「あんだと?」
「だから、先輩はインパクト時にグリップずれる傾向があるって言ってるんです」
「なんでおまえにそんなこと口出しされなきゃいけないわけ」
「乾先輩の出した前腕二頭筋強化トレーニングやってないでしょ」
「! うっせーなブスどっかいけ」
「部活中なのでどこも行けません残念ながら」

もはや恒例となったひなたちゃんと英二の口論を横目で見ながら、俺たちはコート周りを走ってクールダウンを行っていた。いつものことすぎて俺たちも止めようという気が失せちゃっててさ、もう無視通り越して風景だよ。テニスコートがあって、ボールが転がってるのと同じ感覚。そんな夕暮れの部活終わりの事。

「あれ何とかならないの?タカさん」
「何とかって言われてもなー…二人とも譲らないところがあるじゃない」
「三井と仲良く出来る人がまず少ないっすからね」
「仲良くと言えば桃、先週はわざわざ逆方面までなかよく二人乗りで送ったんだって?」
「げ 不二先輩なんで知って」
「越前が悲しんでたよ。桃先輩に捨てられたーってね」
「言ってない!」

何とかならないのかという越前の言葉を皮切りに、俺も今まで気になっていた二人の仲について考えてみる。ひなたちゃんもね、悪い子じゃないんだよ。相手のことを思って言ってることだけどただちょっと言葉のチョイスが良くないというかコミュニケーション力がちょっと低いというか。あ、それは失礼だったか!でもほら、美味しい物食べてるときのひなたちゃんなんてもう無害そのものだよ。幸せそうな顔してとたんに毒も吐かなくなるし…あ、そうだ。

「ま、男なら浮気のひとつやふたつくらいしないとね」
「だからなんで俺が越前と…」
「菊丸センパイじゃないんだからさ」
「…ねえ!!いいこと思いついた!」
「どうしたのタカさん」
「ひなたちゃんの、歓迎会をやるぞ!」
「「へ?」」



「ということで!今日片付けが終わったら親睦を兼ねてひなたちゃんの歓迎会するから!」

部活後のミーティング終わり、全員がコートに集まっているのを確認して俺は言った。そうなんだよ閃いたんだ!皆、特に英二とかはまだひなたちゃんの良いところを分かってないだけ。美味しいものでも食べながら親睦を深めれば青学テニス部全体もまとまるだろうし、些細な喧嘩もなくなるだろう!アンビリーバブルでストロングな作戦極まりないよね。

「ハア?やだよそんなの行かない」
「なんでっすか英二先輩!」
「何度も言うけど、こいつの事マネージャーだなんて認めてないし」
「そうか…残念だな、うちを貸し切って寿司パーティーでもしようと思ってたのに」
「いく」
「即答だな」
「タカちゃんとこ行くの久しぶりだなーたのしみ」

英二はうちの寿司大好きだからね、こう言って釣れないわけがないんだよ。まあ食べるのはいつもエビとか卵焼きみたいなお子さま寿司なんだけど。ひなたちゃんのテンションもわかりやすく上がったところで、さあ!着替えて我が家に向かおう!

「しかし、中学生が八時以降も出歩くのは深夜徘徊となりあまり好ましく…」
「じゃあ手塚は来るのやめたら」
「え、不二」
「よーし 親父に言っとくから、皆もお家の人に遅くなるって言っておくんだよ!」

俺の言葉をきっかけに、みんなは我先にと部室へ着替えに向かって行った。「え、ちょ、俺は」なんだか手塚があたふたしてるように見えるけど、きっと気のせいだよな!なんてったって手塚は俺らをまとめるクールビューティーな部長なんだから。

「ね、ひなたちゃん」
「はい」
「僕家に連絡入れてくるからさ、これ海堂に渡しておいてくれない?」

女子更衣室に向かおうとしていたひなたちゃんを不二が呼び止めていた。不二の手には黒っぽいノート。ああ多分あれは部誌だ。今までは大石が書いてくれることが多かったんだけど、平等に皆で書こうってなってからはレギュラーの当番制になってるんだよね。すると部誌を受け取ろうとしたひなたちゃんの手が宙で止まった。

「こ、これはなんですか…」
「ふふ なんだと思う?」
「え…不二先輩と海堂先輩の交換ノートですか」
「そうそう。よくわかったね」
「お二人はそういう関係だったんですか」

部誌を受け取ってひなたちゃんは明らかに困惑している。不二先輩のどこがいいんだろ。いいところなんて顔しか思い浮かばない。まあ顔もわたしはタイプじゃないんだけど。ぶつぶつ言ってるのが不二の耳に届いていたみたいで、笑顔で盛大なチョップをお見舞いされていた。

「痛い!!」
「大袈裟だなあ。手加減したよ?」
「いや、顔がマジだった。ぜったい」
「で、だれがいいとこなしだって?」
「聞こえなかったんですか難聴ですね、不二先輩のことで…痛い!」
「ひなたちゃんはそろそろ学習した方がいいと思う」

頭を抑えながら涙目になっているひなたちゃんとにこやかに微笑む不二を見比べて、やっぱり不二は彼女のこと案外気に入ってるな、なんて思った。ダブルスを組むことが多い関係もあって割と俺、不二のことは理解してるつもりなんだけど、なんていうか不二は軽く受け流すというか当たり障りなくするのが得意だ。いつもなら間違いなく距離を取りそうな女子マネージャーなんて存在を構うのは、やっぱりひなたちゃんがちょっと変わってるからなんだろう。もちろんいい意味でも悪い意味でも。

「ちなみにひなたちゃんが思う自分のいいところってなに?」
「耳がいいところです」
「…変わってるね」
「いやいや変わり者代表みたいな先輩に言われても〜アハハ」
「きみ本当に失礼な子だな」

やったね俺の推理大正解!なんて思ったところで携帯が一通のメールを受信した。かわむら寿司本日定休日だそうですみんなごめん。


(140322 執筆)
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -