さらばモンスター



帰りに雷バーガーにでも寄ろうと思ってやってきたのだが、窓越しに雷門君とイワベエが居たので立ち止まった。イワベエはなぜか逆さで天井にぶら下がっていて、そんなイワベエに逆さの参考書を見せている雷門君。何も見なかったことにして踵を返した。

「イワベエの勉強に付き合ってるらしいわよ」
「あれが…?」

翌日、サラダに話してみると赤点回避のため雷門君と勉強をしているしい。と同時に壁登りができない雷門君がイワベエに教えてもらっていると。へえ、と私も壁登りの練習をしながら少し離れたところで集まっている男子勢の様子を伺った。今度は壁にくっついて参考書を広げている。私自身はいよいよもってチャクラコントロールができていないことをシノ先生から指摘されて、サラダに教えてもらっていた。サラダは相変わらず難しそうな本を読みながら片手間で指示を出してくる。どうやら私はチャクラコントロールというよりか、チャクラの出力が苦手らしい。なるほど。白眼で自分に流れるチャクラの量を見て調整しながら壁に張り付くと、なんとなく歩けたのだった。
そうして暫くすると、サラダは用があるといって帰ってしまった。私は昼食をとるかと汗を拭い地面に着地したのだが、そこにニヤニヤした表情のボルトが手に何かを持ってやってきた。訝しげに私が眉を寄せると「差し入れだってばさ」とハンバーガーを渡された。なんだ〜気がきくじゃないかあ。

「ありがとう」
「気にすんなって!ナマエも頑張ってるみたいだしな!」

いただきますと包装を開けて大きく一口を食べた。
瞬間私は火を吹いた。別に私は火遁を使えるわけではないゾ。

「か、か、か、か」
「ぎゃははは!引っかかったってばさ!」
「おま……許すまじ…ボルト…覚えてろよ…」

よく見ると、遠くの方にいる男子全員口を押さえて肩を震わせている。雷門君だけがハンバーガーを片手に狼狽えていた。男子たちの持つハンバーガーは私が今食べた激辛バーガーとパッケージが一緒で、多分同じ目にあったのだろう。人の不幸で飯がうまいというやつだ。なんということだ、許すまじ。水、水、と水道を探しにダッシュした私は去り際ボルトに中指を立てた。水道にたどり着いた私が水をぶっかけて口の中を冷やしていると、「ナマエ何してるんだ、これ」とふいに背後から話しかけられて振り返る。この独特な語尾を間違えるはずはない。そこには木の葉丸さんがいた。
たまに特別講師としてアカデミーにやってくる彼はボルトと顔見知りらしく、うちの生徒とも仲が良い。私も例に漏れずわりと話す方だった。しかし今日木の葉丸さんが来るとは聞いていなかったので首を傾げたところ「お前らの普段の生活も覗いて、スリーマンセルの時参考にするんだな、これが」と人差し指を立てて説明された。うわ、プライバシー皆無かよ…。忍者サイテーだな。忍の汚さにショックを受けつつヒリヒリとする口もいい加減治ってきたので、タオルで顔を拭きながら先ほどの質問に答えることにした。ボルトの悪戯はこのクラスに入れば嫌でも味わうが、今回のは地味にかなり辛かったゾ。残ったバーガーは木の葉丸さんのポーチに無理やり突っ込んでおいた。まあまあ、あとで小腹が空いた時にでも食べてくださいよお。かなり抵抗されたが生徒という立場を利用してゴリ押しすることに成功した。

「…で、定期試験はどうだ、受かりそうか」
「いやぁ、あっはっはっ」
「お前第一志望忍者って書いてるんだろこれ!たく、ヒアシさんも期待してるって言ってたぞ、もうちょっと真面目にやれ」
「塾の先生に進路先までとやかく言われるのはちょっと…」
「日向家を週二の塾扱いって、なかなか大者の自覚あるのかお前…」
「いやいや。でも私、忍者の才能あると思いますか?」
「さあな!そんなのは自分が決めることだとオレは思う!でも実力的な意味でいえば…、ナマエも含めて、お前たちの世代は期待がかかってるんだよ。なんたって七代目の息子を筆頭に粒ぞろいだ」

「ま、この天才忍者木の葉丸様には、まだまだ及ばないがなこれ」と鼻の下をこする木の葉丸さんは自覚のあるナルシストだ間違いない。それで、ほーん、期待がかかっているとは初耳だった。私は別に出世欲はないので、スリーマンセルになったメンバーに合わせて適当に活動できればそれでいいと思っていたのだが、そう言われれば悪い気はしない。あれ、そもそも私は忍者になるのか…?なんか最近の流れ的に私は忍者にならなくてはいけない的な雰囲気だが、全然そんなことはないはずだ。はず…だよ、な?少し雲行きが怪しくなってきた気がする。まだ私はどちらの道もフラットに見ているので、勘違いしないでほしい。ただ職業体験もろくに一般的な体験をできなかったので、比較材料がなかった。今度の修学旅行とかではもうちょっと社会に触れたい、そんな気持ち。

「オレとしては、忍者になってもらいたいがな」
「え」
「なんたってナマエはどこでもいい緩衝材だ。このクラスでのらりくらりとやっていけてるのは大したもんだこれ」
「わりと毎回巻き込まれている気がするんですがね」
「ナマエのそのゆるさが場を和ませるんだぞ」

うんうん、と頷いている木の葉丸さん。うっそだろおい。ゴースト事件のあれやそれやもゆるかった…?いや、断じてそんなことはない。寧ろ死にかけたのだからもう少し周りに怒っても良かったのでは…?あっ…。私は久々に気がついてはいけない事実を察し思考するのをやめた。それしても、うーん、忍者ねえ。がしがし、と頭を掻いてもう片方の手を腰にやりながら、私は木の葉丸さんと別れたのだった。最近の騒動しかり、知れば知るほど忍者の闇が深すぎてはいやりまぁすというのはどうも気が引ける。それよか私は数日後のテストに受かるのだろうか。そうだ、そっちの方がよほどやばい。

「まったく、目先のことだけで頭いっぱいだよ」

結局その日はそこで切り上げて帰ることにした。数日後のテストにはなんとか壁登りの練習も間に合って受かったのだが、私以上に練習していたはずのイワベエと雷門君が試験会場に見当たらなかった。これで落ちたら留年なのに大丈夫なのか。ああでも雷門カンパニーの圧力でなんとかなるかも知れない。やはり持つべきは権力者の息子の友人だ間違いない。冷静に考えて雷門君の同級生というのはかなり美味しい立場なのでは。いやいやいかん、今頭に煩悩が。
「先生、少し待ってやってくれってばさ!これはその…あれだ、バーガーっていうか、オレのせいかもしれないんだってばさ」とダラダラ汗をかきながらボルトが時間の延長を講義している。隣のシカダイにこそっと話を聞いたところ「あれで腹下したんじゃねーの」とのこと。ああ、あの激辛バーガーか。確かにあの後のトイレは地獄だった。しかしその後シノ先生が時間を伸ばすことはなく、試験は終了した。おつかれ雷門君、イワベエ。学年違っても私たち友達だから気にするなよ。
しかし、次の日になって二人の名前もなぜか合格者欄に載っていて、ま、まさか、本当に…と私は震えた。これから雷門君には逆らわないでおこう。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -