私はそれなりに高校生をエンジョイしていた。


それなりの私立高校に通ってそれなりに勉強してそれなりの友達も居てそれなりの恋人も居たしそれなりの恋もしていた。





けど、何だ今の状態…。





「よくも、…よくも…!あたしの太郎を…!!」



そう言って包丁をこっちに向けて走ってくる厚化粧。


『は、えっ?』


化粧何重?そんな疑問よりも先に狼狽えた声が上がるのは当然だろう、結構冷静に実況しているように見えるかもしれないけど実のところそうでもない。

目の前に迫りくる女と包丁になすすべなく、――ぐさり、 と。

深く、深く深く、呆気なく、お腹にささった。貫通してんじゃねーの。いっそ清々しいぐらいに刺さったそれに笑みが洩れた。


こぽり、胃から這い上がり出てきた血液は女の手に零れる、それでも正気に戻らないコイツは相当気が狂ってるんだろう、薄れる意識の中冷静に思えた。



「ははっはっは、あははアハハハハハハハ。

あたしの太郎をとったからこうなるのよ!!」



唇が割けるんじゃないかと思うぐらい大きく開けて狂ったように笑う名も知らぬ厚化粧。


う、わ、…こんな奴に殺されたのかよ、私。
悲しいかな。【死】を直前にすると自分が死ぬか否かが分かる。

ああ、も、最悪。太郎とか意味わかんないし、大体そんなネーミングセンスがない名前の奴に関わった覚えがない。


スローモーションのように倒れていく四肢。ガァン、頭に走る鈍い痛み、その衝突音が大きかったのか小さかったのか、今の私には分からない。


私は最後の力を振り絞り薄く口角を上げ、


『、…ア、ンタ……く、、さいし……化粧…濃い、よ…』


口内に溜まる鉄の味がする液体を厚化粧に吹き掛けるように唾を吐いた。

やはり――、唾は届かずに私の顎に伝った。



その後の女の顔は見なかったことにしよう、うん。…というかあれが最期の言葉か…。納得いかん!






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