「部活対抗種目のメンバー?!」
「す、凄いよひなたちゃん!やったね!」
「やったじゃない、もー最悪」

げんなり、という表現がぴったりな様子で一つ前の席の頭がうな垂れる。昨日体育祭に出場するテニス部メンバーが発表されてからというもの、こいつは分かりやすいぐらい不機嫌だった。荒井センパイなんてぎりぎりでメンバー入り出来てすっごく誇らしそうだったのに違いが凄まじい。昼休憩に入り、いつも通りツインテールの…自称俺のファンクラブ会長だとかいう女と、バアさんの孫の…何だっけへっぴり腰の人。その二人が弁当箱を持って三井の机にやってくる。やっぱりというかツインテールの人が俺の方に向き直った。

「ね!リョーマ様も当然メンバーよね?」
「まあ一応」
「キャー!流石わたしのリョーマ様!」
「リョ、リョーマくんも?すっすごいね!どっちの競技に出るの?」
「興味ない、忘れた」
「あ…そうなんだ」
「忘れた、じゃないよ!格好付けちゃって」

机に伏していたヤツがむくりと起き上がったところで、うわ面倒なのが突っ掛かってきたと内心溜め息。四限の間爆睡こいてた三井の顔にはくっきりと教科書らしきものの跡が付いている。

「こいつは走るだけ!わたしは超晒し者!この差何なわけ!」
「知らないよ前向け」
「よりによって障害物…しかもあの先輩と二人三脚。真面目にやってきたのにこの仕打ちだよ!」
「だから知らないって」

アンタの相手するの面倒なんだってば、とは口には出さずひたすら話しかけるなオーラを出し続けてやれば、三井はようやく前に向き直った。すると見計らったかのようなタイミングで「おーーい越前!飯食おうぜ!」あの独特の鼻につく声がやってくる。いや本当に見計らってたんだろうな、こいつ三井のこと可愛いって四月から大騒ぎしてたらしいし。案の定堀尾は頬を紅潮させあいつに声を掛けた。

「な、なあ!良かったら三井さんも」
「あ。テニス歴二年の堀尾だ」

呼び方が完全に馬鹿にしてるソレだけど、堀尾曰くそれよりも最近ようやく名前を覚えてくれたことの方が重要らしい。アホくさ。

「そ!オレテニス歴二年の堀尾!良かったら」
「丁度良かった」
「へ?何なに?」
「体育祭の障害物走代わってあげるよ、次期レギュラーとして出場しときたいでしょ」
「マジで!!!」
「…止めときなさいよ。あんたスポーツテストでひなたに完敗してたじゃない」
「ウルセー!あれは本気じゃなかった!」
「無理か…じゃあやっぱ越前頼む。あの人と種目代わってよ、同じ一年のよしみでさあ、」
「ハア?」

また俺に話振ってきたしどうしてくれんの堀尾。ジト目で見てもヤツはツインテールの人と言い合うのに忙しそうだし、三つ編みの人はオロオロするだけでちっとも役に立ちそうにない。っていうか種目、二人三脚障害物リレーだっけ。ふざけないでよ何であんなタルそうな種目と代わんなきゃなんないの。

「なんで。パス」
「だって越前と組んだほうが一億倍マシだし」
「俺はやだ」
「なっっんで食い気味に拒否んの!」
「ちょっと寄らないでよ」
「越前とならほら、身長も一緒くらいだし走りやすいし!何より先輩よりはウザくない!」
「俺はアンタがウザい」

それに身長のことは余計なんだけど。と付け足すと、気にしてると思われたのか、ちょっと人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべて肩を叩かれた。…ほんとウザい。

「お願いだよー、影でゴマ王子って呼んでたことなら謝るから」
「は?」
「やっべ今の嘘!うそだし!」
「…。っていうかあの人って菊丸先輩でしょ。いーじゃん適当にやり過ごせば」

その場しのぎの台詞だった。三井と菊丸先輩の仲が良くないことなんて皆知ってることだし、お互い表面上取り繕う感じも一切ないし。いつも通りでいいじゃんという意味でそう言ったんだけど、三井は周囲にキョロキョロと視線をやってから少しだけ声を潜めた。

「実はさ、菊丸先輩に弱味握られた」
「アンタの?」
「そ。正確にはなんつーか、不覚にも貸し作ってしまったって感じなんだけど」
「へえ」
「ここ一週間はなんか言われる前に逃げてきたけど、いま二人になるのは頂けないわけですよ分かる?」
「分かんない」
「オイ!」

だって知ったこっちゃないし。俺の無関心を感じ取ったのか「まあ聞くだけでいいから聞いてよ」とコンビニの袋からパンと唐揚げサラダを取り出す。椅子の背もたれに頬杖をついて、すっかり俺と飯を食う気だ。もう抵抗するのも面倒で仕方なく愚痴を聞いてやることにする。

「あの人持久力系のトレーニング結構サボるじゃん、それ注意しようとしたのね」
「ふーん」
「そう!そうやって言うの!」
「は?」
「わたしが何か言う度に『フーン』って若干ニヤけてさ、完全に舐められてる」
「普段からそれ結構言うじゃん」
「違うんだって。まじで意地悪い系の言い方なんだって」
「ふーん」
「ちょっと越前、ふーん禁止」

ビシッと効果音が付きそうな勢いで手に持ったパンを向けてくる三井には、はいはいと相槌を打っておいた。菊丸先輩のふーんはただ面倒なときの空返事だと思うけど、それを言ったところで先輩の弱味を握り返す必要性を力説するこいつにはきっと聞こえない。と「そういえばさ、」はたと先程までの話を止めた三井の瞳が俺を捉える。

「一昨日の部活の後、どうだった?」
「どうだったって」
「部長との試合。負けた?」
「…なんで知ってんの」

あれ、俺こいつに話したっけと記憶を巡れどそんな話をした覚えは一切ない。じゃあ部長が言ったとか、何のために?目の前の女は当然のような顔してふっと笑った。

「だっていきなり午前練になったの、越前の眼帯取れてからだったし二人とも私物のテニスウェア持ってきてるし」
「…」
「ま、結果は最近朝練から本気出してる誰かさん見れば予想つくけど」
「…うるさいよ」
「期待されてんだね、いーなあ生意気!」

だからそれはアンタに言われたくない、とやっぱり声には出さず、時計に目をやった俺は慌てて弁当を掻き込む。三井が思ったより使えるっていうのは前から思ってたけど、こうやって日々の練習も見られてると思うとどうにもむず痒かった。菊丸先輩が持久力系のトレーニングサボってるっていうのも俺全然知らなかったし。…サボり方上手いだけかもしれないけど。そういやこの前トレーニングでお喋りしながら負荷かけてたのも、怒られたの桃先輩だけだった。

「あ」
「?」
「菊丸先輩の苦手なもの知ってるかも」
「え!なになになになに!」
「うるさい」
「黙る、超黙るから何?」
「…夜のトイレって、桃先輩と話してた」
「ハア?んなのお得意の可愛い俺アピールに決まってんじゃん、バカなの?」
「……」
「あああ!最後の唐揚げ」

その口の悪さは何とかした方がいい、って言ったらあんたに言われたくないって言われるんだろうな。こうして今日も俺の平穏なランチタイムは騒々しい声に包まれ、過ぎていく。


(20160531 執筆)
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