なんで来ちゃったかな



「ちゃん……ナマエちゃん…!」
委員長…提出物は当日になってからが本番だって…。

「何馬鹿なこと言ってんだってばさ!」
「いっ!」

イタァアアイ。誰だ今頭を叩きやがった奴は。お?お?やるかおら。しかし、文句を言うより先に揺れる体に、目の前のもふもふを握りしめた。私は今、何かもふもふとしたものに包まれていた。そして、もふもふは空を飛んでいた。否、飛び上がるもふも…鵺の体にしがみついていた。な、なんだってー!体の節々が痛んだが、崩壊する周囲の空間に落ちたら死ぬことを悟った私は気合いで体勢を保ちながら叫んだ。私が気絶している間に、状況は大きく変わったようだった。委員長がいつものように目に光を宿しているし、さっきまで攻撃的だった筈の鵺が私たちを助けてくれている。やだ、もしかして私、おいてきぼり…?でも、ボルトの表情を見る限り、やはりこの男がやってくれたに違いない。で、どうやらいざ帰ろうと思ったはいいが、その道がわからないという。委員長によるとここは木の葉の里とは全く別次元の、世界そのものが違う空間らしい。だから戻り方もわからないと。諦めんなよ、あきらめたらそこで試合終了だよ。大きく体を揺らしながら瓦礫を避けて走る鵺。風に体を持っていかれそうになりながら、そんな時委員長が私の方を見て叫んだ。

「ナマエちゃん!私!本当に、ごめんなさいっー!」
「え?聞こえなかったから大きな声でもう一回、さんはい」
「ナマエちゃん、ありがとう…!」
「はい?」

ごめん、何一つ聞こえなかった。ニコニコと満足げに笑っているが、何も伝わってこないゾ…。ボルトもうんうん、と頷いているが当事者である私自身がイマイチ腑に落ちない幕引きとなった。感謝をされているのだということはわかったが、なんかこう…感動が足りない。置いていかれた感が否めない。長い腕を伸ばして、姿の見えなかったミツキ君も鵺に飛び乗った。これで全員が揃ったことになり、あとは帰るだけ…うん。ボルトが「あそこだ!」と指差した先には淡く光る出口のような場所。ボルトにはその先に現世に帰るための道筋が見えているらしく、鵺がその手前で私たちを降ろしてくれた。委員長が鵺を見上げると、甘えるように喉を鳴らしながら擦り寄っている。え、…え?鵺ってこんなゆるキャラだっただろうか。やはり帰ったら説明してもらわなくては気が済まないからなこれは。崩壊は相変わらず続いている。しかし私たちを置いた鵺は、その崩壊の中に飛び込んでいってしまった。委員長が思わず、といった感じで手を伸ばしたが、ボルトに止められる。
委員長にとって、鵺は兵器という風だった筈だ。しかし、今のあの二人の様子を見る限り、そうでもなかったらしい。

「こっちだ!」

振り返っている暇はなかった。私は軋み痛む体に鞭打って必死で走った。途中転びそうになるとミツキ君が支えてくれて、しかし感謝するのも今までの展開的にアレだな…と思っていると、「ボクはボルトの可能性に、賭けてみようと思ったんだ」とにっこりと笑いかけられた。あ、そう、いいんじゃないかなそれでミツキ君がいいなら…ともはや理解するのは諦めた。意味わからない、されどボルトを与えておけば特に危険人物でもない。この一件で私のミツキ君に対する印象はここで落ち着いた。ちなみに委員長は美しい薔薇には棘がある、ボルトは馬鹿かつ主人公、以上。
そうして暫くの間狭い洞窟を走り抜けていると、ボルトがある一点を指差して「あそこだ!」と叫んだ。なんの変哲も無い壁にしか私には見えないが、ボルトにはその先でみんなが私たちを探している様子が見えるという。半信半疑でお先にどうぞ、と場所を譲ると、ボルトが壁に腕を突っ込んだ。しかし土遁でも無いのに腕が埋まるわけがない。なのに空間がぐにゃりと歪んで、ぽっかりと穴が空いた。え、まじ?本当に…?しかし行きと違って自分の意思でこのよくわからない空間に突っ込むというのはなかなかに勇気がいる。びびって入るのに躊躇しているとボルトに腕を捕まえられた。体が引っ張られて、無理やり入れられる。ずぶ、と肉体が沈んでいく感覚はお世辞にもいいものとは言い難かった。お、お前ェ!ちょっと待てって言っただろ!無念。私は一番先にこの謎の空間に放り出されたのだった。

その空間の中で、私は唐突に、あることを思い出していた。走馬灯のように駆けていく、多分、アカデミーに入ることが決まる前の記憶だった。

「父さん」

見たことがある、父さんの呪印を。一族に対する復讐心が、ないわけではないことを。ああ、だからか。だから、委員長に復讐は無駄だと言ったのか私は。簡単なことだった。私自身がそう思っているから、そう言ったんだ。いやほんと、死ぬほど不利益だよ。
独りよがりで委員長に綺麗事を並べていたわけではないことに、心底よかったと思った。

すぐに体が再び引っ張られる。今度はどこかに放り出されるような形で、見慣れた空と森の中に、私たちは全員で倒れ込んだ。一番最初に入ったので一番最初に出ることになり、必然的に折り重なった体は私が一番下になる。ふええ、もうこんなのやだー。というか私が一番動いていない気がするのに一番ダメージ負ってるんですよまじ。「早くどけ…」と唸っていると、「ボルト!なんで空から!?」とシカダイが駆け寄ってきた。後ろにはいのじん、雷門君もいる。どうやら、夜中に姿をくらました私たちを三人で探していたらしいが、まあ異世界に居たから見つかるわけもないわな。でも、この三人が私たちの名前を呼んでくれたから、ボルトが出口を見つけることができたのだ。「お前らが呼んでくれたから出口がわかったんだってばさ!」とボルトがにかっと笑うと、三人は目を丸くしては?という表情で固まった。無理もない。

「ナマエが隠し事してるってのがどーも引っかかっててな。それでこの騒動だろ?だから三人で探してたんだけどよ…で、なんでそんなボロボロなんだお前ら」
「それは…」

ボルトが言いかけた時、遮る声があった。

「なぜ、キミたちこんな時間にここに?」

うええ、いつの間中私たちを囲むようにして木の葉の額当てをつけた忍者がたくさん立っていた。その中で目の前まで歩いてきたのは、黒髪に白い肌の男性。「ボルトたちを捜してただけだよ、父さん」と、父さん、だと…?いのじんの言葉に耳を疑った。おま、いのじんの父さんってこんな美形だったのか。言われてみれば目元が似ていなくもない気がしないでもないような。いのじんの母さんは花屋なのでたまに会うことがあるが、父さんの方は初めてお目にかかる。ついつい二度見してしまった。拍子に捻っていた足をさらに悪化させる羽目になった。南無三。
いのじんの父さんは委員長を自分と似た境遇だと言って、力にならせてくれないか、と手を差し伸べた。委員長はその手を取った。

「委員長!」
「ちょっとだけ、話してくるだけだから」
「過去の亡霊が起こした事件だ。彼女を悪いようにはしない」

委員長と同じ、というと、根の出身なのだろう。そんな人になら、委員長も洗いざらい吐けるだろう。友達の役割はここで終わって、ここからは大人の仕事の時間というやつだった。私たちは連れていかれる委員長の姿が見えなくなるまで見送っていた。ボルトによるとあの時崩壊に消えた鵺はチャクラのほとんどを失ってか細い存在になったのだという。だけど、それでも生きている。お、それはつまりマスコット狙いかな?委員長が涙ぐみながらはにかんでいる横で私は商品化を考えていた。

「ナマエ〜」
「著作権料はちゃんと払うって」
「はあ、意味わかんないこと言わないでよ。大体話さなかった挙句に傷だらけになってるし、ちょっとは反省したら?」
「うわで、出た〜、いのじんの意味不明マジ切れ〜」
「何それすごいむかつく」
「おいおい、今お前らのノリは着いていけねーぞ。ねみーんだからめんどくさいことさせんなよ…」

ふわあ、と欠伸をしたシカダイ。よく見ると空はすでに夜明けだった。どうりで眩しいはずだ。

「まあまあ、いのじん君も僕らもすごくみんなのこと心配してただけだから…それで、ボルト君たち一体何があったの?」
「それな…。とにかくよかった!戻ってこられて」
「なんだそれ!」
「今度ゆっくり話すって。とにかく一件落着だってばさ!」

がばーっと両腕を広げて、ボルトは今回のゴースト事件の幕引きを告げたのだった。長かったような、短かったような。一先ず家に帰って寝たい…、と思ったが遥か向こうからやってくる一番電車に、あっ…これから学校…と非情な現実に絶望する。全員無賃乗車で雷車の上に飛び乗って夜明けを見ながら、私は擦り傷だらけの頬を拭ったのだった。普通に痛くて泣いた。
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