見ようとすりゃあ意外と見えるもんですね



ゴースト事件収束から数日後、委員長は学校に来ていない。しかし授業は当たり前のように進むわけで、今日はスリーマンセルで実践演習を行うことになった。チョウチョウは猪鹿蝶、サラダはイワベエと雷門君のチームに入ってしまい絶賛ぼっち中。一人で突っ立っていると隣のメタルも相手がいないのかオロオロしていた。肩を叩いた。仲良くしよう。奴らによぉ〜見せてやろうぜ私ら体術コンビをよお。ついでに最近の恨みも晴らそうではないか。

「よろしく、メタル」
「ナマエさん…!」

いえーい。そうしてハイタッチしたりしてみたが、残りの一人が足りなかった。そもそもうちのクラスの人数的に必ず一人か二人はあぶれるのだ。毎回こういう時はフォーマンセルからのローテーションが通例で、他に二人組はというと、すでにボルトとミツキ君しかいなかった。この演習終わったな。

「ふむ、人数の関係上ボルトたちとメタルらはフォーマンセル、試合ごとに入れ替わって、必ず全員が一回以上参加するように」
「はい!」
「誰が先に行くってばさ?もちろん、オレは出るけどな!」
「ボクはボルトと一緒がいいな」
「残りは…相手は猪鹿蝶か…まあメタルでもナマエでも大して変わんねーってばさ」

「でも相手はシカダイ君ですよ?あちらの作戦を見破るという意味なら、ナマエさんが適任かと!」とメタルの冷静な分析は確かに一理ある。シカダイの影縛りは奇襲前提の術で、私は相性がめっぽう良い。おまけに向こうがそうであるように、私はチョウチョウやいのじんの戦法をよく知っている。だがしかしそれはこの二人と抜群の連携が取れた上での有利条件だ。最近この二人とよく組んでる気がしないでもないが、うーん、無理みたいですね。でもメタルくっそあがり症だしな…。結局私が出るということで話はまとまり、配置に着く。ようやく工事の終わった校舎の撤去前の骨組みの上での演習は、シノ先生が私たちに成功体験を教えるためのものらしい。鉄骨の上で軽くストレッチがてらジャンプして腕を伸ばした。ちら、と地面を見る。かなりの高さで、落ちないことを祈るばかりである。

「ナマエ、これ勝ったほうが昼にお菓子奢るってのはどーお?」
「ええ…私は別に」
「いいから、決定ね」

あっはい。やばい、俄然負けられなくなった。チョウチョウにお菓子を買わせたら私の数ヶ月分の小遣いが容易に消し飛ぶ。事件の時の痣やらがまだ残っていて痛いので、適当に流そうと思っていたのになんということだ。そして、シノ先生の掛け声で演習がスタートした。私はシカダイを抑えるようにボルトから指示されたので、そちらに跳ぼうと鉄骨を蹴った。しかし眼前に立ちふさがったチョウチョウの拳にすぐに踵を返す。その顔面すれすれのパンチに彼女のポテチに対する執念を感じる。や、やられる…!私の財布が…!「よし、デブはそのままナマエを抑えとけ!」といのじんが叫んで超獣偽画を発動させると、気色悪い何かの生き物が体を唸らせながらミツキ君に向かって行く。どうやら目くらましのための破裂式になっていたようで、飛び散った墨がミツキ君の視界を覆うと、その隙にシカダイに影縛りをされてしまった。チョウチョウを振り切ろうにも、私の術は基本相手を殺しにかかるのが前提で無理やり突破というのはハードルが高い。攻撃が当たらないので負けることはないが、いまいち火力が足りなかった。

「だ、けど…どっせーい」
「あっ、」
「ごめんチョウチョウ、あれ今月発売のゲーム買う予定だから…」
「あちしのポテチ!」
「ふざけんな私の財布だよ」

さてはこいつ私の小遣い日把握してるな?そうはさせないゾ。チョウチョウが私に殴りかかった際にできた隙に、足払いをかけて転ばせた。狭い鉄骨の上ではそれだけでもバランスを大きく崩すことになる。チョウチョウの大きさなら尚更のこと、落下していくチョウチョウの般若のごとき形相に背筋が震えた。戻ってくるまでに試合を終わらせないと今度はこっちが殺される。自称動けるデブは直ぐにまたやってくるだろう。よしフラッグとるぞとるぞ〜とジャンプしようとした瞬間、鉄骨全体が大きく揺らいだ。

「何やってんのミツキ君」
「ボクも、新しい選択肢ってやつに挑戦してみようと思って」
「現在進行系で鉄骨ごと落下しているのは?」
「作戦だけど」
「この野郎」

ミツキ君の放った風遁をシカダイが避けたことで、代わりに鉄骨が切り刻まれてしまったらしい。しかしそれ自体が作戦とはどういうことか。ふざけるなぁ!と叫びながらもなんとか着地には成功した。最近のミツキ君はちょっと親しみが持てるようになって来たのはいいのだが、もうちょっと常識を学んでもらいたい。あの狭い範囲でカマイタチ使うなよ…。ボルトは彼に一体どんな教育をしているのか。幸い建物自体は無事で、上を見上げるとちゃっかりボルトがフラッグをゲットしていた。「オレたちの勝ちだな!」というかボルトの勝ち。私はこれをチームとは呼ばないゾ。メタルが私たちの方に駆け寄ってきて歓声を上げたが、君それ絶対騙されてる。見て、チームメイトのはずの私たち危うく鉄骨の下敷き。

「ムチャクチャなことしやがって…」
「何言ってるの?皆がいつもやってることじゃないか。それにボルトは僕のやろうとしていたことに気がついてくれたよ」

お、そうだな。私は気がついてなかったというか知らされてなかったけど。

「はは…バカが二人に増えちゃったよ」
「ナマエさー、お菓子はやめて帰り雷バーガー行かない?新発売のシェイクあんだよね」
「やったー、チョウチョウの奢りだわーい」
「デブとナマエは切り替え早いよね…」

するとボルトが降りてきて、「どうだシノ先生!…あれ?先生は?」と周囲をキョロキョロと見渡した。確かにシノ先生が見当たらない。職員室にでも行ったんじゃないのかと私は特になんとも思わなかったのが、サラダによると委員長がどうとか言って何処かへ消えたらしい。委員長についてはあれから音沙汰ないので気にはなっていたところだったが、シカダイたちが何やらコソコソしているので聞き耳をたてると、転校するかもしれないという。今回の事件を担当していたいのじんの父さんが、それらしい資料を集めていたと。委員長と仲の良いわさびとなみだはその話に勢いよく食いついて「聞いていない!」と目を釣り上げた。私は騒つくみんなを少し離れた位置から見ていた。そうか、転校か。委員長が決断したことなら騒ぎ立ててもしょうがない、まあ、寂しいと思わなくもないけれど。ふと見ると、正門のところにいつの間にやら戻ってきた様子のシノ先生とバッチリ目があった。ちょんちょん、と門の後ろを指差している。んん?

「ん?」
「あっ!先生!」

みんなもシノ先生に気がついた。何も言わないシノ先生に全員何かを悟ったのか、しん、と静かになる。

「…あ」

門の後ろからゆっくりと姿を現してきたのは、委員長だった。シノ先生の前に立って、私たちの方を俯きがちに見つめながら、ゆっくりと息を吐き出した委員長は、意を決したらしく顔を上げた。

みんなが固唾を呑んで見守る中、委員長の第一声は、「みんな、ただいま」だった。瞬間、場が一気に騒がしくなる。誰も彼もが委員長のそばに寄っていき、笑顔でその帰還を喜んだ。私的には一番最初にイワベエがダッシュしていたのが面白かったが、これは後でチョウチョウとの話の種にするとして、私は目があった委員長にひらひらと手を振った。委員長は感動のあまり涙ぐんでいるようだった。おう、照れる。
ボルトも少し離れた位置から委員長を見ていた。

「はわわ…」

委員長は帰ってきた。校舎も元どおり。
私は久々に大欠伸をしながら、目一杯伸びをしたのだった。
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