Prologue.

 Prologue. 伝説を継ぎし少年





 第二次マナ衰退時代。
 後の世でそう呼ばれることになる時代に、天才とされる少年がいた。
 生来人が持っているマナ保有量。それは限界値といっていい。保有量が高ければ高いほど高難度の魔術を扱え、その威力や効果も変わった。保有量とは魔術師の要。強さの計り。
 勿論、保有量が少なくとも、自分の内側からではなく、外からマナを引っ張ってきて魔術を使う方法もあるが。
 ともあれ、その少年のマナ保有量は、飛び抜けて高い数値を持っていた。高い魔術師としての素質と、幼いながらも、剣技の才を持つその子供は、まさしく天才であった。

 当時、隣国と戦争をしていた少年の母国は、才ある子供を兵士とすべく、各地から子供を徴兵していた。その少年も例外ではない。
 幼くして親元を離れ、年の近い子供と、訓練の日々。遊びたい盛りであり、やんちゃ盛りである少年達が、唯一、一日中遊び回れる日があった。
 年に一度の、世界中が争いを止める日。国をあげての盛大な祭り。かつて、魔王と呼ばれた邪悪な存在を倒し、マナの衰退に苦しむ世界を救った勇者を讃える祭りであった。
 そこで行われる催しに、聖剣の儀式と呼ばれるものがある。
 聖堂に奉られた、かつて勇者が所有していた、魔王を討ち滅ぼしたとされる、聖剣。勇者以外、誰も持ち上げることができない、そういう術が施された剣。

 赤い宝石が、美しい、剣。

 それを、持ち上げることが出来るか、という、催しであった。
 聖剣が奉られた聖壇を見られるのも、この祭りの日だけであり、そのうえ、数人とはいえ、民間人でもその剣に触れられるという、人気の催しであった。
 そこに、勇者を信仰するもの。
 勇者に憧れるもの。夢を見るもの。希望を与えられたもの。はたまた、度胸試し。なんでもいい。そこに、偉大なものがある。人々を熱狂させるのに、それだけで充分だった。

 国のために剣を振るうことを正義とする少年達が、挑むのに。理由はそれで、充分だった。

 勇者の時代から、千年。
 毎年行われるこの催しのなかで、もちろん、その勇者の剣を持ち上げることができた者は、ひとりとしていない。それが記録に残っているものだけだとしても。毎年、毎年。誰もその奇跡を見たことがない。
 奇跡が起こるとは、思ってもいない。

 なぜなら、その剣は、千年前の偉大なる勇者にしか、扱えないものだから。

 だから。期待をする。

 この剣を。誰にも扱えないはずの、この剣を、もし、振るえるものが、いるならば。その者こそ、彼の勇者のように、この第二次マナ衰退時代を終わらせられる。しかし誰もが諦めていた。そんなものは、いない。現れるわけがない。
 それでも人は祈るのだ。
 誰か、誰かと祈るのだ。
 かつての伝説に。いつか現れるであろう英雄に。救世主に。神様に。


 ――勇者に。


 国の未来を紡ぐ少年達が、笑顔で祭りを楽しむ。その姿に。祈るのだ。ぴくりとも動かない剣に、落胆し、悔しがり、やっぱりダメだったかと肩を落とす。それでも、憧れに触れられたと、無邪気に笑う。
 その笑顔に、誰もが思う。ああ、今こそ我らを、救いたまえと。

「なあ、お前もやってみろよ!」

 友人にそう言われて、手を伸ばすか迷っている少年がいた。日の光にきらきらと照らされる銀の髪が、とても美しい少年だった。

「ほら、はやくはやく!」

 奇跡が起こるとは、誰も思ってもいない。この光景を見ている人も。急かす友人も。

 剣へ手を伸ばす、少年自身でさえ。

 なぜなら、その剣は、千年前の偉大なる勇者にしか、扱えないものだから。

 だから。







 だからこれは、何かの冗談なのだ。
 間違いだ。
 少年は、あまりの予想外に、ただただ頬を引き吊らせ、笑うしかなかった。







「………………あっれぇ…?」




 いとも容易くその小さな手に掲げられた剣に、少年はただただ、首を傾げるしか、なかった。




 銀の髪が、揺れる。

 







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