すきにすればいいさ(遠吠え)



目が覚めたら目が真っ白になっていた経験があるか?私はある。いや、元から色素は薄い方なんだけど、鏡に写った私は目の周辺に血管が浮き上がっていて、おまけに周囲の見え方が尋常ではなくなっていたのだ。

「え、何コレ怖……」

上下の瞼を引っ張って目を大きく見開いてみた。目の焦点すら一切失っている。
そうして首を捻った、次の瞬間だった。
「うわ!」
どんがらがっしゃん!周囲のものを巻き込んで、私はひっくり返った。というのも、リビングに座っている様子の両親の姿が、突如視界に現れたからだった。声や音は一切聞こえないというのに、動きの一挙一動は鮮明にわかる。もちろんここは洗面所なわけで、見えるはずもない光景だった。
本格的に怖くなってきた私はフラフラと立ち上がって、新聞を読んでいる様子の父さんの名前を呼んだ。すると視界の中の父さんは周囲を確認するようなそぶりを少し見せて、それから私のいる洗面所の方向へ歩き出したようだった。こうなると、いよいよこれは覗き見の力があるらしいことがわかる。何でサ。

「どうした」
「あ、父さ…………」
「うわああああ!おま、それ!びゃくが、うわあああああ!」
「煩っ!」

見えないけど叫んでいることはわかる。耳を塞いで煩い父さんに落ち着けと説得していると、母さんも何事かと料理の手を止めてこちらに向かってくる。
そうすると視界にはただのリビングが広がって、チャンネルが切り替わるかのようにかち、と音がなって目の前には顔面真っ青の父さんがいた。拳一つ分もないその至近距離に、一応思春期の私は反射的に拳を前に突き出した。すると、見事に父さんの体は吹っ飛んでいく。え。
私としては、ちょやめろよ父さん!くらいのつもりで押したのに、波動砲でも食らったかのようにくの字に折れ曲がった父さんの体が、現れた母さんの体を飛び越して壁を突き破り、道路に放り出された。
白目を剥いた父さんは、当然のごとく失神していた。

「と、父さーん!」

救急車が我が家に到着したのは、それから数分後のことだった。
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