昔々、池袋と言う街に一人の赤鬼が住んで居りました。赤鬼の名前は平和島静雄。幼い頃から強大な力を持ち、この街では知らない者が居ないほど恐れられている赤鬼でありました。ですが、本当の赤鬼は心優しく、人間と仲良くしたい。そう思っていたのです。いくら、”化け物”だと罵られようとも、その心は揺らぐ事はなかったのです。しかし、自分に自ら近づいてくる者は誰一人居ない。何時も独りぼっちの赤鬼。そこで、赤鬼は考えたのです。人間の役に立つ事をしよう、と。
人間の世界の事を一から学び、人間の世界にはには借金取り、と言うものがある事を知った赤鬼は、借金の取立てを始めました。初めは何をしていいのか、右も左も分からず、ただがむしゃらに、授かった強大な力を振り回しました。ですが、人間は離れていくばかり。それでは、加減をして取り立ててみよう、としましたが、赤鬼のほんの少しの力でも人間は弱く気を失う人間ばかりでした。ですが、喜んでくれる人間も居ます。人間の名前は田中トム。赤鬼の唯一の理解者でありました。借金取りの世界を一から教えて貰い、この人間のおかげで今の赤鬼がある。赤鬼は心の底から彼を尊敬し、感謝していました。が、赤鬼は其れだけでは満足出来ませんでした。もっと多くの人と仲良くなりたい。近くに感じていたい。自分は化け物ではなく、人間だと、認めて貰いたい。そう思っていましたが、何時まで経っても、赤鬼の願いが叶う事はありませんでした。外を歩けば避けるように、道が出来、恐れる者は自分と目を合わせる事も無い。この先もずっと、人間達は自分を認める事は無いだろう。赤鬼は薄々と感じ始めていました。そして、その事実が、赤鬼を酷く傷付け、悲しみに陥れたのでした。
ですが、それを救ったのが、青鬼であります。青鬼の名前は折原臨也。青鬼は赤鬼に内緒でずっとずっと、昔から赤鬼を見守り続けていた唯一の鬼でありました。しかし、その事実を知らない赤鬼は何かと口煩く、自分を化け物だと罵る青鬼を嫌っていたのです。青鬼はその事も承知の上で、彼を救いたいそう思っていました。理由なんて要りません。元々、青鬼は赤鬼以上に人間に嫌われていました。それが今後変わる事の無い事実だと分かっていました。だから、自分が犠牲になる事など、青鬼にとっては簡単な事でありました。赤鬼のことなら何でも知っている、赤鬼が願うなら、何でも願いを叶えたい。青鬼の願いは正に、赤鬼の願いを叶える事。そこで、青鬼は考えたのです。自分が街で悪さをし、赤鬼が自分を懲らしめれば、赤鬼は英雄になれる。赤鬼を理解しなかった人間達が、彼の心優しさを理解するだろう。そう考えたのでした。そして、ある日を境に、青鬼は、赤鬼の住む池袋に姿を現しては街の人間に悪戯をして回りました。人間の携帯を踏みにじったり、人間の情報を集めては悪い事に利用したり。悪い事を沢山、沢山、して回り、その度に、赤鬼に懲らしめられたのです。
そうして、数ヶ月。青鬼は計画は成功しました。赤鬼には見る見る内に友達が増えていきました。高校生の3人組や借金取りの後輩。首なしのライダーや幼い子供。いろいろな人間達が彼に笑い掛け、赤鬼も笑い返す。彼の顔が綻ぶその姿を、遠くから見る度、青鬼はとても嬉しくなり、とてもとても幸せでした。しかし、それは計画の終わりを告げていたのです。もう赤鬼に自分は必要無い。自分が居れば赤鬼はまた何時か嫌われてしまうかも知れない。其れを承知の上で実行したはずの計画でしたが、青鬼は何時か来るこの日が来なければいいと、心の片隅で思っていたのでした。ですが、もうおしまい。この日は訪れてしまったのです。青鬼は、池袋には二度と現れないと決めました。彼の為に、彼が幸せである為に。自分は違う街に行こうと、そう、決めました。けれど、最後に、青鬼は手紙を書きました。メールや電子機器の苦手な赤鬼の為に、一字一句、綺麗な字で真っ白な紙に、数行の言葉と、さよなら、の文字を、刻んだのでした。

シズちゃんへ。友達出来てよかったね。これで馬鹿な化け物の君も一人じゃ無くなって、めでたい限りだよ。
俺はもう君に殴られるのも嫌だし、池袋には二度と現れないから安心するといい。けど、歩き煙草は止めてよね。君の大好きな街が汚れるよ。それから、他に嫌われたくないならもっと笑って。それじゃなくても顔が怖いんだからさ。
なんて、余計なお世話だよね。じゃあ、俺は遠くから君が早く死んでくれることを祈ってるよ。

そう記された手紙を置いて、ある日の夜、青鬼は池袋から姿を消しました。赤鬼はその手紙を読みましたが、現実味が湧きません。あの口煩い青鬼が、無理に決まってる、と高を括っていたのです。が、しかし。一週間、二週間、三週間。一ヶ月経っても、本当に、青鬼は赤鬼の前には現れません。本当ならば、喜ぶべき事なのです。ですが、何故だか、赤鬼は苛立ちました。友達が増え、心を許せる相手が居る。その事実はこの上なく幸せな事なのに、何故だか物足りなさや、焦燥感が赤鬼を支配したのでした。そんな時、赤鬼は、新羅と言う黒鬼から聞かされました。青鬼が自分のためにして来た事や、何故、この池袋から消えたのか。全て、聞かされ、全てを知りました。しかし、赤鬼に込み上げてくるのは、感謝や罪悪感ではなく、怒りでした。勝手な事してんじゃねえ、と。勝手にやって俺の許可無く消えてんじゃねえ、と。怒りは沸々と込み上げ、そして、一瞬にして爆発しました。赤鬼は衝動のままに走り出します。行く先は言うまでもありません。青鬼の住む、新宿と言う街でした。一発殴らないと気が済まない、一発説教してやらないと気が治まらない。赤鬼は爆発した怒りを握り締めて、掌に拳を作ると、新宿の青鬼の棲家に乗り込んだのでした。
固く施錠されたドアを持ち前の怪力で壊し、中に怒鳴り声を上げる。壊したドアを放り投げて、土足のまま上がり込むと、驚いた顔をした青鬼が居ました。胸倉を掴み上げて、引き寄せると、懐かしさを覚えるほどの青鬼の匂いに包まれます。やはり、顔を見ると、苛立ちは更に増しましたが、それ以上に込み上げた安堵に、赤鬼は初めて、自分の気持ちが理解したのでした。赤鬼は、青鬼が好きでした。嫌悪にも似たその感情は愛情の裏返しなのだと、漸く理解しました。そして、きっと青鬼も、間違いで無ければ、自分と同じ気持ちでは無いのだろう、そう思いました。
「…っシズちゃん、何しにきてんだよ!不法侵入じゃん!出てけ!こんなとこ見られたらどうするつもり、」
「……うるせえ。つうか、てめえよ、俺のこと好きだろ。だから消えたんだろ。」
青鬼は勿論、否定しました。それはもう全力で否定はしましたが(バレていることも知らずに)、赤鬼にとってそんな事はどうでもよくなってしまったのです。初めから赤鬼には横暴なところがありましたが、よりによってこんなときに発動してしまったからです。彼の中では、すでに、青鬼と自分の想いが同じであると、自己完結してしまいました。こうなっては、青鬼も逃げられません。彼の運命はすでに、赤鬼の手の中に在りました。

昔々、池袋と言う街に一人の赤鬼が住んで居りました。赤鬼の名前は平和島静雄。幼い頃から強大な力を持ち、この街では知らない者が居ないほど恐れられている赤鬼でありました。ですが、今の彼は悲しみに暮れる事も無くなりました。何故なら彼は一人ではありません。尊敬できる先輩が出来ました。沢山の友達が出来ました。そして、彼は今、一生で一度の恋をしていました。ですが、その恋の行方がどうなったかは、誰も知りません。それこそ、赤鬼と青鬼、彼らのみぞ知る世界でありました。






傾く世界に終わりのない結末を










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