「──分かちあうことで喜びは二倍に、悲しみは半分になる。そんな仲間をどうかこの三年間で見つけて下さい。新入生のみなさん、入学おめでとう」

キャー!パチパチパチパチ
新入生への祝辞を述べた俺は、羨望の眼差しを浴びながら壇上から降りて自分の席へと向かう。キマッタ。なんてすてきな俺。まだ真新しくてパリパリの制服を着た一年生からは男女を問わず痛いほどの視線を感じた。そして目が合うと決まって真っ赤な顔で目を逸らされる。ざわつく講堂内に向かって司会進行役の先生が静かにするよう注意をしたが、まあ静まらないのは仕方がないことだ。なぜなら相手はこの俺、手塚国光なのだから。さすが俺、これがにじみ出るカリスマ性というものだろう。

「手塚くん!祝辞良かったよ!」

着席した瞬間、鈴の音のような可愛らしさ百点満点の声が耳に届く。それが隣の副会長席に座るミョウジのものだと認識し、俺は肩を跳ねさせた。先生方の目を気にしながらこっそり、しかし俺に笑いかける彼女にどきどきどきどき、心臓が早鐘を打って煩い。大丈夫だろうか?この音は彼女に聞こえたりなどしていないだろうか?

「…ああ。ありがとう」
「祝辞の紙、持ってないみたいだけど文章は暗記してたの?」
「そうだ」
「すごいねさすが手塚くん」

どうしようああああ嬉しい。思わず口元がにやけそうになるのを必死でこらえる。しかもミョウジの褒め言葉に最上級の笑顔が付いたときたものだから、一瞬目眩が起こって倒れてしまいそうだった。落ち着け、落ち着くんだ俺。こんなところで迂闊に喜んだりしてクールキャラを崩してはならないんだ。

「そういえばテニス部はもうすぐ都大会なんでしょ?」
「ああ」
「手塚くんは一人でやるやつ?」
「(一人で…ああ、シングルスのことか?)……そうだ」
「頑張ってね!あたし絶対手塚くんの応援しに行くから」

そんな言葉を聞いたせいで俺の思考回路はショート寸前。そんな歌があったような気がするがどうでもいい。身体が嬉しさを訴えてくるのを必死に抑えながらやっとの思いで「ありがとう」と言うと、ミョウジがまた可愛らしく笑った。
なあ、知ってるか?俺が君を好きだってこと。



「手塚!」
「…ああ、不二」
「入学式のときミョウジさんと話してたでしょ?」
「見ていたのか」
「うん。生徒会長のくせに話も聞かず楽しそうだったね?」
「…不二」
「ん?」
「俺はいつも相づちを打つだけで気の利いたことが言えない。どうすればいいだろうか」

これでも努力はしているつもり。しかし色々と限界を超えながら喋っているせいか、普段からジョークを言わないせいか。どちらにせよ俺はいままでミョウジとの会話に相づちを打つことしかできていないように思う。会話の予行練習はしたし予習復習も欠かさず行ってはいるが、勉強とはやはり訳が違う。どうすればもっとミョウジと親密になれるのか、俺の脳内は今そればかりなのだ。

「くすっ、手塚はチキンだもんね」
「…悪かったな」
「いいよ、恋愛のスペシャリストのこの僕がアドバイスしてあげる(にこり)」
「本当か、不二」
「やだなー僕と手塚の仲じゃないか」
「で、その方法とは?」
「簡単なことだよ。『女の子の気持ちになって考えてみる』んだ」

その日、俺は不二の言う通り眼鏡のフレームをピンクに変え、テニスバッグにキティちゃんのキーホルダーをつけてみた。そして明日の休日は不二の家で、姉の由美子さんにラズベリーパイの焼き方を教えてもらう予定だ。

「他に女子の気持ちになれるものは…不二のメールにはと、そうかマニキュアか」
「(いろいろ間違ってるよ手塚!)」
「(不二が確信犯の確率百パーセント)」

菊丸や乾からの視線を感じるが、まあいい。ラズベリーパイがうまく焼けたらミョウジに持っていこう。そしてこの想いを伝えるんだ国光!よし、油断せずに行こう。


(141018 改変)
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -