そういえば抱きしめられたかった



ミツキ君の蛇のような腕を踏んづけて、続けざまに委員長の持つ苦無を弾き飛ばした。人差し指で輪をキャッチした苦無をミツキ君に投げると見当違いの方向に飛んで行ったが、距離をとらせることには成功した。不意に現れた私にどちらも驚いている様子だった。今まさにお互い戦おうとばかりに向かいあっていたので、横入りをする形となる。私はやっべーやっちゃったよこれまじで死ぬかも、と冷や汗ダラダラだった。
思わず出てきたはいいが、現実は残酷だ。二人とも先ほどの動きはアカデミーのそれではなく、私の実力はいくら体術が得意とは言ってもアカデミーの域を出ない。ま、実力行使は鼻から不可能だとわかっていた。ぱっと両手を挙げて、ちょっと待ったと私が動きを制止するように求めると、委員長だけが腕の力を抜いて「ナマエちゃん、」と笑った。

「本当に…本当に、ナマエちゃんは、単純ね」
「委員長…」
「私があんな風に言って、ナマエちゃんが来るってことはわかってた。それから、結局私のことは誰にもバラさなかったんだ」
「委員長、帰ろうよ。今ならまだぎりセーフだからさ」
「帰る?どこに?私にはもう帰る家も、家族もいないの。あるのは復讐を成し遂げる、ただそれだけ」
「うわっ!」

委員長のチャクラが揺らいだかと思うと、足がぐん、と引っ張られる感覚がした。そうしていつの間にか地面にひっくり返っていた私は、悲鳴を上げてのたうち回った。まるで足を縄のようなもので締め付けられているようだ。「いだだだっ!痛い痛い!でも、アカデミーは楽しかったって、言ったじゃん」と抵抗しながら私が委員長に言うと、「そういえば何も知らないお友達思いのナマエちゃんは簡単に騙せるから。鵺を呼び出すために、それまで捕まるわけにはいかなかった。でもそんな必要ももうないの」と鼻で笑われてしまった。あれ全部嘘だったとか本気で言ってんのかよ、流石に温厚な私もキレるぞ。

「ナマエ、だから君は余計なことをしなくてよかったのに」

私は痛みでミツキ君が何を言っているのかよく聞こえないけど、文句垂れてるのだけはバッチリ白眼でわかってるからな。例えば私のこれがまったくの徒労であろうとも、馬鹿にされる筋合いはない。自分で決めて、自分でやってきた。わたしは生まれてこの方自分の自己満足以外で動いたことがないのが自慢だ、舐めるなよくはははっ!相変わらず鵺は元気よく暴れまわっていてボルトの気配もないが、ミツキ君が私をどうでもいいと思おうが、好きなだけ邪魔させてもらおう。だってその方が、後悔しなくていい。後悔しないって大事なことだと思う。だいたいサラダの受け売りですまんな。私自身はテスト前とかに後悔しまくっているがあれだ、忍者になるんで関係ないってことで。
それより、お前らのことだよ。額に脂汗が滲んでいるが気にしない方向で、びし、とミツキ君を指差した。「だいたい、ミツキ君が紛らわしいのが悪いんだゾ」…無言が広がった。ミツキ君も珍しく表情を崩した様子で露骨には?と言う顔をしている。
ある意味無視よりきつい。そして完全に私の存在はスルーされた。相変わらずの扱いの雑さには涙が出てくるね。

「ミツキ君は委員長を殺すんだって?」
「うん、そう命令されたんだ」

ミツキ君は委員長との距離はそのままに、私の方まで寄ってくる。体を強張らせていると、傍らにしゃがみこんだミツキ君が私の足元のあたりに手を置いた。ぼとぼと、と蛇が何匹か足の上に降ってくる。すると痛みがすっと引いた。これは…助けられた形になるのだろうか。「ナマエが死んだらボルトが悲しむだろうから」あっはい。
ふん、と鼻を鳴らした委員長が腕を振って何かを振り払うような仕草を見せた。やはり、私には見えない何かがある。それがなんなのかわからないが、まさにそれこそがゴースト事件の正体なのだということは察せた。

「七代目の判断とは思えないわね。誰の命令で動いているの?」
「そんなことはどうでもいいよね」

「一番どうでもよくないだろ、それ」と突っ込みたかったがまあ、なーんちゃって。今の雰囲気の中で言及はできなかった。その代わりに私は膝に力を入れてフラフラと立ち上がる。目の前のミツキ君と、以前警戒したままの委員長がもはや人の話に耳を傾けることがないのはよくわかった。その上で何卒穏便に事を運んだはいただけないだろうか。結界で里の中心部に向かうことを阻まれている鵺もじきに討伐されるだろう。そうなれば本当に全てが無駄になることは委員長自身がよく理解しているだろうに。どうしてこう明らかに自分にとって不利益な方向に行きたがるのか、私にはさっぱり理解できそうにない。

「私、キミに殺されちゃうのかな?」
「そういうことになるね」

自分が死ぬのに笑うことのできる訳もさっぱりわからん。媚を売ることも、命乞いも見せない理由は一体なんだ。委員長の言う通り、私が「何も知らないから」か?死んでもいい人の気持ちなぞ知りたくはないって言うか知っちゃダメな気がする。もっとみんなゆるく生きそうぜ、そうすれば世界平和も夢ではない。もしかして私天才か。
なんて、馬鹿なことを考えている暇もない。ぐぬぬ、と女らしからぬ掛け声でもう一度白眼を発動させようと試みた。しかしなんと、なぜか体に力が入らず再び尻餅をついてしまった。チャクラを著しく消耗していて、白眼が発動できない。なぜ?という疑問は委員長が答えてくれた。私のチャクラを吸い取って鵺の餌にしたと。嘘やん。「でもまだ足りない」委員長は呟いた。ミツキ君が同時に走り出す。私の普通の動体視力では二人の動きを追うのがやっとで、その目まぐるしく変わる攻防に付け入る隙はない。しかし、すぐに試合は止まることになった。
「終わりだね」

短い戦闘の軍配は、ミツキ君に上がった。地面に腕を取られて拘束された委員長が、奥歯を食いしばっている。ミツキ君が委員長の喉元に苦無を構えるのが見えた。やばやばのやば。ちょま、と手を伸ばしかけた。

「やめ」
「やめろミツキ!」

その声に、全員が振り返る。
そこには真っ黄色の頭の、物語の主人公のような、我らがボルトがいたのだった。私はその顔を見て勝ったな、とへらへら笑った。
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