「よし、洗濯物完了でござる!」
「エーフィ!」
「はいとめさんもご苦労様でした!じっとしててくれてありがとう!」

とめさんが動くと物干し竿が倒されるから今の時間は足元でじっとしているようにと言いつけておいたのだ。お前食満さんいないと本当に自由に動き回るなぁもう!どんだけ食満さんの肩の居心地いいんだよ!

「?」
「え?食満さん?今日は何か用事があるからって朝早く出かけたよ」
「…?」
「いやーどうだろうね。忍者さんて夜活動するらしいし、今日は遅いんじゃない?」
「…」
「そうだねー。遊んでもらうのは帰ってきてからにしようね」

とめさんは色んな子とよく遊んでいる。ここにいる人は酷いことしないのかよしわかった、と理解してくれたようで、最近は良く食満さん以外の人とも戯れているところを良く見かける。

小松田さんに頼まれて書類整理なんてしているときは「おい遊べよ!ちょっとは構ってくれよ!」と背中にタックルかましてくるので、そういう時は手の空いてる子に遊んでいてもらうのだ(とめさんはボールの中はつまらないからあまり好きではないらしい)。

最近は三年生の富松くんが相手をしてくれる。同じ用具委員会の食満さんと同じ匂いでもするのだろうか。


そういえば今はパソコンに預けているが、さくべえと名づけた子もいるんだ。ま、今は会えないからその話はしないんだけど。そのほかにも結構お名前かぶってる子がいる。まごへーとかいるし。まさか「たきやしゃまる」がいるとは予想外だった。まさかあんな長い名前の子がいるとは。出来れば皆にも合わせてあげたいけど。残念でござる。


あぁそうそう、とめさんは食満さんと遊ぶのが大好きらしい。食満さんはとめさん相手に全力で遊んでくれる。最近はなんだか凄い玩具まで作ってくれていた。手作りなんだそうな。なんなん食満さんのあのハイスペック具合。

今日のお仕事終わりー。ととめさんを抱っこして部屋にでも戻ろうとしたとき、とめさんが後ろを向いて鳴いた。なんだろうと後ろを向くと

「翔子ちゃーん」

善法寺さんだ。


「あ、善法寺さーん」
「聞いたよー、仙蔵と同じ名前の 




























き、消えたああああ!!!!!善法寺さんが消えたあああああああああああ!!!!!!!!!

善法寺さんテレポート使えるんです!?!?!?!?


えぇぇぇえ何処に行ったのやら!と大パニックに陥っていると、とめさんが腕から飛び降りて、善法寺さんが消えた場所の地面に向かってずっと鳴いている。あそこに何かあるのだろうかと近寄ってみると、穴。
どうやら善法寺さんは落とし穴にはまってしまったらしい。何故こんなところに…。

「え、ちょ、大丈夫ですか!?」
「うーん、今日はちょっと浅いから大丈夫かな…」
「今日は!?」

なんだこのなれてるから心配するな的な言い方は。

とりあえずどうぞと手を伸ばし善法寺さんを落とし穴から救出した。どうやらこれは落とし穴のトシちゃんというらしい。綾部くんというこの作品だそうな。すごい綺麗な落とし穴。きはちろーでもこんな綺麗なの掘れないよ。


「で、何か御用でした?」
「イテテ、…あぁそうそう、仙蔵と文次郎と同じ名前の子がいるって話を………を!?」
「え!?善法寺さん!?」
「え!?何これどうなって、うわぁああ!!」

善法寺さんはまたも話をしている途中で、今度はゆっくり後ろに下がっていった。そして、またさっきの落とし穴に落下した。

まったく状況が理解できない、と思ったら、穴の上にいたのは、いさくだった。


「え、いさくいつの間にボールから出たの!?」
「!!!」
「えぇぇえなんでそんなに怒ってるの!?善法寺さんに何したのあんた!…こらー!なんで"くろいまなざし"するのー!」

いさくとは私の仲間、ムウマである。

ムウマは人の髪の毛を後ろから引っ張って脅かすのが大好きな子である。多分いさくは善法寺さんの髪の毛を引っ張って穴へと落としたのだろう。なんてことしてんだお前は!
とめは「お前ちょっとはふんばれよ!」と言いながら穴に落ちる善法寺さんに声をかけ続ける。


「善法寺さんになんの恨みがあるの!今お話してただけでしょ!?」
「…」
「…どうしたのいさく…?何かあったの?黙ってちゃわかんないよ?」

いさくはいつも髪を引っ張って脅かし、ドッキリ成功するとケラケラと可愛く笑うのだ。その笑顔を見れば、可愛くて、やれやれと許してあげちゃうのだが、今は笑ってない。

穴に落とす、なんて最高のドッキリの大成功なのに。それどころかいさくは悲しそうな顔をしている。


「えぇー!なんで穴から出られないのー!?」
「ぜ、善法寺さん!大丈夫ですか!」


善法寺さんは腕で穴のふちに引っかかっているのだが、そこから上には出てこられない。それはそうだ。意図はわからないがさっきいさくが"くろいまなざし"を善法寺さんにやったのだ。きっとそれ以上は動けない。

"くろいまなざし"を解除しなさいと言おうと思ったのに、いさくは私のお腹にぶつかってきて、穴の中にいる善法寺さんから私を遠ざけようとぐいぐい後ろに押してくるのだ。


「い、いさく、どうしたの本当に。善法寺さんは良い人だよ」
「…!」
「黙ってちゃわかんないって…。今日はどうしたの…」


善法寺さんはとめさんに応援されながら必死に穴から這い出てこようとしているのだが、それ以上は出て来れない。それはそうだ。"くろいまなざし"の効果はこの子が解除するまでずっと続く。

「いさく…?」
「え、その子がいさく?僕と同じ名前だ!」

そう言うと、いさくはキッ!と効果音でもつくかのように善法寺さんを睨んだ。どうして、何があったの。


あ、この目は見たことがある。


ちょっと前に友人と話をしているときに、いさくは今と同じように友人の髪を引っ張って私から遠ざけたことがある。そのときと同じ目をしている。

この子はとある飼い主に、森で捨てられた過去がある子だ。
最初わたしを襲ってきたとき、殺されると思ったんだけど、その時のいさくの目が、あまりにも寂しそうで、わたしは手を差し伸べた。


あんな森の中で、一人で、きっと、私が想像するよりずっとずっと寂しかったはずだ。



ああもしかして、私が善法寺さんに、とられるとでもおもったのだろうか。

いさくを置いて、何処かへ行くとでも思ったのだろうか。












「ねぇ、いさくちゃん、僕ね、翔子ちゃんとお話したいだけなんだ。君から翔子ちゃんを奪ったりしないよ。君はもう一人になることはないから安心して!翔子ちゃんだっているし、僕もいるよ!ね!僕と友達にならない?」





善法寺さんの言葉に、いさくのお腹を押す力が、弱まる。


「話聞いたんだ。君が、大好きだった主人と離れ離れになっちゃった子、なんでしょう?」


聞いたんだ。留三郎から。

動けないのに、きっと穴のふちに力いっぱい引っかかってるから、きっとツラいはずなのに、善法寺さんはニッコリ笑った。


「大丈夫。僕、翔子ちゃんと、いさくちゃんと友達になりたくて今近寄っただけ。君から、大好きな翔子ちゃんを奪おうなんて思ってないよ!」


食満さんは、一体どれだけご友人さん皆にこの話をしてくださっているのだろう。一体どれだけこの子達のために、動いてくださっているのだろう。
ポケモンと心を通わすなんて、そう簡単に出来ることではない。なのに、この子達の心の闇を消すために、働きかけてくれているんだ。どれだけ感謝すれば、恩を返せるだろうか。


「ね、だからさ、僕とも仲良くしよう!友達になろう!」




しばらくして、いさくは、ふわりと私から離れて、善法寺さんの目の前におりた。


「…」
「…本当に?って聞いてます」
「え?」

「…」
「本当に、私から翔子を奪わない?って言ってます…」
「…うん、約束するよ」

「…?」
「もう、一人にならない?って」
「…うん、僕でよかったら、側にいるよ」

「…」
「本当に友達になってくれる?…って」
「うん!もちろんじゃないか!んー、でもいさくじゃ同じだから、さくちゃんなんて、どう?」

「…!」

「うわぁ!」




ペタッと善法寺さんの顔にくっついて、二人はそのまま穴に落下した。



よかった。"くろいまなざし"解除したみたい。





「なんだよいつの間にか一件落着かよ」と、とめさんは私の膝に擦り寄った。

よく言うよあんただってハラハラして見てたたくせに。








「翔子ちゃん!見て見て!」
「どうしましt……う、浮いてる!善法寺さん浮いてるよ!」
「ちょ、ちょっと苦しいんだけどね!」

「♪」




服の襟を掴んで穴から善法寺さんを引き上げたのは、いさくだった。

こ、こらー!善法寺さん苦しそうだからやめなさい!!











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「ところで善法寺さん」

「ん?何?」

「どうしていさくが女の子だってわかったんですか?」

「どうしてって、こんなに可愛いから女の子かと思って…」

「///」

「あ、いさくが惚れた」

「本当?嬉しいな!」

「(善法寺さん、恐ろしい子…!)」
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