妙にチラチラ見えている。サラダに突っ込まれて慌てて詰め込み直したがポーチはおかしなほどパンパンに膨張していた。写輪眼もサラダによって潰されているし、本当の意味でただのマスコット、ただの抜け殻に過ぎないわけで、なんとなくその場に放置するのもはばかられ持って帰ってきてしまった。見つかったら気まずさ1000パーセントでドキがむねむねだがバレなきゃいいのよバレなきゃな。
それより、謎の術によってほっそりと痩せているチョウジさんの方が驚きだ。秋道一族の秘儀のようなものらしいが、つまり、それを習得すればチョウチョウもあんな感じにスリムになるということだろうか。それは非常に夢がある話だ。チョウチョウの顔は悪くないどころかいい方だと思うので、体型が変わった瞬間にうちのクラスの世界が広がるこれ。
「じゃあ、私はもう一人で帰れるんで…」
「もう行くの?」
「元々日帰りの予定だったんだよ遅すぎるわ」
「ああ、また巻き込んで、ごめんね」
「いやそれ自体はいいんだけどさ…なんか私だけ完全に場違いだし退散させて…」
この場には家族ばっかりで、完全に一人だけ浮いている。それに、なんだか早く家に帰りたい気分でもある。ついでに捨て台詞として「うちはサスケに、浮気は良くないと思いますってお伝えください」とだけ言い残して、七代目にもお礼をしてから私は一足先にこの場を去ることにした。
「色々ありがとうございました」と頭を下げると「いや、こっちこそサンキューな」といい笑顔が返ってきてその眩しさに全私が死んだ。