「しっかし!今回のランキング戦はすごかったよなァッッ!!!」
「うお。堀尾くん汚いよ」

眠てえ四限の授業が終わって昼休み。いつもは教室で弁当だがたまには学食も食べてみなさいという母親の命で俺は食堂に来ていた。偶然にも近くには越前たちテニス部一年の連中。口にモノを入れたまま熱弁する堀尾の前からサッとメシを避難させ、越前のヤロウは横を向いたまま魚を口へ運ぶ。「たしかに手塚部長凄すぎだよね」「乾先輩も凄かったよ!」ほんと、あんな試合見せられたせいでこちとら夜通しトレーニングしちまったっつの。そうとはもちろん口に出さず、俺は味噌汁を一口。なかなか学食もいける。

「でも、桃ちゃん先輩どうしちゃったんだろう」
「今日の朝練にも来てなかったよね」
「うんうん」
「部活に来なくなって、もう三日だよ?!」

一年トリオの一人である水野の言葉になんとなくデジャブを感じた。部活…三日…。そうかあのときだ、三井が学校を休んでいて挙句退部するなど言い出したとき。あのときは一応本当に体調不良だったらしいが、桃城のバカと同じクラスの荒井曰く学校には来ているから、意図的に部活に出てないということらしい。
…ったくあの野郎は。ランキング戦で負けてレギュラー落ちしたのが原因だとか言ったらぶっ飛ばしてやる。そんなヘナチョコと同じ二年レギュラーだったなんて過去形でも気分がわりい。

「そうだよー海堂先輩ならともかく」
「そりゃそうかァ!あははは」
「俺がどうかしたか?」

桃城に一発入れてやろうとトレーを持ち立ち上げると俺の名前が出て来ていた。どうしたと聞いただけなのにビビって逃げるたァなんて奴らだ。胸くそ悪いぜ。昼休憩のため混み合っている売店周りの廊下を抜ける。ここにいねえということはやはり教室か。うちの階に戻り2−8を目指していると、前方に見知った後ろ姿が見えた。

「どうしたこんなところで」
「あ、海堂先輩。今日の部活の連絡で回ってまして」
「そうか。なんだ?」
「今日の部活は平常通り放課後からです」
「…そうか」
「荒井、池田。桃城はいるか?」

明らかに桃城の様子を見に来た三井より先の廊下にはまた見知った背中がある。「お、大石先輩!チース!」にしても同じ時間帯に三人も桃城を訪ねにくるなんざ、あのバカ迷惑かけすぎじゃねえか。いや、俺はただぶっ飛ばしてやろうと思って来ただけだが。「あれ大石先輩ですよね?」三井の声を背中に受ける。なんとなく出て行くわけにも行かず成り行きを見守っていると周りの女子生徒が興奮したように先輩を指差して、だんだん教室周りに集まってきた。

「いないのか…分かった」
「何か伝えましょうか?」
「いやいい。また来る」

桃城はいなかったのか、大石先輩はすぐに教室から去ろうとしたが。「大石先輩ー!」「うわー本物!」出口は女子の大群で覆われて先輩は身動きが取れなくなっていた。おいなにしてんだと荒井の声がかすかに聞こえたような気がしたがキャーキャーうるせえ声でかき消されて中の様子は分からない。

「げ。大石先輩ってこんな人気なんですか」
「三年のレギュラーには近寄りがたいっていうのもあると思うが、お前が思うより大石先輩はもっと人気あるぜ」
「テニス部はアイドルかなにかなんですか」

げんなりという表現がふさわしい三井の表情は女たちの騒動を見つめてもっと歪む。確かに菊丸先輩やら不二先輩のファンは練習を見に来たり差し入れをしたりしているが、硬派な大石先輩ファンは迷惑となるのを嫌がって表立った行動はしない。なにより先輩自身そういうのが苦手だと言っていた。あたふたする姿に見かねたのか、三井は群衆の中へと入っていく。

「センパーイ!!ミーティングの時間ですよー」
「え?あ、ああ三井」
「ハイハイ先輩たちそろそろ解放してくださーい。解散かいさーん」
「ちょっといきなり入ってきてなんなのよ」
「あんた部活で毎日会えるんだからいいでしょ!こっちはレアなのよ」
「レアって大石先輩は生タマゴかなにかですか」
「誰が上手いこと言えっつった。オラ、ミーティングは本当だ。とっとと失せやがれ」
「げ、海堂」
「ちぇっ。いこいこー」

やっとのことで散り散りになっていった大石先輩ファンを横目で見送り、ミーティングがあるという話の流れから俺たち三人は場所を少し離れた渡り廊下に移した。あの女子たちに本気でびっくりした様子だった大石先輩も落ち着きを取り戻し、俺たちに向き直る。

「すまないな、助かったよ」
「お礼は先輩のサインでいいですよ」
「またおまえは人をおちょくるようなことを言って…!」
「でも満更じゃなさそうだったじゃないですか。ほんのり赤くなったりして」
「ハア?誰のことだよそれ」
「大石先輩ですよ大石先輩。海堂先輩も見てましたよね?」
「いや、俺は」

巻き込まないでくれと目で訴えるも三井は分かっちゃいない。大石先輩がムキになって言い返しているのも珍しく、口論する二人の間で俺は頭を抱えた。こんなことになるなら桃城の教室なんて行くんじゃなかった。

「デレデレしちゃって気持ち悪い!」
「だから鼻の下なんか伸ばしてないって!」
「なんとか言ってくださいよ先輩!」
「海堂!」
「(勘弁してくれ)」


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