『聖ルドルフ棄権により、青学の勝利!』

俺の打った強烈なダンクスマッシュが聖ルドルフの選手に当たってそのまま気絶。試合続行は不可能となり、接戦だったダブルス2は青学の勝利で幕を閉じてしまった。当然ながら俺は当てちまった張本人ではあるけどまだまだ物足りないし、海堂には睨まれるしアヒルは起きねえし!後輩たちは喜んじゃいるけど、望んでいない勝利の形に俺は肩を落とす。そしてそこに追い討ちをかけてくる女がもう一人。

「テニスにシナリオはないって言ってたけどこれじゃ野球のサヨナラホームランだーね」
「うるせー三井!その喋り方やめろ」
「あーあ、海堂先輩が気の毒だーね。どっかの馬鹿力のせいで試合終わらされただーね」
「あーはいはい!そうですよそうですとも、どうせ俺が悪いんですよーだ!」

やり場の無い思いと高揚していたモチベーションが合わさって、タオルをベンチに投げつける。悔しいな、悔しいよ。俺はきっとまだまだ成長できる、そう思えるような試合で、きっと海堂のヤロウも同じだったってのに。

「そう自棄になるな桃城」
「部長、」
「ミスマッチに見える組み合わせだが、狙い通りだった。結果的には1足す1が3にも4にもなった」
「部長…!」
「ハッ。なーに言ってんすか。1足す1は2にしかなりませんよ小学校に戻ったらいかがですか」

向こうのマネージャーに馬鹿にされたままの三井はと言えば完全に八つ当たりへ走っていた。おまえってやつはせっかくの感動的な台詞を台無しにしやがって…!ものは例えという言葉を知らないのか。ちなみに俺は乾先輩が横で言ってるのを聞いて今知った!

「まあ相手側のマネージャーは確かにムカつくしほんと失礼なやつだけどよ!」
「乾先輩はまだしもわたしにまで暴言ですもんね」
「やっぱ失礼はおまえだ」
「完膚無きまでに叩きのめさないと一週間洗ってないタオル使ってもらいますからね、先輩たち」
「はいはい任せとけ。ね、大石」
「うん。うちのマネージャー侮辱されたまんまじゃ終わらせないよ」
「…先輩」
「よしいくぞ、英二!」
「ほいほーい」

俺たちの試合のときからフェンスの周りで様子を伺ってた他校の皆さん、お待たせしました。お待ちかねのダブルス1、黄金ペアのご登場ですよっと。準々決勝ともなると試合が終わった他校生がぞくぞく集まってくるのはもちろんなんだけど、さすがは英二先輩効果。女子の試合会場は別の筈なのに女が格段に増えてやがる。ちなみに制服着てる中には大石先輩のファンも多い。くるくるとラケットを回す英二先輩は集中力を高めてるみたいで声援をものともしておらず、いつもああなら格好良いのにと思ってみているとおもっきし頭を叩かれた。なんでばれた!

『青学大石、トゥサーブ』

「相手ギャル男じゃないですか」
「バッカ。あいつがこの試合の鍵だぜ?」
「え」
「見た目で判断しちゃいけねーな?」
「へーやるじゃん先輩」

そう、注意するべきは部長である赤澤。ヤツは去年うちの先輩レギュラーを倒した実力をもつバリバリのシングルスプレイヤーだ。それを敢えてダブルスに持ってきたということはきっとなにか策があるはず。だって乾先輩が言ってた。「なんだやっぱり乾先輩か」そうだよ受け入りでなにが悪い。けどその策とは杞憂だったみたいでよ、うちの黄金ペアはソッコーで1ゲーム目をサービスキープ。英二先輩のアクロバットも冴え渡って絶好調に見えた。…はずだった。

「…ねえ」
「どうしたんだい越前」
「…ボールが五つ、六つくらいに見える」
「は?なに言ってんだよお前」
「目が疲れるんだよね」

最初は何言ってんだこいつムードだったものの、乾先輩の分析でそれがどうやら赤澤のバックハンドの癖によるものだと分かる。向こうのマネージャーの周到な英二先輩対策だったというわけだ。ジリジリと体力をすり減らされていく相方を見て大石先輩も十八番の技ムーンボレーで対抗。黄金ペアの試合にしてはかなりの接戦だな…と隣に視線をやれば、三井はえらく神妙な顔つきで試合を眺めていた。ダブルスの試合じゃいつもうるさいくせに今日は大人しい。いや大人しくはないな、何だかそわそわしているような。

「どうかしたか?」
「いえ何でも」
「お前大人しいとなんか不気味なんだよ。英二先輩に悪態つくわけでもねーし」
「…だって先輩、すごい汗で」
「え、まあな」
「しかもここに来てオーストラリアンフォーメーションなんて体力使うことして…ああもう」
「へ」
「本部から氷もらってきます。一応冷えピタはわたしの荷物にあるのでチェンジコートのとき渡して下さい」
「お、おう」

よく理解できないままとりあえず了承すると、そう言うが否や三井はダッシュで本部のある方へ駆けていった。まあ今日は暑いしあったら嬉しいけどよ、ヤツの行動に疑問を抱きながらまた試合へと思考を戻す。ようやく三井がコートへ戻ってきたのは、ゲームカウント5−4のチェンジコートの際だった。





「菊丸先輩!」

「………ハァ………ハァッ」
「英二のやつさっきからずっとあの調子なんだ」
「…そうですか」
「赤澤くんの罠に自ら飛び込む形で試合をリードしてきたんだ…もう」

もう限界なんじゃないかと誰もがそんな嫌な予感を感じる。三井は本部から持ってきたであろう氷水を菊丸の額にのせながら、やっぱりと呟いた。ゲームカウントを聞かれたため一応青学がリードしていることを告げると、意を決したように三井は顔を上げる。

「もう棄権するかそれとも」
「は?するわけねーだろアホか」
「だったら、…大石先輩」
「?」
「これしか方法は、ありません」


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