「ワンセットマッチ、真田トゥサーブ!」
声高々に空に向かって放たれた試合の合図。それとともに真田弦一郎は鋭いサーブを打った。
『…………』
横を風のように通っていったボール。小さな風が頬を撫でた。
私はそのボールを目で追うだけで足を動かさなければ手も動かさない、何もせずにそのボールを見送った。
「アイツ、手も足もでないってか?」
そうすればムカつく発言が飛んでくる。
私が圧倒されたと思っているのか馬鹿にしてくるワカメ。
「所詮口だけって事だろぃ」
………あのくそ豚。焼いていいかな?チャーシューにすんぞ、こんちくしょう。
まったく、小手調べって言葉しらないの?――…いや知っているだろうけど私が女だから、嘗めているんだろう。ライセンスを取っていようが所詮は女。そんな気持ちがひしひしと伝わってくる。
しかし、この真田 弦一郎は女だからといって手加減していない。認められないと思っても手加減するという事はないらしい、私的には喜ばしい事だ。この真田 弦一郎はあのバカどものように今の私の行為に馬鹿にする事はなく見定めるように私を見ていた。
……いいじゃん、期待しときなよ。自然と上がる口角を感じた。
「次、行くぞ―――はァっ!」
ラケットを大きく振るう真田 弦一郎。やっぱ皇帝と言われるだけあって速い球だけど、
『返せるに決まってん…ッ』
ぐう、と腕を上げるが震える、
――確かに、強い。こんな力強い球はあいつ以外だと久しぶりだ、流石皇帝、感服ものだ。
でも、親父の方が力強いからね…ッ!!
回転が掛かったボールはガットをガタガタと揺らす。それを振り払うように上へ上へと上げる、
『――だぁあっ!』
それはどっからどう見ても大きく外れたロブだろう。
「あー、真田副部長の球強いスもんね。振り切るのがやっとで」
「場外ホームラン、てか?」
「…思ったより見処はないのかもしれないな」
「―…その程度か、期待損だな」
やっぱり、と言った様子が大半、失望と言った様子が二人。真田 弦一郎は後者に当て嵌まるのだろう、ボールを追うこともせずその場で冷たい色がのった双眸を私に向けていた。――しかし、私はひとり落ちていくボールを見て口端を吊り上げた。そして聞こえたボールの軽い音を静かに耳に入れる。
「ら、ラブフィフティーン…!!」
「なっ!」
「え、」
「ぴ、ぴよぉ、ぐふっ」
「っ、仁王くん出てますよ、本来が」
「あ、ああ、すまん。…じゃがもうちょっと優しくできんのか?」
「にしても、まさか。…あれは完全なアウトだと思ったんですが…、侮れませんね」
「スルーか、スルーなのか柳生おい」
ラインぎりぎりに入ったボール。皆が皆驚く中私は悪戯が成功したような気分。
愕然とする真田 弦一郎にラケットを試合を挑む時のように向けた。
『はいっちゃった』
茶目っ気たっぷりの声音で言いつつも口端は声色に似合わずニヒルに上がっている。
「――、ふ、少し侮っていたな。だが、貴様の実力はよく分かった。一切の手加減が不要だとな」
『………、うえ、あれで手加減してたのかよ』
どうやら手加減してないと思ったらとんだ私の勘違いだったらしい。手加減少しはしてたらしい、というよりかは私が小さいからその気はなくても無意識になっちゃっていたらしい。あれで手加減してたとか、終わった時私の腕死んでんじゃね?
未だ痺れる手をぶらぶらと揺らした。