"世界中が君の抱擁で溢れ出す"の続き




別にキレたかったとか、そんなつもりはなかった。寧ろ優しく接してやりたいし、壊したくないし、撫でたいし、キスもしたい。けれど、俺は自他共に認めるバケモノである。一度、理性を失えば一溜まりもない。この通り、買ったばかりの家具たちはぐちゃぐちゃのゴミ同然で隣に居る臨也は鼻血を流して不貞腐れてると来たもんだ。これ以上最悪な事ってないだろ?しかも、今日は俺の誕生日。自分で言うのも気が引けるが、こいつと祝えるだけで最高だと思ってたのに、それも台無しにしちまった。全部俺がわりい。とは俺だって余り認めたくはない。だが、僅かに盗み見た臨也の表情はこの世の終わりのように顔面蒼白で、これでは今から死んでくる、とか馬鹿な事言い兼ねない。(こいつならぜってえやらねえと否定出来ないから世話ねえよな)だから、今回も俺が謝るとしよう。そうすれば、こいつは何時もみたいに憎たらしくて、可愛くて愛しいその笑顔で俺に笑いかけてくれる。な、そうだろ。臨也。俺はそう信じてるから。いつもみたいに許してくれよ、な。
「……、わりい、俺が悪かった、」
面と向かって言うのはやっぱり俺も気恥ずかしい。だから、面白くもないテレビを直視しながら告げて、臨也ではなく毎年新しくなる薄型の其れに頭を下げる。俺がこうして謝って、それから臨也が、しょうがないな、許してあげるよって笑ってくれたら完璧だ。なんて頭に思い浮かべていたシナリオを、読み返しながらちらり、と臨也の反応を伺った。顔は殆ど見れない。どんな顔をしてたとか、笑ってるとか泣いてるとか、怒ってるとか、そんな感情少しも見れなくて、早く来い、早く、俺を許してくれと、俺は何心の中で祈るように何度も、何度も唱えながら臨也が笑ってくれるのを待った。そうして、長らく流れていた沈黙。その中に、ぐずり、と鼻水を啜る音と僅かな嗚咽が聞こえて、ぎょっとするのは、やっぱり俺の方だ。突然うーうー、と唸る臨也。おい、まじ大丈夫かよ。そう言って振り返ろうとした瞬間。ごつん、と半ば頭突きのように額を押し付けられ、シャツが引き寄せられた。痛いとは思わなかったが、しっとり、と濡れていくシャツが、今の臨也の状態を物語る。泣いてる。そう思うと俺の胸も締め付けられるように痛くなった。こいつに会うまでこんな感情なんて無かったと思ったのに、殴られるなんて比にならないくらい胸が痛くて、愛しくて、堪らなくなる。これが毎年、こいつがして来てくれた事だと妙に納得が行くのは気のせいではないだろう。そんな事を思いながら、大丈夫か、と声を掛けたら、五月蝿いと罵られた。思わず零れる笑み。お前、泣いてても相変わらずだな、ほんと。可愛くねえ。いや、これがこいつの可愛いとこなのか。などとそう言う代わりに、僅かに揺れる肩を抱いて、力いっぱい抱き締めてやった。苦しいとか、俺は知るか。俺はバケモノなんだ。俺に好かれたんだからこれくらいは覚悟しねえとなあ?臨也君よお。
「ん、ん…シズちゃん、苦し、ほんと折れる、」
「っせえな、我慢しろ」
そうして、抱きすくめたまま、唯一無事に生還した二人掛けのソファに細い身体を押し倒す。とさり、と意図も簡単に横たわる臨也の顔の隣に両手を突いて、もう一度、ごめん、と言うと、臨也は消え入りそうな声で、俺がごめんなさい、じゃん、と言った。唇を噛み締めた泣きそうな顔。その顔でさえ、俺は愛しくて幸せで、思わず顔に掛かった髪をそっと避けると、顎を掬って唇に口付ける。ん、ん、と鼻から漏れる声。すでにキて居る下半身を、臨也の身体に押し付けて、ふかり、と弾力のあるソファに掌を縫い付ければ臨也は、やだ、と首を振る。やだ、とはなんだ。やだとは。やだ、じゃねえ。俺がするつったら普通するだろ。今日くらいよお。其れくらい特別な日なのに、臨也はお構いなしに首を振って、赤茶けて濡れた瞳で俺を見つめた。
「ん、シズちゃん、だめ、ちゃんと俺の計画通りやってくれなきゃ」
これから、ケーキも食べるしプレゼントもあげるんだから!俺の身体の下で意気込む臨也に思わず溜息が漏れる。お前自分が置かれてる立場分かってんのか?つうか、ムードムードと何時も口を酸っぱくして言っているこいつがまさか、俺にこんな事を言うとは、思っても見なかった。てめえが一番ムードねえだろ。この場合はこのまま、俺のいう事を聞いて、この雰囲気に流されておくべきだ。異論は認めない。俺は誰に言うでもなく、心の中で告げて、目の前のこの五月蝿い唇を、覆うように二度目の接吻けを交わした。じたばたと、臨也は暴れたが俺はもう知らない。今日くらいは、いるか居ねえかわかんねえけど、神様って奴も許してくれるだろうよ。という事で、諦めろ、臨也。大人しく、俺の腕の中で喘いどけ。とは言えずに、飲み込んだ言葉の代わりに、俺は臨也の漆黒の髪を撫でて実行できそうに無い最高の計画が潰れた事に対して、謝罪くらい、して置こうと心に決めていた。

(ごめん、臨也。お前が好きすぎてまじごめん、)






恋を語る接吻け









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