豊かであれ



翌日、私は母方の大工業の現場でおにぎりを食べていた。というのも親戚が「社会勉強したい?ならうちを見学しとけ、忍者なら荷物運びくらいの役には立つだろ」と言って私を呼び出したからだ。たとえできてもいたいけな女の子に角材を運ばせるとはなんということだ許せん。でもお小遣い貰えるからやっちゃう…。そうして指示されるがままにあちこちを行ったり来たりし作業に奮闘して、時折怒られつつも何とか午前中を凌いだのだった。今はお昼休憩中、埃のついた頬もそのままにおにぎりをかっ食らっている私に「お駄賃だ」と親戚のおじさんが封筒をくれた。中身を覗くと一楽のラーメン無料券。地面に叩きつけた。やってられっかおめー!「ふつー現金支給だろここは」「子供が贅沢言ってんな」「私の午前中を返せ」「一楽うまいだろ!」「そうだけどそういうことじゃない」
もういいや帰るゾ。作業もほとんど終わっているし問題ないだろう。やれやれ、時間を無駄にしてしまった。でもこの無料券はいただいていく。現場を後にした私は、早々に自宅に帰ることにした。近代化の今、うちの大工業も大手の企業に押され気味で、今回の現場も町外れの小さな建物だった。帰り道には木の葉の里の大門を通ることになる。火の文字が刻まれたその巨大な門が見えてきて、私はふと立ち止まった。開いている。珍しいこともあるものだと思ったのだが、その前に立つ見覚えのある姿に思わず「サラダとチョウチョウ?」と声をあげた。二人は振り返ると「ナマエ!」と駆け足で近づいてきた。

「どうしてこんなところに!」
「うちのおじさんの手伝いしてた。二人は…」
「あちしらは今から本当のパパを探しに行くの。あんたもくる?」
「は?チョウチョウはどう考えてもチョウジさんのむすもがっ」
「いいから、ナマエも一緒に行こう、ね?」

息ができなくなるほど渾身の力でサラダに口を押さえられて、そのまま里の外まで連れ出された。
「やっぱあちしら親友だもんね。ナマエだけハブるのもどうかと思ってたとこだし〜ちょうどよかった」と、チョウチョウはご機嫌だが、私には何がなんなのかさっぱりわからなかった。現状の説明を求めると、サラダはどうやら父さんに会いに行きたいらしい。それ自体は別に咎められることでもなければご自由にどうぞといった感じだが、子供だけで里の外というのは、抜け忍の概念が薄くなった現在でも普通にあかん。アカデミー生といえど、それこそ親に相談してから…という私の意見は却下された。いや、その、行くにしても装備がね?食料がチョウチョウのポテチだけとかもうね。やばい。はー、いやいつものことなんでもはや何も気にしないが。私としては日帰りピクニックくらいの感覚である。どうせチョウチョウのことだ、直ぐに根をあげるだろうし、サラダにしてもまさか本当に見つかるとは思っていまい。

「いいよ。手伝おうか」
「決まりね!あちしの〜あの超マッチョでカッコいいパパを見つけるの〜」
「マッチョ…?」
「あ、ハハ…」

笑ったサラダの頬は不自然に引きつっていた。どういうことだ…?と私が首を傾げたところ、不意に「隠れて!」とサラダが叫んだ。言われるがままに茂みに体を潜めると、なんと、先ほどまで私たちがいた場所に、今度はあの七代目と、相談役のシカマルさんが現れた。「じゃあそろそろ行くわ。ボルトに謝っといてくれ」と七代目が口にした瞬間、私とチョウチョウはサラダに思いっきり引きずられて、茂みから飛び出す羽目になった。というか転んだ。「何すんだこの」と思わず素で責めてしまったが、「ごめん!大丈夫?」となぜか向こうの方が怒ってらっしゃった。なぜ故に。怖気付いてあっうんだいじょぶと返したが、サラダは何かに焦っている様子ですぐに駆け出した。シカマルさんの立っている場所まで行くと、なぜかボルトとミツキ君もいる。この面子は…嫌な予感がしますねえ。ボルトは七代目にお弁当を渡しにきていて、ミツキ君はそれにいつものごとくくっついていたらしい。私はサラダとボルトが例によって揉める様子を数歩下がった位置で静観していた。

「私たち、これからちょっとした旅行だから。ついでに七代目に渡してあげるよそれ」
「いや…いい。持って帰って母ちゃんに思い知らせてやる。母ちゃんが弁当作ってるの知っててこれだからよ」
「私が届けるって言ってんの」
「いいっつってんだろ」

「いらないならあちしが食べて…」とチョウチョウが言いかけたところ、なんとあの、あの!ミツキ君が空気を読んでチョウチョウを連れていった。なんか知らんが感動した。私が涙を堪えていると、対してチョウチョウは「告る気?」と的外れなことを口にしていたが、うーん、なんか今日のチョウチョウはいつにも増しておかしいな。やはりポテチとバーガーの食べ過ぎか…。「症状進んでるね、君」とミツキ君は冷静なツッコミをした後、こちらを向いてにっこりと、妙に嫌な雰囲気で笑った。

「ナマエも相変わらず、面倒なことに首を突っ込んでるね」
「いやーもういつものことだよね」
「なるほどね、諦めも大事ってことかな」

まあそれも多少ある。父さんと過ごした記憶のない友達が探しに行きたい、と言い出したのを突っぱねるなんて非道は私にはとてもとても。
そうこうしているうちに、サラダとボルトの話はまとまったらしい。サラダはうちはサスケと交流があるだろう七代目に話を聞けば、その居場所がわかると思っていた。だから、代わりにその弁当を運ぶと。シカマルさんが「ナルトは錏峠の方向だ。それにそいつも行くなら追いつくだろ」と私が指さされた。あっちゃーやっぱそうなるか。やれやれと肩をすかしつつ、門の前の三人と別れて走りだす。
そうしてチョウチョウの意味不明な発言やらに腹筋を割られつつ、暫くしてから、言われるがままに白眼を発動させた。

「!?!?」

「どうしたの?」と言うサラダを他所に、私は勢いよく付近の木を振り返った。い、今、なんか変なマスコットのような、気味が悪い謎の生き物がいたような…。その生き物が白眼の索敵に引っかかったのは一瞬だったので、確信とまではいかなかったものの私は寒気がして両腕を擦った。なんだあれ里の外怖すぎかよ。それと同時に、そのキモいマスコットの目が赤く光っていたような気がしてさらにあり得ないな、と首を振った。

「大丈夫、顔色悪いよ…?」
「なんか福笑いの犠牲者みたいなのがいた気がして。いや、気のせいだな、うん」
「ポテチ食う?」
「要らない」

白眼を学ぶ過程で、それ以外の瞳術も、メジャーなものに関しては大概抑えてある。そして赤い瞳術、というと私の記憶には一つしか引っかからなかった。しかしこの世界でそれを持てる一族の人間は、最早二人だけであることも知っている。思わずごくり、と喉を鳴らし、静寂に包まれている周囲の空間を警戒した。そして白眼がしっかりと機能していることを再度意識してから、腰につけたポーチの中身を確認する。苦無も手裏剣も無事だ。よっしゃ、こここ、こいよ、いつでも受けて立ってやるぜ〜。
隣のサラダとチョウチョウにこれを伝えるべきか悩んだ。意気揚々と弁当を届けることに意気込んでいるサラダ。息が絶え絶えのチョウチョウ。前を向き直した私は頬を掻いて思案する。戻るか、進んで七代目と早いところ合流した方が安全か。いやま、見間違いの線の方が濃厚だしな…。それでも自分の体質的に、どう考えても無事に帰れる未来が見えないことが問題だったが、結局は多分大丈夫だよ、多分な…、と自分に言い聞かせて、進む速度を速めたのだった。
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