「…ほんとにいいんですか」
「よくねーわタコ。貸しだよ貸し。さっさと入れ」
「…お邪魔します」
「ハア。なんでこんなことに」

あのまま三井を雨空の下に放置出来るほど冷たくなれなかった俺は、いま現在自分の家の前に立っていた。不可抗力ってやつだわ、徒歩1分なんだもん。三井が別人みたいにしおらしいもんだから気遣ったせいで左半身はずぶ濡れ。なんで俺がこんなやつのためによーちくしょう。

「ふーただいまー!姉ーちゃんタオルー」

とりあえず先にこいつ風呂に入れるか。服はあとで適当に俺の置いとくとして、問題は下着だ。多分っつーかぜったい姉ちゃんたちのブラじゃ着けてる意味ないくらいガポガポだと思うんだよね。俺も風邪引いちゃ困るってんで上に着ていたスエットたちを一気に脱ぐと、隣にいた三井の肩がビクリと震えた。なんだよほんと調子狂うな。

「おまえシャワー浴びてこいよ。そこの突き当たり左だから」
「すいません…」
「制服は乾燥機の中に」
「英二ー、帰ったならはやくアイスー」
「ほい。姉ちゃんタオルは」
「ちょっと!これ頼んでたのと違うじゃん!ミルクじゃなくてリッチミルクがよかったのにー」
「あれは期間限定品。一応店員にもきいてみ」
「やだ待って、お客さん?ちょっとずぶ濡れじゃんか何ぼーっと立たせてんのあんた。あとなんで半裸」

俺のうしろに隠れるようにして立っていた三井の姿を見つけたことで、姉ちゃんの世話焼きモードがスイッチオーン。「ちょっと英二タオルくらい取ってきなさいよバカ」って頭べちゃべちゃで上半身ハダカの弟に言うかふつう?まあ反抗すると面倒なのは必然だから、大人しく脱衣所に向かう。俺ってオトナ。玄関からは「ちょ、顔整ってるねー可愛いわー」なんて親戚のオバちゃんみたいなこと言う姉ちゃんの声がきこえた。

「ん、タオル」
「遅いよバカ!風邪引いちゃうでしょ!ごめんねー気の利かない弟で」
「や、こちらこそ夜分お邪魔してすいません」
「礼儀ただしー。英二の彼女ってもっとバカっぽそうなギャルだと思ってたわー」
「ちげーよこいつはただの後輩。テニス部」
「あんた後輩にまで手出したの!もー大きい兄ちゃんの昔にそっくり」
「ちがうっつってんの!」
「菊丸先輩とか勘弁してください」
「おまえこの場に及んでよくそんな生意気な口叩けるな」

さっさとシャワー浴びてこいと脱衣所に三井を押し込むと、リビングから感じたのは三つの視線。だから連れて来たくなかったんだよ実家なんか。リビングに通じる扉の間から覗く兄ちゃんと父さん母さんに睨みをきかせる。

「やー英ちゃんも中三だもんね、彼女の一人も連れて来ないからモテないのかと思ってたら」
「うるさいな、英ちゃん言うな」
「あ!彼女の前だからカッコつけちゃって」
「違うわ。兄ちゃん、大きい姉ちゃんに電話掛けといて」
「うーい」
「英二、女の子の嫌がることはするなよ」
「父さんもやめろ!」

なんでうちの家族がこんなに騒いでいるのか順を追って説明すると、いや一言で説明つくんだけど、つまり俺が彼女というもんを家に連れて来たことがないからだ。大きい兄ちゃん(長男)が一時期週替わりで違う女を連れて来て家族を混乱させたこと、股かけてた三人の彼女が鉢合わせて修羅場になったこと等々エトセトラから、兄ちゃん(次男)と俺(三男)の間で取り決めたのである。作らない・持ち込まない・持ち込ませない、の名付けて彼女三原則。ちなみに二人とも一つ目は破ってお互い黙認している。

「ただいまー。あれ、皆揃ってどうしたんだよ」
「噂をすれば大きい兄ちゃん」
「聞いてよ!ついに英二の彼女がね、」
「何度も言わせんなちがうの!」
「えいじー持ってきたよドライバー」
「あ、サンキュー兄ちゃん」
「顔とか肌がきれいな美少女でね!」
「言い方ババくせえ」
「で、何に使うの?ドライバー」
「なんだっけ?」
「…」
「…」
「あれじゃないの、大きい姉ちゃんに電話を…」
「あ!」
「仕方ねーな俺が取って来てやるから」

大きい兄ちゃんがバスタオルを被ってリビングに入っていく。よしこの隙に二階に…!と思ったのも束の間、今度は兄ちゃんに首根っこを掴まれて、「うえ」って声が出た。ほんとに手加減しねーなうちの兄姉!

「どこ行くんだよ逃げんな」
「着替えくらい取りにいかせろー!もー」
「おまえ、三原則忘れたわけじゃないだろうな」
「彼女じゃないからノープロブレム!それに俺知ってんだぞ、この前兄ちゃんの部屋から…」
「あーっ!バカ声がでけえ!」
「兄ちゃんの声がでけえ!」

「おーい英二!何持っていくんだっけ?」
「だから電話機だよ!電話!」

「英ちゃーん。彼女さんに着替え持ってった?」
「だからちが…もう面倒くせーな今行こうとしてたの!」

風呂場まで届く数々の叫び声に、髪の毛を洗いながら三井は思った。菊丸家は人の話を全く聞かない、と。


(140605 執筆)
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