夢を見た。思い出と言う名の記憶か、はたまた自分が望む結末か、全てがごちゃ混ぜになったような。現実味に溢れ、しかし何処か作り物のような美しさを遺し、気付けば視界は生温い水に溺れていた。

「…ゆ、め…、か…。」

未だ夢うつつなまま瞬きをすると、一筋の雫が重力に従い耳まで流れる。それを手で確認するように触れ、拭ったことによって濡れた手を見て自嘲気味に笑った。

涙を流したのなんて何時振りだろうか。苦痛を感じたわけでも、悲哀を感じたわけでもない。ぼんやりと覚えている夢は、ただただ温かく、しあわせ、だと感じられた、気がする。あいつらと、あの人と。喧嘩して、笑い合って、悪戯なんかもしたりして。記憶として残る映像が、温かい光に包まれて、輝いて見えた。

「…せん、せい。」

夢の続きを、残像を求めて再び眼を閉じた。訪れる闇がスクリーンの代わりに、そこに映し出される己が幼き頃の恩師の姿。その姿は悲しげに笑うことも、炎に包まれることもなく、戦場を駆け巡っていた頃の自分たちの隣で、いつものように優しげに微笑んでいた。…有り得ない、と解っているのに。それが本来あるべき姿だったのだと思ってしまう。

「…先生。」

もしもあの時、貴方が無事だったなら。自分にもっと力があったのなら。今も自分たちと笑い合って、杯を酌み交わしたりなんかも、出来たのだろうか。

闇の中で微笑む貴方は、片手に一升瓶を持っていて。此方に向かって手招きをする。呼ばれるままに近付けば、気付けば隣にはあいつらも居て。本当は四人だったそこに、貴方が加わって。酒を酌み交わして、下らない話をして、互いの夢なんかも語り出したりして。笑いが絶えなくて、孤独を感じる暇も無くて。それが、どうしようもなく嬉しくて…。



――――――瞳を開ければ、先程よりも溺れた視界に見慣れた天井が映っていた。



綴られた物語。
(夢に描いただけのフィクション。)
(それでも、しあわせだった。)






吉田松陽生誕企画[玉響の、]に提出。

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テーマ「推しとの恋」
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