さよならだけ準備して会いにいこう



「委員長」

扉を開けると振り返ったのは二人だった。あるぇー、なんでミツキ君がここに。「じゃあボクは行くよ」と私とすれ違う形でミツキ君は病室から出て行った。お、密会か?

「ナマエは…あまり余計なことはしないでほしいかな」
「はい?」

ミツキ君がすれ違いざまに私の耳元で呟いた言葉はよく分からなかった。思わず聞き返して振り返ったが、既にミツキ君の姿はそこにはなかった。忍者かよ。あと、今ので一気に今回の事件に対するミツキ君の関与を疑ってしまう。余計なこと?私が委員長に会いに来ることが?それが彼にとって都合が悪いとはどういう意味だ、説明しろ!いや、いやいやいや、それより今は委員長のことだ。私はベッドの横に椅子を引っ張り出して座り、「来てくれたんだ、ナマエちゃん」と微笑む委員長に肩をすくめた。

「あー、お見舞い?的な」
「一人で来てくれたんだ」
「二人今日は忙しくて私一人で。それでさ」
「ナマエちゃんが聞きたいことがなんなのか、わかるよ。ゴースト事件の犯人のことでしょ」
「そうそうゴースト事件について…んん"?」
「ねえ、ナマエちゃん。ナマエちゃんは誰か大切な人を失ったことって、ある?」

私から視線をずらした委員長は窓の外の夕日の先を眺めているようだった。私は小さい時に老衰で亡くなった祖母くらいしか、人との死には縁がない。それも普通に悲しいやつだし普通にそれなりに泣く。人の生き死にに優劣をつけるのは如何なものかと思うのだが、それでもその程度と言われればその通りですはい。だからあるよともないよとも言えずに沈黙を保っていると、委員長が身の上話を語り始めた。曰く、彼女の両親は既にどちらも他界していると。このご時世それとは思った以上の闇の深さに私は今更ながらびびった。顔の見えない委員長が何を考えながらその言葉を口にしているのかは、多分今の私には絶対に理解できないだろう。ただでさえ私は共感力低すぎ問題を抱えているのだ、こんな別世界の話を聞かされてもへ、へー、しか言えない。こういうのは多分私の役割ではないし、どっちかと言えばサラダあたりに回ってくるはずの仕事だった。

「私には才能もなくて、父のような忍者になれるのかなって、いつも不安で…。でもアカデミーで過ごす毎日は本当に楽しかったの。それは嘘じゃないんだよ、私、ナマエちゃんの面白いところいっぱい知ってる。素敵だなぁって、私にはないところを尊敬してた」
「照れるなおい…」
「うん。ナマエちゃんになれたらいいとまで考えてたよ。私の人生今までなんだったんだろうって、」
「いやそれは絶対にやめたほうがいいと思う」

流石にそこまでできた人間ではない。容姿性格能力諸々多分委員長の方が上だゾ。まあ私も白眼より写輪眼の方がイカしているとか考えたりするので、自分の利点より他人の利点の方がよさげに見えるというやつか。私の利点って?ああ!それって…それってなんだ。白眼以外に思い浮かばねえ。うわ、もしかして私の個性、弱すぎ…?

「あかん…」
「ナマエちゃん?」
「うんや、ありのままで生きていこうよお互いにさ…。それを見てくれる人もいるって。てかいないと私が困るまじで」
「え、う、うん。大丈夫…?」

私に向き直って「はわわ」と独特な慌て方で背を撫でてくれる委員長はいつもの委員長に見えた。

「それで、まぁ、悩みがあるなら私じゃなくてボルトあたりに相談しなって。多分大概笑って許してくれるから」
「大概なんだ?」
「ゲーム壊すとかしたら手がつけられなくなることもしばしば。それに暗い顔してたってさぁ、人生良くはなんないゾ。逆はあるけど。これまめな」
「…ふふっ」

「何も、聞かないし聞いてはくれないんだねナマエちゃんは」だってそういう相談事はもっと修羅場をくぐってきた経験豊富な奴とか、同じような孤児とかいくらでも代わりがいるじゃないか。私が今回委員長に会いにきたのは、もしその前段階で詰まっているなら考えすぎだと一応声かけにきただけである。見てしまった責任というか、クラスメイトがニュースで犯人と報道されるのは流石に嫌っていうかなんというか。

「私、ゴースト事件の犯人なの」
「うんまあ察してたよね」
「みんなに顔向けなんかできないよ」
「確かに死ぬほど気まずいかもしれないけど一週間もすれば慣れるって」
「被害者の人たちの中には、取り返しのつかないことになってしまった人もいた」
「それはなんとも言えないから警務部あたりに相談しよう」
「……もう、手遅れなの」

諦めんなよ!あきらめたらそこで試合終了だ!できるできるやれるって気合いの問題だよそこは!「父の願いを叶えるって私が決めたことなの」その父ちゃんくそやな。私が父さんに「真の日向の意志を、継ぐのだ…」とか言われたら速攻で縁切り待った無しだが、家庭によって色々あるんすねぇ〜。てかよく見てみ?見なくてもわかるよな?委員長って…めっちゃ可愛くね?これなら忍者よりアイドルになって武道館ライブ目指した方がいいのでは?そういう話ではない。
それ以上言葉を待つことなく私は椅子から立ち上がって委員長を見下ろした。外が暗くなってきたせいで私の表情が見えていたかは分からない。
委員長の口元は固く結ばれていて、…いいんだな?俺は、止まんねぇからよ…でいいんだな?なら何も言うまい。覚悟があるなら、それを無理やりどうこうしてやろうと、できるほど、私にはその度胸はなかった。正直に白状すると、これ以上委員長の内面に踏み込むのに躊躇したのだ。生まれてこの方誰かの悩みなんか背負ったことのない軟弱者であるからして、そこまで抱え込める自信は皆無である。卑怯者と罵られるのも辞さない覚悟だ。まあ明日あたりボルトにはチクるかもしれないが。え?友達が犯罪してたらそりゃ人に知らせますが何か?

「あー、うまくいかないな」
「ナマエちゃんありがとう。今日はもう帰って。暗いし、気をつけて」
「あれ、口封じとかしない?」
「うん」

てっきりここからバトル物に転向するとばかり思っていたので、そこは拍子抜けしてしまった。壁にパイプ椅子を立てかけて、入ってきたときと同じようにスライド式の扉に手を置いた私は最後に振り返った。そうか、委員長が本当にまじの犯人だったか。地味にショックっていうかかなりショックだが、考えていたような友情笑ではなかったことだけが救いか否か。

「それじゃ、また明日も来るよ」
「え?」
「いやこのままさよならとか後味悪すぎだろう…」
「……はわわ。やっぱり、みんなが言う通りだね」
「何が?」

「ううん、なんでもないの」委員長が笑ったので、私は安易に案外これで正解だったかもしれないなんて思ったのだった。まあ、そんなわけ、ないよなぁ。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -