「…空夜、何やってんだ?」
『これいじょうないぐらい楽しいこと』
「…おめぇは自分の父親の顔を切り刻んで楽しいのか」
『うん!』
「笑顔で頷くな、くそガキ」
べしんと叩かれた頭を抑える、がそこまで痛くない。加減は当たり前だがしてくれているらしい。しなかったらしなかったでおとーサンの聖書(という名のエロ本)を刻むだけだけどね。目の前にちらばるのは刻みこまれた雑誌に写っていた父親。目の前に目障りなものがあったから思わず手が出た、私は悪くない。
「おめぇ以外の誰が悪いんだよ」
『あんたのそんざい』
「…あれ、前が霞んで見えねぇ」
『老眼?』
まだ20代後半でしょ?老化が激しいね。いっとくけど私介護しないから。
そう言ったら何故か隅で体操座りをしていた。なんでだ。
「えっと、俺はどうすればいいんだ?」
ふと聞こえた幼い声。必然的に其方を見れば私と似たような瞳と視線がぶつかった。
『……………………』
こ れ は ?!
もしかしなくても越前リョーマか!?そうかそうか、私は姉的ポジションではなくて妹ポジションだったのか。妹なんて柄じゃないし、今までどこに居たのかと気にならないわけではないけど今は良い。とりあえず私はがしりと越前リョーマの手を握った。何故か小さな悲鳴を上げた父親は無視だ。
『わたし、きみを待っていたの!』
「は、ぁあ!?」
「んなっ?!」
顔をぼっと真っ赤にし慌てふためく越前リョーマ。あれだね、と、朋恵?朋代?朋、なんとかちゃんに売ったら絶対儲けもんだ。だが残念なことに私の手元にはカメラがない。
「おおおお父さんは許さねえからな?!ま、まだ恋愛なんて早え!!」
何の話しだ。ついにぶっ飛んだか頭。哀れみを孕んだ瞳でおとーサン(と思いたくないけど)を見た後越前リョーマに視線を戻す。
将来あんなに生意気になるのが信じられないぐらい可愛い。頬を染めてたじろく姿は贔屓目あってもなくても可愛いんだろう。ちなみに今の私には贔屓目しかない、嬉しさのあまり贔屓目になってしまう、普段の私じゃ考えられないぐらいの褒めっぷり、嬉しいから仕方ない。
「お、おめぇは空夜つうんだよな?」
『うん!あんたは越前りょーまくんでしょ?』
あ、やべ。名前知らないはずなのに口走っちゃったよ。これで何か怪しがられたら嘘八丁で誤魔化そう。嘘も方便というやつだ。るんるん気分で越前リョーマの次の返答を待つが、――その言葉に固まった。
「おっしぃなぁ!こいつァ越前リョーガ。今日からてめぇの兄貴になる奴だ」
親父のどや顔にいつもなら腹が立つはずなのに、今は立たなかった。むしろ真っ白になった。「ちょ、やめろよ!ぐしゃぐしゃになんだろ!」「うっせえよ、うちの可愛い可愛い娘に惚れたおめぇが悪ぃ」「んなっ!?ほほほ惚れてなんかねーよっ!!!」そんな会話も遠くで聞こえる。越前 リョーガ?おいおい、誤字とかじゃないよね?名前つけ間違えたとか、…ちょっと待ってよ。え?誰だそいつ。
『おま、まじでかくしごかよ…』
ようやく洩れた言葉がそれだった。
兄ができました
(えええ、ちょ、…)