「俺と付き合ってください」
「絶対に嫌ですお引き取り下さい」

目の前に立ちふさがったのがイケメンだろうと何だろうと、私はこいつと付き合う気などさらさらない。横を通り過ぎすたすたと離れているはずなのに、男は全く私から離れなかった。

「なんで俺と付き合ってくれないの?」
「あらご存じないの噂に名高い久々知兵助さん?」
「噂って?」

この顔。本当に知らないのかよ。呆れて物も言えない。こいついままでどんな女の扱いして来たか記憶にないっていうのか。

久々知兵助。高等部二年一組で成績優秀眉目美麗。豆腐小僧という異名を欲しいままにしく女子の視線すらも集めてしまう程の男。一見、女なんかには興味なさそうな感じにも見えるが、実態はそんなものではなかった。

友人が、久々知兵助と付き合ったと言った。その友人は久々知兵助の事が好きだったから、告白してOKを貰えたと舞い上がっていた。私は可愛い友人が幸せそうだったので、久々知兵助という男がどんな人間かもわからずに祝ってしまっていた。

それがいけなかった。この久々知兵助という男、最悪の人間だった。

こいつはいわゆる「処女厨」ってやつだった。処女厨なんて言葉ネットでしか聞いたことないし、実際にそんな人がいるのかと耳を疑ったほどだった。久々知兵助と肌を重ねたという話を聞いてヒュー!と盛大に冷やかしたその次の日、彼女は久々知兵助に別れを告げられたと気を落とし学校を休んだ。

「お前が処女厨だってこたぁ調べがついてんだよ」
「へぇー。俺ってそんな噂あったんだ」
「私の可愛い友達の処女奪っておいて平然とすてやがって。この世が殺人を犯したら褒められる世界だったら今すぐテメェの首へし折ってやりたいぐらいだよ」

最悪なのはその後も続く。その数週間後、友人は尾浜勘右衛門というやつに口説かれ付き合った。そしてこっちも、体を重ねたその後、すぐ捨てられたと友人は狂った様に泣きづけつづけていた。いつか絶対殺してやると心に決めていたやつに、付き合ってくれなんて言われると思ってなかった。

「名前知らないの?」
「うわっ、何三郎」


「デフロランティズム。兵助ってそういうびょーき」


横から現れ私の肩にのしかかってきた三郎は、久々知を指差しそう言った。久々知はその言葉ににっこり笑って首をかしげた。

「でふろ、なに?」
「デフロランティズム。処女性愛。つまり、処女を奪う事を快楽としているやつのこと」

異常性癖とでもいうべきものか。久々知兵助はつまりそういう人間だと、三郎は嫌味っぽい顔でそう言った。やはりそうじゃないかという憎悪と、こいつ正気かよという困惑で私の頭の中はいっぱいだ。なんでそんなやつに私は目を付けられてしまったんだろうか。っていうかなんで私が処女って知ってんだよ。頭おかしいんじゃないの。

「男ってみんなそうなの?」
「そりゃぁ初めてっていうのが自分って興奮するんじゃない?」
「それって凄いエゴ。女はそれで妊娠するかしないかかかってるんだよ?処女奪った上に責任から逃れる様に捨てるなんて最低だと思わない?」

「逃れるなんて失礼だよ苗字さん。俺だってそうなったら男としてのけじめはつけるさ。でも、妊娠したところで、強姦じゃないなら責任は五分五分だろう?同意の上の行為なら女にだって責任はある。その行為が子供ができる行為だって解って、男を受け入れるんだから。妊娠したから責任をとれって男に詰め寄るのは、大きな間違いだと思わない?」

「ぐぬぬ」

この男、さすが成績上位者というべきか。患っているものがどうであれ喋っている言葉は全て正論だ。確かに同意の上ならば、孕んだところで責任は五分五分か。

「まぁ、俺はそんなヘマしないけど」
「勘右衛門は残飯処理班みたいなもんさ。本物のゲスはあっち」

「口が過ぎるぞ三郎。アフターケアをボランティアでしていると言ってほしいな」

あぁまた面倒な者に囲まれた。後ろに尾浜前には久々知。横で三郎が笑っているとは最悪だ。逃げ場がない。

「そんな尾浜くんがかかってる病気とはなんでしょうか?」
「知らない知りたくもない。あんたもどうせ処女厨なんでしょ?」

「トロイリズムって知ってる?」
「はぁ?知らんし」

「そうだなぁー、名前ちゃんが三郎か兵助と付き合ったら体験させてあげられるんだけど」
「は?何?」

からから口から棒付の飴をだし、尾浜は低い声で


「寝・と・ら・れ」


と囁いた。あまりにもそれがねっとりした声で、私は思いっきり拳を叩きつけたが、一歩早く尾浜はその場から飛んで逃げ、私の手の届かない場所に行ってしまった。

「あー!もう本当最低!なんなのお前ら!三郎!あんたでしょこいつらに私の存在話したの!」
「だーって私の幼馴染について教えてほしいっていうから」
「どーりで話したこともないくせにこんな馴れ馴れしくしてくるわけだよ!離れろクソ野郎ども!久々知とは付き合わないし尾浜に寝取られる予定もない!解ったでしょ!?」


「おーい苗字!先生呼んでたぞー!」


「あっ、ありがとう!すぐ行く!」
「おう!」

久々知と尾浜を交互にみながらそう吐き捨てると、階段の上の方から竹谷くんが私に向かってそう言った。あぁ天の助け。此処にいない男の声がこんなに救われる気持ちになるとは。

「久々知なんかと付き合うんだったら、私竹谷くんみたいな爽やか青年と付き合いたい。ってなわけで二度と関わらないで」

私はそう言い残し階段を駆け上がった。あぁ変な連中に目を付けられてしまった。此れからいっそう警戒しながら生活せねば。あぁでも、不破くんも可愛くて素敵だなぁ。三郎と顔一緒なんて可哀相なほどだ。竹谷くんか不破くんとお付き合いで来たらどれほど楽しいだろうか。ま、そんなの私には高望みだけどね。


「なぁ、兵助はなんで名前がいいんだ?」
「この間放課後教室に忘れ物取りにいったら苗字さん、『結婚するまで処女貫き通す』宣言してたのだ。それ聞いたらもう」
「押さえらんなくなったってわけね」

「っていうか名前ちゃん、ハチと付き合いたいとか言ってた?」
「ハチの方がよっぽど頭おかしいだろ。いや雷蔵の方が面倒かもな」
「え?何?」

「知らないのか三郎。雷蔵とハチは……」







フィリアリズム

それはそれで愛の形だから




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この間Twitterで話してた処女厨久々知を短編化。
異常性癖はいつかシリーズ化したい。

竹谷は恐らくスードゥズーフィリア。
雷蔵はダクライフィリア。
やいの言ってる三郎もカトプトロノフィリアだと良い。

五年はみんな頭おかしくていい。
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