「あー…シズちゃんの所為で腕、折れたかも」
そう口にしながら唇を尖らせ、俺の隣で堂々とアスファルトに座る男を見た。男は顔色一つ変えることもなく、購買で買った如何にも機械で作りましたって感じの焼きそばパンを頬張り、それは手前の自業自得だろうが、と言う。まあ、あながち間違っては居ない。ちょっかい掛けてんのは俺だしね。なんて思いながら俺は手作りの弁当を使えない利き手とは逆の手で一口食べた。それにしても奇妙な関係だと我ながら思う。俺は殺したい程、この男が嫌いなはずで、勿論、この男も殺したいほど俺が嫌いなはずだ。其れが周知の事実ではあったが、今この状態を見れば、きっと誰であろうが目を疑うはずだ。さっきまで殺し合う勢いで喧嘩していた二人が清々しく晴れた空の下、寄り添っているなんて誰が信じるだろう。ましてや誰も来ない屋上で二人きりで仲良く昼食だなんて。いや、誰も信じる訳がない。こんな地獄絵図みたいな光景を心から信じるなんて人間が居るのならば俺が誠心誠意、心から褒め称えてやる。それほど俺とこの男の関係は複雑怪奇なものなのだ。何時からか、と言われればはっきりはしない。いつの間にか、流れで。男女の関係でもあるだろう。いつの間にか流れでセックスしちゃいました。みたいなそんな感じである。
まあ補足ではあるが、この男はまだ童貞だけど。その話は置いといてとにかく。いつの間にか、流れでこんな関係になった俺達なのだか問題は少なからず出てくる訳だ。別に理由なんて物は無くただお互いに寄り添いたいから寄り添っていると言うのが本当の理由で、其れ以外全く持って何も理由がないこの関係について少しだけ悩んでいた。
違和感を感じない方がおかしいと言えばおかしいのだが、いくら考えたところで答えは出ないし、この単細胞が何かを考えて居るとも思えない。寧ろ何も考えて無いからこそ厄介なのだと思う。終わらせるきっかけとなる何かがあれば、こんなにもこの俺が頭を使う必要も無いのに。其れすらも見当たらない。ただ俺の目の前には平和島静雄と言う男が居るだけだ。俺も俺とて、今殺そうと思えば殺せるって隙だらけのこの男に頭を預けるなんてどうにかしてるとしか思えないし。もしかしたら天変地異の前触れ、もしくは青天の霹靂かも知れないと、切れた唇を舐め、平和島静雄と言う名の化け物を見上げた。
「……何だ、食いてえのか」
男が食べかけの焼きそばパンを差し出しながら首を傾げた。どうしてそうなる。本当であればそう突っ込んでやりたいところだが、もうその突っ込みも疲れてしまった。其れでなくとも俺は今右手を負傷している訳で、何をするにも億劫になってるって言うのに。これ以上この男に体力を奪われてたまるか、と静かにため息を吐き出した。シズちゃんってほんと馬鹿だね、と言わなかっただけ褒めて貰いたい位だが、当の本人は何が気に食わなかったのか不機嫌そうに眉間に皺を寄せて俺を見下ろしている。あー…まじめんどくさいよシズちゃん。めんどくさい上にまためんどくさいよ。ほんと勘弁して下さい。心の中でそう呟きながら俺は貼り付けたような笑顔を男に向けた。我慢だ俺。昼食くらいはゆっくり食べたい。戦争ごっこなら食べたい後でも出来るよ。自分自身に言い聞かせるように何度もその呪文を唱え、お世辞でも美味しそうには見えない焼きそばパンを持った男に、あー、と唇を開けた。ここはこの菓子パンを貰って置いた方が賢明だと俺の天才的な頭脳が判断したのだ。仕方ない。不味くても飲み込んでみせる。俺はそう決意して、あぐ、と青海苔の掛かった焼きそばパンに噛み付いた。鼻腔を擽るソースの匂いが鼻につく。うわ、と思わず飛び出しそうになった声と一緒にその不味いパンを咀嚼し、ごくり、と咽喉を上下させた。
見上げた男の顔が目に入る。それだけで何か腹が立つ。何その顔。むかつくな。美味いだろ、と言いたげな。美味しくないから、不味いから、こんなもん。俺の作った弁当の方が無限大に美味いよ。勢い余って口から出そうになった言葉を口直しに詰め込んだ玉子焼きで封じ込めた。ついでに何か言いた気だったシズちゃんの口にもからあげを放り込む。美味しいでしょ?そう自慢してあげたかったが其れも我慢だ。俺ナイス。俺超ナイス。心の中で自分自身を褒め称えながら、咀嚼した玉子焼きを飲み込み、地べたに置かれたイチゴ牛乳の噛み潰されたストローに唇を付けた。あ、俺を見た男の視線を物ともせずに平べったくなったストローを吸うと甘ったるい液体が口の中の粘膜に張り付く。何これ。思った通りの味だけどさ。イチゴ牛乳の所為では無いと分かってるんだけどシズちゃん見てたら文句しか出てこない。だから、いらない事を言う前に男の唇に噛み潰したストローを返した。口直しがしたい。そう思い弁当に箸を付けよう、としたがいつの間にか弁当の中身は空っぽだ。さっきあげたからあげが最後だったっけ?うわー、もう今日は本当にツイてない。俺はシズちゃんじゃないけど、今日はこの男の所為にしたい気分だった。だからさ、そろそろ、始めよっか?ね、シズちゃん。腕が折れたのはシズちゃんへのハンデ、って事にしといてあげるから。
食べ終わった弁当箱を赤いランチクロスに包み、壊れないように、と屋上の隅に置いた。まあ、生き残ってる確率は二割ってところだろうけど。そう思いながら、徐に立ち上がり、尻に付いた埃を払う。そして、俺を見上げた男の顔を見下すと、俺は先程返したイチゴ牛乳を蹴飛ばした。ごめんね、イチゴ牛乳。君に罪は無いよ。心の中でそう呟きながら、俺は青筋を浮かべたシズちゃんに、笑みを零した。

「時間切れ。休戦終わりだよ。シズちゃん」






麗しき死と心中ごっこ









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