「お客さーん。終点ですよ、終点」
「うんにゃ?」

おっさんに急かされ座席から立ち上がる。通学定期圏内から通り過ぎまくった分の運賃を手渡すと、バスは回送の表示に変わった。知らない景色、知らない地名。あれ、うちの学校がない。この設定もしかして見知らぬ場所に集められて殺し合いのゲームを…なわけないない。眠たい頭で、どうやら俺は寝過ごしたらしいということだけ分かった。おいおいここどこだよ。

「おいおいここどこだよ」

口に出してみても状況は変わるはずもなく。仕方なく俺は副部長に電話を掛けることにした。あーあ、徹夜でラスボスクリアした達成感で昼前まで寝ちまってただでさえ怒られるってのに、こりゃ学校着く頃には日が暮れてるぜ。遅刻通り越して無断欠席て、絶対どやされる。

「あ、もしもしさな」
「赤也!!おまえはどこをほっつき歩いとるんだ!朝練はおろか、授業にも来ておらんではないか!」
「いやー寝過ごして知らない学校に着いてたんスよ」
「今日の練習試合はどうする気だ!!」
「でももう昼過ぎだし無理っすよ」
「たわけ!今どこにいるんだ!すぐ向かってこい!」
「どこって…どこですかね? お。めちゃめちゃ書いてあんじゃんどれどれ」
「おまえには見損なったぞ!明日覚えておけ!」
「もしもし副部長!場所分かりまし…あれ。チッ。切れてんじゃねーよ」

プープー。無機質な音を立てる電話の向こう側に舌打ちをし、先ほど見つけた文字をもう一度辿る。「青春学園、ねえ」たしかあれじゃん、関東大会でもそこそこ強いけど全国には及ばないとこ。手塚さんがなーしびれるテニスすんだよなー。私立のくせに、昼下がりの警備員はうとうと寝息を立てている。どうせまだまだバスも来ないだろうし、いっちょ行ってやるか。偵察!

と意気込んだまでは良かったんだけどよ。なんなの青学、広過ぎ!でかい校舎とたくさんの舗装された道に俺はしっかり迷っていた。さっきもこの建物横切った気がすんのに、どうなってんだよここ迷路か?この前初めて行った新宿駅のダンジョン並の入り組みを思い出し、東京ってこれだからと溜め息をつく。どっかに良い道案内でも落ちてりゃラクなんだけどなーって。

「お!人!!!」
「は?」

大きなドラムバッグが歩いてると思ってよく見ると、前方に女子生徒発見!良かったこれでテニスコートまで行けると安堵していると、一瞬で距離を取られた。おいこんなイケメン見つけといてそんな対応傷付くなー。

「待てって。ちょっと道を」
「他校生!不審者!もじゃ!」
「だれがもじゃだこのチビ」
「今の会話の流れであなた以外だと思ったんですか奇跡ですね。ではわたしはこれで」

ちょいちょい。奇跡なのはお前の初対面の相手に対する暴言力だっつの。本当に行ってしまいそうな勢いだったから追い掛けて手首を掴む。振り向いた女は、顔は可愛いっつーか美人系なんだけど物凄くイヤそうな顔をしていた。

「そんな警戒すんなって」
「警戒?とんでもない。明らかに関わりたくない人なので見なかったことにしただけです」
「無視って言えよムカつく言い方するなおまえ」
「ハッ。道に迷うなんてダサい真似してる人ごときが大きく出ないように」

こいつ。今鼻で笑いやがった嘲笑しやがった。背中を向けて今度こそ立ち去ろうとする女の肩を引き、俺はそのまま米俵の要領でこの女を担ぎ上げた。うん、思ったより全然軽いないける。「ちょ、ハア?!」いきなりのことで騒いじゃいるけど気にするわけない。

「なにするんですか!離せーっ!」
「分かった分かった。テニスコートまで案内してくれたらな」
「な、頭おかしいんじゃないのアンタ!」
「誰の頭がもじゃだもっぺん言ってみろ」
「このもじゃ!はーなーせー」
「おら行くぞどっちだ」

なかなか道案内しようとしない女に痺れを切らして、俺はもう適当に歩き出した。「チカン!変態ー!」騒ぐだけ騒いで足をジタバタさせていたこいつも、違う方向に向かおうとする俺に観念したのか「違います左です!」大人しく指示し始める。

「お、ようやく大人しくなったか」
「もうコートでもなんでも案内するから降ろしてください…」
「そんなことしたらお前絶対逃げんじゃん」
「ばれてた」

困っている人を見捨てて無視しようとするなんて、とんだやつの住む場所だな東京は。ちなみに俺の抱えるこいつの持っていたドラムバッグはその辺にぽいと捨ててきた。ひどいなんてとんでもない、こいつが悪いんだぜ?

「ここが青学テニス部ねえ」
「は、三井ちゃん?!」
「なんでそんな体勢、ハア?」

ジャージを着てテニスラケットを手に持つ連中が見えてくると同時に驚きの声が上がる。名前知ってるってことはもしかして「お前マネージャー?」「あなたに答える義理はありません」テニス部と無関係なら真っ先に違うと答えそうなやつだ、否定しないってことはビンゴだな。ここまで来たらコートの場所なんて分かるけど、こんないい獲物捕まえたんだ、偵察はヤメ!作戦変更と俺はしっかりと女を担ぎ直して活気のある方へと足を進めた。

「おい!誰だお前聞いてんのか!」
「三井ちゃん降ろせよ」
「池田センパーイ…助けて」

おーおーいいね、ざわついてる。そう来なくっちゃ。きっと周りが騒がしくてもラリーを続けてるのがレギュラー、ひゅーいい線いってんじゃん。まあいいや、手塚さんは…っと。おそらくレギュラー専用のジャージを着ている人が多いコートを見つけ、中へ入るとそのレギュラージャージを着た男が一人立ちはだかってきた。

「キミ、見たところ青学の生徒じゃないみたいだけど、うちの捕まえて何か用かな」
「大石先輩!!こいつスパイですよ、スパイ」
「なんだって?」
「フッ。そんな睨まれちゃ仕方ない。立海大附属中二年生エース」
「…!」
「噂の切原赤也って、俺のことッス」

神奈川県大会地区予選を合計一時間で終わらせたという、関東のナンバーワンシード…なんつって眼鏡を逆光させている長身の男が大石って人の隣で呟く。一気に注目を集めてしまったことで俺も後には引けなくなった。再び暴れ出す生意気オンナのケツを大人しくしろと叩いてやる。「セクハラー!」立海の名前を聞いて一瞬間を置いた大石って人も口を開いた。

「真田のとこか。その神奈川代表が、うちになんの用かな」
「さっきこいつが言ったみたいにちょっとばかしスパイをと思ってたんスけど、目的がさっき変わってね」
「…とりあえず三井を降ろしてもらおうか」
「それにゃまず俺のお目当ての人を」

「そこで何をしている」

お、見つけた見つけた。呼ばずもがなご本人様登場!騒ぎを聞きつけたのか眉間にふっかーい皺を寄せた手塚さんがこちらを睨んでいる。こっえーこりゃ真田副部長並の貫禄だなほんとに中学生かよ。さすがうちの先輩も一目置いてるだけある。去年の関東大会の団体戦でうちの先輩破ったのもこの手塚さんだけだしな。

「おー!アンタ手塚さんでしょ!わざわざ出てきてくれるなんて手間が省けた」
「おい、お前」
「いやーぜひお手合わせしたいなって。いいでしょ?」
「三井、早く準備をしろ」
「この状態のわたしにそんなこと言うんですね」
「部外者は出て行ってもらおうか」
「そんなー手塚さん、ワンセットでいいッスよ。堅い人だなあ。」
「……」
「これ、御宅のマネージャーでしょ?返してあげるからさ。ね?」
「いらんから帰ってくれ」

え、かわいそ。この女を人質に手塚さんと試合させてもらおうかと思ってたんだけど、全然動じてももらえないんじゃ意味ない。そろそろ肩が痛いし、女をよっこらせと地面に降ろしてやる。「あたま、血が…」座り込む女に一応大丈夫かと声をかけると思いっきり睨まれた。

「帰りなさいもじゃもじゃ。さらにパーマをあてて目も当てられない頭にしてあげましょうか!」
「キビシーな。アンタ名前は?」
「個人情報保護法です!」

おーおー、生意気だぜ青学って学校はよ。手塚さんもシカトだし、気分悪いなあ。潰してあげようかコイツら。ま、わざわざ校内に入った結果得た情報は暴言のレパートリーがすごいマネージャーが一人いるってことだけか。こんな情報先輩たちに言ったとこでだから偵察の甲斐なしだ。「分かったら帰れー」ま、さっき三井って呼ばれてたから名字は分かってんだけどな。


(140824 執筆)
アニメの赤也はどこと練習試合だったんだろう。氷帝くらいがリアル
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