「ごめん。今はテニスに集中したい」
「…英二のこと諦めるなんて無理だよ!わたしずっと、」
「俺のテニス、応援できない?」
「…っ!なら最後にキスして」

あーはいはい。なんだこの少女マンガみたいな茶番劇は。シャツの裾を握り目を閉じて待つ元カノを俺は冷めた表情で見つめる。スポーツテストが終わったら裏庭にきて。そう言われたときから何となくは予想してたけど、あまりにも他人事のように思ってしまう自分にはびっくりだ。顔はいいんだから早く別のやつに切り替えればいいのに、そう思いながらも少し濃いめのキスをしてやればあいつは顔を真っ赤にして去って行った。「まだ、好きだから!」そう言い残して。

「おい。最後に、って自分で言ってたじゃんかよ…なあ三井?」
「!」
「いやバレバレだからなおまえ」
「…じゃあ無駄な努力させないでください。青学チャラ男ーズの菊丸さん」
「ハハ なにそれ」
「女泣かせの菊丸さんの方がいいですか」

近くの木の影から出てきた三井は相変わらずの愛想無しだった。告白を目撃してしまって気まずい、なんてことは微塵にも間違っても思っていないみたい。それが三井という人間だと昨日今日で分からされてしまった自分がいる。

「泣かせてないよー俺やさしいから」
「どうだか」
「女の子の涙って苦手なんだよね。責められてるみたいだし醜いし、不愉快」
「いや聞いてないし。自分語りやめてくださいうっとうしい」

なんか相変わらずの愛想無しどころかいつもよりキレてんだけどさ、耳舐めたくらいで怒るなよなノリ悪いの。「そいや何か用だった?」「シャトルランの集計するから部員は終わったら集合でしたよね」「あー…忘れてた」苦い顔をする俺に三井はやっぱりという表情をみせた。校舎に備え付けられている時計に目をやればもう閉会式がはじまる時間だし。ミスった、俺は頭を抱える。三年にもなって一人でグラウンド走りたくねえんだけど。と「菊丸先輩」トントンと肩…は届かないから腕の辺りをチビ女が叩く。太陽の照りつける午後だった。

「あ、なに?」
「購買のアイスで手を打ちましょう」





「ありがとうございましたー」
「ごちです」
「ん。話の裏合わせよろしく」

並んで購買から出ると一気に日差しが目に飛び込んでくる。暑いし面倒だしサボろうということで初めて意見の一致した俺たちは近くの木陰へ。アイス一本でさっきまでのとんがった態度が嘘みたいに上機嫌になった三井には思わず笑ってしまった。「なに見てるんですか」いーや。単純だなと思って。

「さっきクラスのやつらとおまえの話になってさ、部員目当てで入部したらしいじゃん?」
「は?なんですかソレ」
「あと高校生の彼氏がいるとか二股がどうとか。噂じゃとんだビッチらしいよおまえ」
「…付き合うだの男女がああだのこうだの、みなさん好きですね」

馬鹿らしい、と続ける三井は小さく溜め息をつく。乾によれば結構モテてるらしいけど、妙に冷めてるんだなこいつ。そうしてあっという間にアイスを平らげた三井はゴミを捨てに立ち上がったかと思えば、なぜか俺の前にしゃがみこんできた。

「純粋な疑問なんですけど」
「なに」
「なんで付き合いたいとか思うんですか」
「?」
「そもそも人を好きになるって、どういうこと?」

いきなり何きいてんだこいつ、とは思ったけど返事に困ったのはそれだけの理由じゃなかった。なんで付き合いたいかって…そりゃかわいい彼女がいれば自慢になるし、男には欲ってものがあるし…あーなんかカスみたいなことしか考えてねえな俺。けど、綺麗事を除けばみんなそんなもんじゃねえの。

「自分ならどういうときに付き合いたいって思うか考えたら?」
「さあ。付き合ったことがないんで」
「は!?まじ?」
「まじですが」
「恋もしたことねーの?」
「まあ」

冷静に考えれば中学入りたてだし特に変なことじゃないんだろうけど、ちょっと驚いた。つうかあまりにも噂と真反対だし。誰だよ高校生が彼氏とか妄想して流したやつ。じゃあこいつって、

「あれか、恋愛初心者ってやつ」
「…なんかバカにしてますけど、そんなの先輩もですからね」
「は?俺が?」
「付き合った人数は多くても続かないんでしょ?じゃあ恋愛初心者じゃないですか」

まっすぐに見てくる三井から俺はなんとなく目を逸らしてしまった。本当になんとなく。けど俺が恋愛初心者ってそれはさすがにないだろ。たしかに彼女と長く続いたこととかないし未だに女の気持ちは理解できない。付き合っててもなんとなくゲーム感覚が拭えないけど、俺は

「あーでもやっぱ違うか。天性のタラシだもんな、うん」
「そうだよおまえと一緒にすんな」
「で、さっきのあたしの質問ってどうなりました?」
「そんなに知りたいなら恋愛上級者の俺がいろいろ教えてやんよ?」
「…」
「出た、スルー」

人を好きになるということがどういうことかなんて俺が考えるのにはまだ早過ぎて。答えたようなふりをして考えるのを辞めたことに、俺が気付くのはもう少し先の話。


(20130227 執筆)
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