あんたの他にどう言われようと厭わない



「ごめんなさい」
「は?」
「いやー…あはは、ボクが鑑定したあれ、 別にカリンのじゃなかったっていうか…そこんところ訂正してこいって言われたから」
「ああ、頬が青くなってるのはそういう…」
「うん…」

そのカリンさん、とやらが誰かは知らないが。早朝のチャイムに叩き起こされた私はパジャマ姿のまま玄関を開けたのだが、なぜか菓子折りを持った水月さんが土下座をしていた。先日木の葉外で巻き込まれた騒動で、私はうちはサスケが他の女とピーしてサラダを生んだという衝撃的事実を知ったのだが、それは間違いだったという。そんなことのためにわざわざ木の葉まで来たのこの人。とりあえず近所の目が怖すぎるので立ってもらって菓子折りは頂いた。茶の一つでも出そうとか休んで行ってくださいとか言わないのは朝の四時だからである。こちとら疲れてんだよ、今日もアカデミーだおら。水月さんはもう一つの紙袋を抱えながら、「じゃ、これからうちはサラダのとこにも行かなきゃだから」と足早に去っていった。私の方がついでだったらしい。まあそうだろう。結果的に朝早くに起きることになってしまった私は、誰もいないリビングでテレビをつけた。朝のニュースはすでに始まっている。リポーターは今日行われる予定の「五影会談」についての説明をしているところだった。ああ、クラスに五影の身内が多すぎてイマイチ盛り上がらないっていうあれね。各里とのバランスをとるためのうんちゃらとかもよくわからない。それについ昨日までの七代目たちとの思い出がはっきりしすぎていて、いまいち威厳も感じられない。

「あ、これ霧隠れのお土産じゃん!ひゃっほー!」

チャンネルを変えながら袋の中身を見て思わずそう叫んだ。水月さんの持ってきたお菓子は、霧隠れの里で結構有名なものだった。やったぜ。

「なんか、すごい久々に学校来た気がする…」
「それな。あちしも」

学校に向かう道中でチョウチョウと遭遇したのだが、お互いなんか一ヶ月くらい学校に行っていない感覚を覚えていた。…え?学校に着いて教室の扉を開くと相変わらず朝っぱらから騒がしい我がクラスは、どうやら五影会談でどの影が一番すごいかという話で持ちきりのようだった。委員長やサラダに挨拶してから席に座ると、隣のミツキ君やらボルトも同じように影について話している様子。といってもだ、ボルトからすれば親父の話なわけで、「別に大したもんじゃねーだろ」という意見のようである。

「ボルトって七代目のどこにそんなムカついてんの…?」
「へ、親父がいかにダメ親父かってのを、オレがみんなに教えねーといけないんだってばさ!」
「ボルトは本当は七代目のことを凄く好きなんだと思うけどね」
「何言ってんだミツキ、オレは親父が誰よりも気に食わないんだよ」
「そう?でもこの間は…」
「だあー!その話はなし!なしだってばさ!」
「…」
「ナマエ、ボクの顔に何かついてる?」
「いや、なんかミツキ君の顔に既視感が…」

蛇…白い肌…うっ。つい最近見た気がするぞ…こう、なんか、やばい感じの。しかし毎度のことながらだいたいこういう時はいい予感がしないので、そっと思考回路を閉じた。そっとじ。

「なんかこう、凄い、あと少しで喉から出そう…あー」
「そういえば、あの後七代目には会えたの?」
「ああ、うん。それでちょっと世界の命運をかけた戦いをしたりもしたけれど、私は元気です」
「親父、なんか言ってたか?」
「うめえとかなんか適当なことは言ってた」
「やっぱりな!」

また一つ親子の間に誤解を生んでしまった音がしたが、見なかったことにして華麗にスルーする。横で憤慨しているボルトを放置して教科書を取り出した。もう本格的に卒業試験も近くなってきたので、流石に三日前どころか前日から始める試験勉強にも限界があった。留年だけはごめんなので、ちょっとは真面目に座学も受けようと思い始めている。思ってるだけだけどな!あと横二人天才は目障りなので近寄らないでくれ。

「へっへー、余裕のないナマエちゃんにオレが教えてやろーか?」
「黙れ小僧!」
「んだと!?」
「はわわ、ナマエちゃん、ボルト君、け、喧嘩はダメだよ…!?」

取っ組み合いの喧嘩に発展しかけたところに委員長が駆け寄ってきて待ったをかける。とはいえそんなことで止まるわけもなく、お互いの髪やら服を掴んでぎゃいぎゃいと騒ぐ。結局こうなるんですわ。そんな私たちに対してミツキ君は相変わらずニコニコしたままだし、サラダは本から一ミリも視線をずらさない。正直、ボルト相手の喧嘩はきついが、術なしの純粋な殴り合いなら負ける気がしない。ゴリラ系女子で売ってるんで四苦夜露。え?ゴリラはサラダ?あれはゴリラっていうかもう別次元だから…。
結局その喧嘩は「お前ら何をしてる!」というシノ先生の制止が入るまで続いた。

「全く、ナマエ、お前は時々ボルトやシカダイより突拍子がなさすぎるぞ」
「自分直感を大事にするタイプなんで…」
「時にはそれも大切だが、今回はどう考えてもおかしいことはわかるな?とにかく、五影会談もある、近々修学旅行も控えている。落ち着きのある行動を心がけろ」
「はい」

おうおう、なぜ私だけが呼び出されてるんだ畜生。怒られてしょんぼり笑しながら職員室を出ると、珍しくボルトを伴わずにミツキ君が一人で立っていた。

「怒られたの?」
「おっと、職員室から出てきた人に言ってはいけない台詞ナンバーワンだゾ」
「へえ、そうなんだ」
「で、どうしたの?」
「ナマエがボクの顔を見て何か言いたげだったから、用があるのかなって」
「え、あ、そうなの」

いやほんとにただ単になんか見覚えがある気がしただけなんで別に何も用とかありません。ミツキ君は律儀にも待っていたようだが返す言葉もなくあ、うん、そうなんだ…と沈黙を広げるしかない。

「五影会談でも見にいけば…?」
「ボルトは七代目には会いに行きたくないみたいだから」
「あっそ。じゃあ私も帰るよ、待っててもらって悪いけどさ、また明日」
「待って。ボクも君に聞きたいことがあるんだ」
「ホワイ?」
「目の調子はどう?」
「目…白眼?いやなんとも」
「わかった」
「突然どうした」
「頼まれたからね」

なんだそれ。ぱちぱち、と目を瞬かせた私に、「また明日」とミツキ君の方から去っていった。まったくもってよくわからんが…うーん、実家のような安心感。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -