しらねえよ馬鹿
「うわああああっ!」
どさっ。無様に頭から落下して額を強打した。最近こんなんばっか。一緒にいたはずの委員長、ミツキ君、助けに来てくれたボルトは見当たらなかった。うーん、ここはどこだろうかさっぱりわからない。記憶にあるのは何か巨大なものに丸呑みされたような感覚だけだった。ああそうだ、委員長が鵺に自分を喰わせた時、なぜか私までもう一つの尻尾でばくりとやられたのだ。私を食べるとはなかなかに好き者よ。あれ、でもならなぜ私は生きている…?いや、いやいや、考えないでおこう。立ち上がって周囲を見渡してみると、巨大な木が空間の真ん中に聳え立っている。巨大な根をはるそれの前にはやはりというべきか鵺が立っていた。至近距離で初めて見たがその迫力に圧倒されていると、背後で何かが落ちる音がする。振り返るとボルトがいた。その片目はいつか見たように真っ黒で、瞳孔は淡く光を零している。「ナマエ!生きてたんだってばさ!」「勝手に殺すな」
私はボルトの腕をとって助け起こしたあと背後の動かない鵺をちらっと見た。よく見ればなかなか愛嬌があるような、ないような、いややっぱないな。相変わらず白眼は発動できないし体も重いがなんとか動けるレベルではあるようだ。私は残りの二人がどこにいるのか周囲を見渡した。
「ひえ…」
すると、鵺が急に動き出してこちらに攻撃を仕掛けて来た。ずごんと地面が陥没して、先程私がいたところは綺麗に砕けている。ボルトの分身に俵担ぎされてなんとか避けた私はなるべく鵺に距離を取る形で地面に降ろされる。私、完全に戦力外。体術以外の忍術も勉強しておくべきだったか。いやでも私チャクラコントロールクソだしな…。うん、やめておこう。委員長の仇だなんだとボルトが鵺に向かっていく。だから勝手に殺すな。鵺がいるんだから生きてるだろ。
「ナマエはまだ委員長を助けようと思ってるの?」
「うわっ!」
私の後ろに立つんじゃねえ。いつのまにかミツキ君が立っていてびっくらこいた。
「寧ろ殺す必要性の方が思い浮かばない」
「ボクは…」
「ナマエはいつか言ってたよね。人は一つのことで判断しないって」え?そんなこと言ったっけ?記憶にございません。でもまあ、そうなんじゃないのと曖昧に頷くと、ミツキ君は「君はボルトとは違う意味でおかしいよ」と真っ正面から私に告げた。おい、喧嘩売ってんのか。しかし馬鹿にしているとかそういう雰囲気もなく、純粋にただそう思っているだけのようだった。なにこいつイミフ…。やっぱミツキ君はよくわからん。思いっきり眉間にしわを寄せてしかめっ面をしてやっていると、鵺と戦っているボルトがその巨体に突進されそうになっていた。しかし、ミツキ君が走り出して、その奇妙な伸びる腕で救出する。
「鵺は殺させない!」
風で髪が大きく靡く。しかしそんなことも気にしていられなかった。委員長は鵺を庇うようにしてその前に立っていた。やはり委員長も生きていて、まだ木の葉を壊滅させるなんていう野望は諦めていないらしい。鵺自体が巨大な爆弾で、もういつでも爆発させることができるという。私にとって木の葉の里というのはただ生まれた場所というだけだが、委員長には生まれた時から自分とその家族を虐げてきた復讐の相手なのだ。まじかよダンゾウ最低だな…。でも、それでも、ここでその木の葉のために人生を棒に振る必要なんかない。嫌なら他里に移り住んだっていいのだ。昔ならいざ知らず、今ならそれは容易に叶えられる。それでもずっとこの木の葉の里で、アカデミーに通い続けてきた委員長は心のどこかでは相反する気持ちを抱えていたんじゃないなのか。なんて、上から目線でそんなことを考えても説得はできなかった。委員長は何かを振り払うように大きく腕を凪いで叫んだ。
「…これは戦争よ、私にとって!父の悲願だから!」
「そんなの今の委員長には関係ねえだろ!」
「私?そうね、私には関係ないわ。筧スミレなんて端から存在していないんだから」
「私はもう母の声さえ思い出せない」と天を仰ぐ委員長。しかしこの閉鎖空間で空などありはしない。
「委員長、やっぱり帰ろう。なおさら、その木の葉の里のために委員長が犠牲になる必要なんてない」
「ええ、ナマエちゃんみたいな人から見れば復讐なんて馬鹿馬鹿しいと、映るでしょう。でもこれは覚悟の話。貴女にはないでしょう、命を賭しても成さなければいけない…そんなものが!」
ん!?咄嗟のことで反応できなかった。多分委員長の分身体。いつの間にか背後を取られていて私は羽交い締めにされた。腕が折れるかというくらい締めつけられて、ギリギリと嫌な音を立てている。奥歯を噛み締めて痛みに耐えながらなんとか振り返った。その委員長は分身でも同じように瞳に何かを抱えている。「ナマエ!」とボルトが助けようとしてくれたが、私は手でそれを制した。
「そりゃわかんないわ、言ってくれなきゃ」
「…ぐっ」
「私は全然辛い過去とか野心とか無いから、おまけに馬鹿だし教えてくれなきゃ理解できないんだよ、委員長」
「貴女、貴女はなんで…」
「委員長のいないクラスを考えてみたんだけど…私にとって割と地獄なんだ」
あいつらほんと容赦ないよ。ストッパーがいないと不登校になるねまじ。だから帰ってこい委員長。そういう意味を込めて空いている方の親指を立てて笑った。最後に見えたのは泣きそうな顔をした委員長だった。私には誰かを助ける力はない。だからあとは、ボルトやサラダといった、すごい奴らに任せるわ。
そこで、私の視界は暗転した。あーあー、やっぱ慣れないことはするもんじゃないゾ。