「っていうか、名前よりカッコいい男がいればの話だよね」
「名前のせいで私たちの男に対するレベルかなり上がってるからね」
「いやぁ、あんなのと友達じゃ彼氏欲しいとか思えないよねぇ」

ねー!と話し合うクラスの女子は、ケータイをいじりながら声を揃えてそういった。

「ねぇ聞いた!?昨日名前が西高の三年背負い投げしたって!」

「聞いたー!二組のゆっちゃんとみゆ助けてもらったって!」
「まじカッコいいよねー!」
「惚れるわー名前」

興奮した様子で飛び込んできたスカートの短い女子は、隣のクラスのやつだ。そいつが入ってきた途端、俺たちの横で喋っていた3人は惚れ惚れするような顔で誰も座っていない席を見つめていた。そこは苗字名前という女子の席。話題に出ている苗字名前は、落ちこぼれが集まった言われている俺たちのクラスメイトである。

「なぁ庄ちゃん」
「なぁに虎若」


「俺たちがモテないのはどう考えてもあの女のせいだと思うんだけど」


庄ちゃんは何を言っているんだと言う目で俺を見たが、俺は至って真面目にそう思う。横で「そうだそうだ」と言ってきている団蔵。少なくとも、こう考えているのは俺だけではないという事はよく解る。

高校デビューをしようとは思っていない。俺たちは中等部から馬鹿ばっかやってたからあっちこっちに敵を作っていたし、警察の厄介にやることも多々あったかもしれない。俗にいうヤンキーだか不良だかとレッテルを貼られているのだろうが、普段の生活はキチッとしているつもりだ。部活にだって出てるし委員会だってやってる。たまに喧嘩を吹っ掛けられたらそれを買う時もあるかもしれないが、別に普段から乱闘ばっかりしているような俺たちじゃない。それに女友達はいる。普通に話す女はいくらだっている。

だが問題は、彼女という存在がないということなのだ。

「俺たちって別に自分で言うのもあれだけど不細工ってわけじゃないよな」
「そうだね。僕は虎若を不細工だと思ったことはないよ」

「喧嘩が強いって、女からしたらそこそこ好感度高くねえか?」
「漫画もドラマも、そういうのは女の子は夢中になるからね」

「何のなんで、俺たちは女にモテないんだと思う?」

「そりゃぁ………」

本を閉じた庄ちゃんの視線の先は、まだ誰も座っていない席。


「苗字さんのせいでしょう?」
「ほらな!?ほらみろ!やっぱりあの女のせいじゃねえか!!」


苗字はたしかにブスじゃない。っていうか、どっちかというと美人系だ。キツメの美人。鋭い目つきに靡く黒髪。言葉を与えるなら「カッコイイ」が最適だろう。だが、俺たちはあの女のせいでモテていない様な気がする。その話題をしていると、登校済みの男たちが俺と団蔵と庄ちゃんの周りにそうだそうだと集まってきた。

「団蔵もそう思うよな!?」
「思う!あいつのせいで俺たちの青春奪われたような気がする!」

苗字の何が原因なのかというと、


「そりゃぁ苗字さん、噂じゃ黒帯持ってるって話聞いたことあるから敵わないよね」


そう、あいつは恐ろしく強い。何がって、喧嘩が。

「敵うわけねえだろ!?たかがヤンキーと柔道有段者じゃ敵うわけねえよ!」
「そうだ虎若の言うとおりだ!俺たちがモテないのはあの女がこの教室にいるからだ!」

「そりゃぁ虎若も団蔵も確かにカッコいいかもしれないけど、所詮殴り合いの喧嘩でしょ?苗字さんは技だから、敵うわけないよね」

庄ちゃんは彼女という存在が欲しいという欲望はない。だが、俺たちは欲しい!俺も団蔵も!可愛い彼女が欲しい!だからこそ高等部に入ったらヤンキー設定は十分女を魅了する者だと思っていた!
だが!高等部に柔道有段者が途中入学してくるなんて予想ができたか!?しかもしれがとびきり美人で俺たちのクラスだなんて!!

「この世はどうかしてるぜ!!なぁ喜三太!!」
「確かに苗字さん、女子なのに女子から凄いモテてるしねぇ」

「金吾もそう思うだろ!?」
「別に僕彼女欲しいとは思ってないけど、苗字さんのモテ具合は凄いよね」

「だけどあそこまでモテると正直羨ましいとは思うよねー」
「自分に素直な乱太郎嫌いじゃない!!」

「美人で強いって、虎若何も苗字に勝てる要素ないぜ?」
「きりちゃんやめろ!現実見せんな!」

「僕一回先輩投げ飛ばしてる苗字さん見たことあるけど確かにカッコよかったよ」
「さ、三治郎やめろー!余計勝てなくなるだろ!!」

「僕も見た!あれは女の子惚れても仕方ないと思ったよ…」
「なんで伊助は諦めモードなんだよ!!」

「っていうか虎若と付き合うぐらいなら苗字と付き合った方がいいよね」
「え…兵太夫さんそれどういう……」


「おしげちゃんも言ってた!おしげちゃんのクラスの子も、苗字さんのファンクラブ作るほどに人気なんだって!」


この中で唯一のリア充であるしんべヱが爆弾を落とすと、俺たちはさらに肩を落とした。

神様とやらは、何が面白くてこんな汚え教室にあんな女神落としてきやがったんだ。確かに苗字は美人だけど、何も俺たちのクラスに入ってくることなかっただろ。落ちこぼれを集めたクラスと噂されている教室にあんなやついたら、そりゃぁ女だって惚れるに決まってる。

俺たちがモテないのは、如何考えたって


「おはよー」


この女のせいだ。



「おはよう!ねぇねぇ名前昨日西高の三年背負い投げしたって本当!?」
「いやだって隣のクラスの子が絡まれてたからつい…」

「みゆが撮ったこれ待ち受けにするね!」
「は!?ちょっとやめてなにこれ!投げる瞬間だから顔ブスすぎ!消して消して!」

「やだもう本当に名前カッコいい!好き!」
「あははありがと。でもそのデータは消して」

このクラスで唯一、一学年統一選択授業で体育を選択している苗字は、スクールバッグと一緒に胴着を担いで教室に入ってきた。JKにあるまじき手荷物だと言うのに、誰もそれに突っ込まない。いや、むしろその手荷物さえ似合っているようにみえる。

「まじで苗字と付き合いたい」
「ありがたいけど、同性婚は法律違反だから」

こんな女の何が良いって言うんだ!化粧もしてねえ!髪は一つ結び!胴着を担いでいるだけのこの女の!なにが!そんなに!




「苗字が男だったらよかったのになぁ〜!!」




「苗字ーーーーーーーーーッッッッ!!!!」
「………あ?」

我慢できずにその場で叫び、教室に入って来たばかりの苗字を指差した。

「いい加減にしろ!お前のせいで俺たちの青春は無くなったも同然だ!」
「…え?何?何の話?」

「お前がそうやって女なのにイケメンな態度とってっから俺たちは青春を謳歌することができないんだよ!!」

そうだそうだ!!と周りの男子(庄ちゃん以外)も俺と同じ意見だったのか、いつの間にか教室は半分に別れていた。黒板側に女子が集まっており、後ろに男子が集まっている。まるでデモかなにかが起きているかのようだ。

「何?どういう意味?」
「お前もう誰か投げ飛ばすの止めろ!女子助けるのも止めろ!」
「…はぁ?」

「お前がそうやって柔道とかでカッコいいとこ見せてるから俺たち男はモテないんだよぉおお!」
「ちょっと待てや。お前たちがモテないのが私のせいだって言いたいわけ?」

「そうだろ!っていうかどう考えたってそうだろ!」
「冗談じゃない!お前たちがあっちこっちで乱痴気騒動起こしてくるせいでこの制服着てるだけで大川の奴って因縁ふっかけられてくるんだぞ!」

「だからってなんで女子なのに背負い投げで負かすんだよ!かっこよすぎんだろ!」
「それじゃぁなかったらどうやって己の身を守れっていうんだよ!喧嘩できない女子のほうが大勢いるわ!」

「だからってファンクラブまでできてんだったら俺たち勝ち目ないだろ!」
「調子に乗るのも大概にしろ佐武!西高の二の舞なりたいのか!」

「チクショー!俺だって不良のはしくれだ!女一人に負けてたまるかよ!」
「口だけでかい三下野郎が!お前の背骨へし折ってやる!」

これ持ってて!と苗字が横にいた女子に胴着と鞄を渡すと、俺の後ろにいた男子も「やっちまえ!」と声援を飛ばした。いつの間にか教室の真ん中は机がどけられていて奇妙なスペースが出来上がっていたし、廊下の窓からは罵声が聞こえて集まったのか他のクラスのやつらまで集まっていた。

女に手を挙げたことなんて一度もない。だけど売った喧嘩が買われた。相手が誰であろうと、最後までやってる!




………そう、思ったのがいけなかった。



懐に飛び込んだ苗字は、俺の学ランを鷲掴むと、一気に俺の身体を持ち上げ、そして、教室の床に叩きつけたのだった。

静まる教室。痛む背骨。

女子から上がった歓声と、男子から漏れるため息の中聞えた声。



「一本。勝負あり」



庄ちゃんてば、相変わらず冷静ね。







青春のエレジー
別に、泣いてねえし









「名前今日暇?」
「ごめん、今日三反田先輩と保健室デート」

「なにそれ!保健室エッチ的な意味で?」
「いや、骨密度測定的な意味で」


「当の苗字さん彼氏いるんだってよ」
「ち、チクショー!!」
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