「いやー王子!会心の走りでしたね!」
「また女子のファンが増えた確率99パーセントだ。良かったな王子」
「良かったッスね!プリンス」
「ふふ。プリンス、今の気持ちを一言」
「……しにたい」

二人三脚障害物競走がおわったあと、三井は退場門から出るのではなくそのまま救護テントに連れて行かれた。俺たちはというと英二先輩を囲んでここぞとばかりに公開処刑中であーる!だってよー、あの英二先輩が全校生徒の前でお姫様だっこだぜ?うわイケメンだ、と思わなかったといえば嘘になるしここにいる部員は皆よくやったと思ってるだろうけど、あの英二先輩がうなだれているなんてオイシイ状況を俺たちが見逃すはずがない。

「どうしたんすかプリンス!全然元気ないじゃないっすか〜?」
「うっさい!!プリンス言うなバカ桃!」
「青春っぽくてよかったよ?ドラマみたいで、もはやサムいくらいだったよね!」
「……」
「落ち着いて英二先輩!タカさんまったく悪気なく言ってることだから!な!」
「つーか三井遅くないッスか?足の捻挫だけでしょ」
「確かにね。もう帰ってきてもよさそうなのに」

これでも一応三井のことは心配してる。何ならもうすぐ部活対抗リレーが始まる番だっていうのに、テニス部レギュラーのほとんどがこの退場門付近に集合していた。ちなみに出るのは俺と越前、不二先輩。それから「こんなところで揃ってどうした」リレーのゼッケンを手に現れたうちの鉄仮面、手塚部長だ。

「そろそろ集合がかかるだろう。メンバーはこれを着用しておけ」
「…はい」
「三井の事なら心配無用だ。薬がないとかで保健室に連れていかれたらしい」
「なら良かったけど…」

「お!菊ちゃんおつかれー!さっきすごかったな」
「もー俺ら大爆笑だったよ、今度からおまえのことプリンスって呼ぶわ」
「…しばく」

通りかかったのはさっきの障害物競走にも出場していた、青学チャラ男ーズの皆さんだった。いい加減俺たちに茶化されてきたフラストレーションが爆発した先輩はバスケ部の人に思い切り殴りかかる。「ええ?マジギレ?」地面に叩きつけられたチャラ男さんを他所に、英二先輩は再び拳を作る。ちょ、これやばくないか?公の場で暴力沙汰って、下手すると公式戦出場停止とかなったりして。それやばいって!

「菊丸!!!」
「…なんだよ手塚」
「そのなんだ、おまえは怪我はなかったか?着地の体勢が崩れていただろう」

そのとき俺は部長が神に見えた。なんて、なんて出来た人間なんだ手塚国光。場の空気を読みつつ、笑い者にされる英二先輩を助けに入るなんて。しかも今までになかった英二先輩を心配する言葉で、見事暴力事件を回避!素晴らしいッスよ部長。俺は一生アンタについてく!あの英二先輩もポカンとした表情のあとに、うっすら涙を浮かべたようだった。

「なんともないよ!だいじ「もきゅ、ふ!」…………ん?」
「……」

「(もきゅ、ふ……?)」

いくら脳みそまで筋肉と言われるアホの俺でもいまの状況は理解した。噛んだのだ。あの鉄仮面が、超大切なところで、台詞を噛んだ。しかもまだ英二先輩が話している途中、完全なフライングである。痛みに顔が引きつる部長を見て脳裏に浮かんだのは約一ヶ月前に勃発した「おまる、ぬ」事件。俺が今現在進行形で尊敬していた部長は一体どこに消えたんだろう。苦々しい空気が辺りを包んだ。

「あー、その、部長?」
「……」
「……」
「ぶはァッ!あっははははははは!」
「ちょ、タカさん空気読んでええ」
「あっははは。いやー手塚、ナイスボケ」
「(ボケてねえー!!!)」
「やっぱ手塚はギャグセンスあるよ。いやー面白かった。そろそろリレーだし戻ろっか」

今がチャンスとばかりに「俺たち全力で応援するッス!」とかなんとか言って一年トリオが退散。それを皮切りに他の部員も場を後にする。残されたのはリレーのメンバーと英二先輩、そしてタカさん。無害そうな顔したタカさんは呟いた。

「俺なんかまずいこと言った?」

いや、ある意味で言うとナイスだったんだけどさ。


(140712 執筆)

手塚さんが言おうとしてたのは「もう大丈夫だ、一人でよく頑張ってくれたな」です。輪に入ろうと頑張ったのです。
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