「……っ」

声出しちゃ負けだ。何もかもが崩れ去ってしまう。なんでわたし?だってわたしだよ?いやそういえば今日は一次会から幸村さんはわたしを可愛いだとか後輩のナナミちゃんよりわたしをナンパするとか、会話の節々がどこかおかしかった。いやでもさ、わたしだよ?後輩で、妹みたいに構われてたわたしだよ?パニックに陥る思考を置き去りにして身体だけはやけに敏感だ。彼の細くて長い指が無遠慮にパンツの中に入り込み、わたしは思わず息を止めた。



「ほらナマエ、カンパーイ」
「いやいやいやこれ何すか!」
「水」
「ぜったい水じゃねえ!匂いが焼酎…となに混ぜたんですかこれ」
「はいカンパーイ」

先輩たちとはもう四年の付き合いだ。同じ立海大学の部活に所属していて、自分で言うのもなんだけど可愛がられていると思う。まあブン太の彼女だってこともあったと思うけど、先輩たちが大学を卒業したあとだって遊ぶときはいつもわたしと赤也がいた。もちろん女扱いされるわけもなく、仁王さんになんか「ブンちゃんこんなゲテモノとよう付き合える」と言われたぐらい。うるせーよって。
んで、目の前でにっこりと美しい笑みを浮かべる幸村さんはマジキチで有名である。部活中はヘロヘロになるまでしごき上げるし、言うこと為すことに逆らえない。こええ。まあ何かと相談に乗ってもらったり遊んでもらったり、良い先輩なのは間違いないんだけど。とりあえず先輩からの乾杯は断れないのが体育会系の宿命だ。

「うえーーまず。なんすかこれ!」
「ん?鬼ごろしの杏露酒割り」
「どん引いた。先輩って相変わらずほんとマジキチっすね、こええ」
「お前は相変わらずバカっぽい喋り方だね」
「悪かったっすね」
「バカっぽくて可愛いよ。はいナマエ、おかわり」
「マジキチ!ちょ、仁王さん隣人愛」
「むり俺ねる」
「もう四時だから声落とせナマエ」
「いいじゃん赤也の家だし」
「そういや真田トイレから出てこないよ」
「ナマエが飲ませるから」
「におーさーんおきてー」

大学生になって、もうゆるそうなテニスサークルで充分だと思ってたのに今のテニス部に入ったのは九割九分、今の先輩たちが面白くて大好きだったからだと思う。あとお酒好きだから飲み会が面白いのも大好き。そういや新入生歓迎のコンパで二リットルの梅酒パックを口に突っ込んできたのも幸村さんだった。飲み切るまで酒を流し込んでくる幸村さんは素晴らしいほど笑顔で、頭のおかしさを死ぬほど実感した。そうかあれから四年も経ったのか。良く順応した。つーかブン太たち中学からの付き合いってさあ、よく耐えたよね。
とまあこの日は赤也の家で宅飲みで。ブン太とか柳さんとかの社会人組は不参加だったけど、院生研究室組の真田っちと幸村さん、留年バカの仁王さんと楽しく飲んでいた。それなりに赤也の家を汚して破壊して、楽しかった。わたしの全身から焼酎の臭いがしたけどまあたのしかったしいっか、終電もないしこのまま雑魚寝しちゃえ。そういうテンションだったのだ。

「せまー」
「赤也ふとんはー?」
「あいつゲロって死んでる」
「えー」

ちなみに赤也の家は溜まり場になるけど六畳のワンルームで全く広くはない。散らばるゲーム類を足で避けて幸村さんは床に寝転がり、わたしもそれに続く。仁王さんはぬくぬくと赤也のベッドを占拠していて、真田っちは大の字で廊下を塞ぎ、くたばっていた。カーテンの隙間から見える空はもう明るい。久しぶりにこんな時間まで飲み騒いだと満足感に浸りながら、わたしは幸村さんの隣にお邪魔した。と、その瞬間頭に鈍い痛み。ゴンッて音したああ。

「っったああ」
「うわいまのは痛い」
「っっーー」
「バカだなあナマエは。痛かっただろ?」

赤也の家が狭いせいでリビングと隣接するキッチンの角に頭をぶつけたわけだったんだけど、それはもういい。重要なのは、そのぶつけた頭を庇うかのように幸村さんが腕を差し出してきたということだ。えとこれはつまり、腕まくらというやつですか。びっくりして身体を起こそうとするより先に幸村さんはわたしの頭をよしよしし始める。なにこれ、ほんとに幸村さん?

「あの、幸村さん?」
「……」

横を向けば目を閉じた幸村さんの端正な顔立ちが広がっており、すやすやと静かな息を立てていた。この人ほんと黙ってたらびっくりするくらい美人だよなあ。あの性格じゃなかったらきっとわたしなんて近寄ることもできないだろう。さすがに先輩の腕にお邪魔するのは幸村さんにもブン太にも申し訳ないと思い、もう一度身体を起こそうと試みる。だけど彼のもう一方の腕がわたしのお腹の上にやってきて、どういうことか幸村さんはわたしに寄り添って、いやわたしを半ば抱え込んでしまったのだ。
酔ってる?いや、幸村さんは酒強いし今までも酔ってスキンシップをとるなんて真似はしなかった。そんなに今日飲んだっけと思いつつもアルコールの入った身体は早く眠らせろとまぶたの重力を上げてゆく。とりあえず寝たい。寝返りをうって幸村さんとは反対側に身体を向け、わたしは意識を手放した。まあ腕貸してもらったくらいなら誰もなにも言わないよね。
そして話は冒頭に戻る。

「……」

眠りにつくことなんて出来なかった。赤也の家にようやく静寂が訪れてから五分も経っていなかったと思う。わたしのお腹の上に回っていた幸村さんの手が動き、そろり。スカートの中に入れていたシャツを外に出した。もうそれは、何が起こっているのか全く理解できない事態だった。身をこわばらせるわたしをよそに、幸村さんの手はそのままおへそとスカートの間を通って下着へと到達する。潜り込んできた手の気配が陰毛へ伝わり、そして彼の指がゆっくり膣に触れた。
もちろん濡れてはなかったから二三往復して幸村さんの手は出て行った。今のはなんだったんだ。ない脳味噌で今起こったことを理解しようとしたけどバカだから無理。実は夜手グセが悪くなる人なのか。つーかいきなりまんこ触ってくるってどんな手グセだ。再びお腹の上に戻ってきた幸村さんの手はわたしが必死で作り出す寝息に合わせて上下する。寝てたことに、しよう。それがいい。

「ん…」

だけどそんな決意もつかの間で。頭に敷かれていた腕と共にわたしは強い力で引き寄せられる。完全に密着し、幸村さんの高い鼻が頬に擦れた。ブン太じゃいくらすりすりされても鼻にこんな存在感はない。唇の感触が頬に広がり、いよいよ心臓の音がバクバク聞こえてきそうだ。
それでもわたしが選択したのは「寝たふりをする」ということだった。だって、わたしブン太とは三年も付き合ってていまだ順調で、先輩たちとも仲が良くって、ブン太と幸村さんたちの間にも強い絆みたいなものがあって。わたしが今起こっていることに目を瞑らないとこの大切な関係が崩れ去ってしまう。幸村さんの無意識的な手グセ、ただのいたずらってことにしないとわたし…。再びスカートの中へ入り込んできた幸村さんの手は厭らしくわたしのお尻を撫でる。どうしよう。

「ナマエ…」

掠れた声で名前が呼ばれた。彼の手はそっとわたしの手を握る。手の甲をゆるゆると触られたかと思うと、その手を持ち上げ、幸村さんはわたしの手を彼のパンツの中へ滑り込ませた。幸村さんのソレはがちがちに硬くて、その質感が男であることを感じさせた。知り合いの性的な部分を見せつけられてショックだったけど、わたしに幸村さんが勃つなんてことの方がもっと信じられない。だってわたし四年も先輩たちと普通にいたじゃん。ずっといて、早朝練習の日なんて当たり前にひどいすっぴんで行ってて、先輩たちにとっては見慣れたただの後輩じゃん。
寝たふりをしているから動かすことも出来ずわたしは彼の大きくて硬いそれが当たるのをじっと堪えていた。幸村さんの手が再びわたしの膣に触れ、今度はナカへ指が侵入する。もうこれ以上は、だめ。

「…せんぱ、」
「ん?」
「やめ……」
「やだ」

わたしが起きていたことを知っていたのかもしれない。認めたくない現実に目を開いたわたしの眼前には幸村さんの顔が広がっており、ばっちり目があった瞬間幸村さんはわらった。あの美しい笑顔をわたしに向け、指の速度を早めた。尋常じゃないくらい愛液が溢れてくるのが分かり、羞恥のあまり泣きそうになってくる。なんで濡れてんの、なんでやめてくれないの。口を一文字にし必死で声を抑える。仁王さんたち誰か一人でも気付いたらわたしの人生終わりだ。

「……っ!ふ、ゃあ」
「…可愛い」
「っっ!…も、せんぱ」

力の入らない身体で懸命に幸村さんの腕を押し返そうとするけど、並のスポーツマンじゃない彼だ、ふつうに無理。せんぱい、やめて、おねがいと小声で懇願すれば煩いと言わんばかりに唇で口を塞がれた。またあの高い鼻の感触がして、獣みたいなキスをする幸村さんに恐怖心を抱いた。

「感じてんだろ?」

声も出せない、動いて周りを起こしてもいけない。襲われているのだとようやく認めてもされるがままなのは変わらない。キュウと子宮が縮み、幸村さんの長い指で、わたしは声もなくイッた。
中学からの部活仲間を裏切って、可愛がってた後輩に欲情して、ああもう。

お酒ってこわい。そう割り切るしかない。


(141029 執筆)
幸村くんはきっとおっぱい愛撫なんてしない
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -