朝。さんさんと降り注ぐ太陽の光のもと俺はグラウンドでカラーコーンを運んでいた。隣を歩く三井はダルそうな目を隠そうともせず淡々と白線を引いている。一筋の汗が額から流れ落ちた。今日は全学年合同のスポーツテストの日、運動部は揃って朝に集合させられて俺たちテニス部はグラウンドの準備を手伝わされているというわけだ。もちろん昨日から部員になったコイツだって例外じゃない。

「なんか越前って帽子がないと薄いよね」
「は?」
「あ、髪の毛じゃないよ。存在感が」
「アンタ埋めるよ」

一日経っても三井は相変わらずの態度だった。遠慮のないチビ女っていうのが昨日関わって抱いた印象。それは間違っていなかったようで、同じクラスだからと準備を割り振るときペアにされてから、相当うざい感じできてる。
まあ部活の邪魔しないなら何だっていいんだけどね。自分の中でそう締め括って、最後の白線に取り掛かる。白い粉が交錯したところでようやくソフトボール投げの整備が終わった。朝からご苦労といたわるような涼しい風を受けつつ辺りを見回す。と、いきなりうしろから首にヘッドロックをかます腕。

「ぐ ちょ、センパッ」
「おっはよーんおチビ!元気?」
「くるし…」
「俺?元気元気!三井っちもオハヨ」
「は…三井っち…?」

キラキラと花を背負って登場したのは、いつもよりセットに気合いの入った菊丸先輩だった。そうなのだ、この先輩はホントに気まぐれの気分屋。ハイハイ、今日はご機嫌ってわけね。大方スポーツテストで授業が潰れるからとかそんなとこだろうけど、事態の読み込めない三井っち(笑)は目を白黒させている。

「ヨッシャァ!!反復横跳びはぜってー負けないかんなおチビ!」
「あー 了解っす」
「てか三井っち、下のジャージ逆穿いてるよ」
「え!」
「うっそー」

それだけ言った菊丸先輩は台風のように去って行った。…何しにきたんだアンタは。「絡みうざい」そう呟いた三井の言葉に俺は初めて同意した。
グラウンドの次は体育館内の準備をすることになり、俺たちは自販機の前で一旦休憩。グレープ味のファンタで再び襲ってきた眠気を覚ましていると三井が無言で手を出してきた。図々しいので無視するに限る。

「えーーーー相当ケチだね、越前」
「何で当たり前のように貰う気なわけ」
「きみのせいで飲みたい気分になったんだからくれるでしょ!」
「なにその自分ルール」
「あ、分かった。女子と回し飲みするのに照れてんでしょ」
「もう俺の中でアンタ女子じゃないから」
「じゃあ問題ないじゃんよこせ」
「無 茶 苦 茶 だ な」

結局ファンタを奪われる始末。しかも回し飲みがどうこうって言われたせいで何となく口付けにくいし。昨日知り合ったばかりの人間に振り回されてるのも癪で、俺は手に握ったそれを思いきり喉へ流し込んだ。三井が「あー!」と叫ぶ。もしかしてまだ飲む気だったわけ。

「わたしのファンタ…」
「俺のだし」
「ほんと横暴だね。横暴王子」
「アンタには言われたくない」

「ていうかアンタの手のそれなに」
「ああこれ?朝ごはん。寝坊したから」

目の前の光景が信じられず、俺は瞬きを繰り返した。でも何度やったって変わらない、瞳に映る食パン(6斥)とポテトチップスコンソメ味。三井の食生活がマジで心配になった瞬間だった。というか俺はこれを朝食とは認めない。朝食は和食だしポテチはおかずじゃない!

「寝間着の上からセーラー被ってダッシュしたらまあまあ余裕だったけどね」
「男の前でなんて話すんの」
「ごめんごめん。刺激強かったか」
「…話すの疲れる」
「あ、海堂先輩」

正面を向く。たしかにあのバンダナを巻いた頭は俺がランキング戦で勝ってやった海堂先輩に違いなかった。やべサボってたのがというか休憩してたのがバレてしまう。海堂先輩は無言でこちらに足を進めた。ジャリジャリと小石が存在を主張してくる。

「先輩も飲み物っすか」
「…ああ」
「良かったらポテチどうぞ」
「あんたバカじゃないの」
「バカじゃないよ」
「…それ、まさか朝食、か?」
「ええ。まあ」

なぜそこでドヤ顔。案の定海堂先輩は固まってしまった。こいつが入部してからの部員のフリーズの頻度といえば普通じゃない。ハッとしたように先輩は三井から距離をとった。アンタ完全に引かれてるけど。そう言おうと口を開くと、「少し待っていろ!」海堂先輩がダッシュで去って行った。

「トイレ?」
「…俺さ、アンタと話してると胸がイガイガして殴りたい衝動に駆られる」
「越前…それは恋だよ」
「ストレスだよ」

部活以外では関わらないようにしよ…俺がそう心に決めたところで再び小石の音が聞こえ、海堂先輩が戻ってきた。…本当に少しだった。右手には高そうな包みを持っている。

「食え」
「え?」
「どうせ俺一人じゃ食べきれねえし」
「こ、この重箱はまさか…!」
「俺の弁当だ」

俺はキャラも忘れて目の前の黒い重箱へと興味を奪われた。ゆっくりと三井が蓋を開ければ、入れ物に恥じない豪華な食べ物がズラリと整列。巻き寿司に煮魚、色とりどりの野菜たちは三段に分けられすまし顔をしている。もしかして先輩って…いいとこの坊っちゃん?

「うわー!美味しそう」
「遠慮せず食ってくれ」
「いただきまーす!あ、越前はちょっとだからね」
「や、俺は」
「いい。食べろ」

ご丁寧に箸まで用意してもらったため、お言葉に甘えて煮物を口に運ぶ。程よい甘みが口内に広がり、和食好きの俺にはたまらない味だった。にしても見てよあの三井の幸せそうな顔。言っとくけど口半開きだからね。きっと今までロクなもん食べてないからあんなに痩せてるにちがいない。

「おはぎもあるぞ」
「いるー!」

もぐもぐと美味しそうに口を動かす三井を先輩は普段からは思いも付かないような温かい眼差しで見ていた。…もしかして、もしかしなくても。あのマムシと恐れられる海堂先輩がこんなやつを?そうかだから餌付けを!なんだか考えが一人歩きしてる気がしなくもないが、海堂先輩の恋愛なんてこんな面白いこと黙っていられるはずもない。準備が終わったら即桃先輩に報告だ。

「美味いか?」
「はい!海堂先輩超好きっす!」
「お手」


(20140227 加筆)
ペット扱いする海堂くんと早とちり越前
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