痛い痛い、と肩を叩く手に俺は両手で押さえつけた臨也の頭を離した。
"痛いな、もう。"
眉間に皺を寄せながら臨也は不機嫌そうに呟くが、俺はもっと不機嫌だ。息苦しさで目が覚めるなんて、最低だ。俺が望んだ朝とは全く、これっぽちも、掠りもしてない。普通よお。シズちゃん、起きて、とか甘ったるいくらいの声で優しく起して、おはようのキスの一つくらいもらえるだろ。いや、こいつなら、優しく起すとこまでで十分出来た方だが、今日は酷かった。まじで死ぬかと思った。これは嘘ではない。ほんとに死ぬかと思った。この俺が、だ。って事は一般人はとっくの昔に意識不明って事だろ。これって。ほんとに、もううん十年こいつと居るが本当に恐ろしいヤツだ。せっかくいい夢見てたのによお。ったく、手前の所為で台無しじゃねえか。
「……手前、普通に起せねえのか……」
「普通に起したじゃん。いつもキスしろっていうかキスもしたげたし?」
「キスしろとは言ったけど息を止めろとは言ってねえだろうが!まじで、死ぬぞ!」
「はは、何言ってんの。君がこの程度で死ぬと思う?もしこの程度で君が死んだら、それは君じゃないね。宇宙人だよ」
「てめえ、宇宙人より、俺は上かよ!」
当たり前じゃん、シズちゃんだよ。と笑う臨也は歪みねえ。まじでか、こいつ。本気でそう思っているから手に終えない。
はあ、と溜息を吐き出しながら、俺の腹の上に乗り上げる臨也の腰を引き寄せる。背中で組んだ指先で臨也をホールドしながら、ぼんやり、と憎たらしい表情を眺めた。なに、と吐き出す臨也に、別に、と呟いて、寝癖の付いた髪を撫でてやる。ん、と素直に目を閉じるとこは全く、可愛い限りだ。思わずニヤけそうになった唇を噤んで、胸元に置かれた両手を握り締めた。
ひんやり、と冷たい指先に、先ほどまでの見ていた夢が脳裏に蘇る。有り得ないが、俺の頬っぺたを慈しむ撫でて、キスして、好きだと言ってくれる、そんな夢、だったような気がする。殆ど覚えては居ないが、幸せだった事は確かで、俺は更にニヤけた唇を抑える事が出来ずに口元に笑みを浮かべた。
「ぅわ、キモっ!どうしたの、シズちゃん、気持ち悪いよ!まじで、その顔やばいよ!」
「うるせえ。いい夢見れて幸せだったんだよばーか」
「いい夢って?バケツプリン食べる夢?」
首を傾げた思わず愛しさが込み上げる。バケツプリンって。それはそれで幸せだが、それより、比べ物にならないくらい遥かに幸せな夢だった。けど、否定するのもめんどくさくて、そんなとこだな、と肯定しながら、俺に乗り上げた臨也の身体をぐい、と力いっぱい引き寄せて、ベッドに押し倒した。わ、と漏れる臨也の声が耳を掠る。
だが、俺は最早、聞く耳を持ってる暇などなかった。愛しさが止められない。だってよお。夢だろうが、現実だろうが、俺の隣にはこいつが居るって時点で、俺は、世界一幸せもんだろ。なあ。臨也。お前もそう思うだろ?
ぎゃあぎゃあ、と五月蝿く喚く臨也の細い腰を押さえつけるように乗り上げ、掌を合わせ指先を絡める。正に形勢逆転と言った言葉が相応しい体勢に、にやり、と込み上げる笑みを満面に出してやる。すると、なにそのドヤ顔!ムカツク!死ね!シズちゃん死ね!と臨也は更に五月蝿く喚き散らした。
それでもやっぱり、可愛いものだ。んな顔真っ赤にされて言われても、全然怖くもねえし。寧ろ可愛いし。愛しいし。俺の性欲に火を付けるだけだ。それをこいつは分かってるのか。いや、分かってるわけねえよな。無意識だからこそこんな、可愛いんだ。ずっと前からそうだった、こいつは。無意識の可愛さを振り回して、俺を陥れて(?)で、結局、俺はこいつが死ぬほど好きになったのだから。こいつは一生こうで居るべきだ。もちろん、俺の隣でな。絡めた指先を握り締めながら、見下ろした臨也の唇にそっと、触れる。
ちゅ、と触れては離れる口付けの合間に、囁くように、臨也、と零すと、観念したかのように、遠慮がちに握り返された。
「…ん、ねえ、朝、ごはんと、昼ご、ごはん、どうす、んん、のっ?」
喋ってるときくらいキスやめてよ。ごち、と頭突きをされて漸く口付けを止めると、痛かったのか眉を顰めた臨也が、どうすんの、ともう一度俺に問う。
どうって、んなもん、後に決まってんだろ。そう即答してやると、臨也は呆れたように溜息を吐いて、しょうがないなあ、と笑った。うわ。まじで可愛すぎる。こいつ、犯罪だろ。これは。警察はこいつを可愛すぎる罪で捕まえるべきだ。そう思ったが、口にするとまた臨也に馬鹿されるか、もしくは軽蔑の見られる事間違いない。だから、心の中に何とか留めて、その代わり、態度で示してやろうと、食い尽くす勢いで再び臨也の唇に口付けた。
てめえは可愛すぎだという事を分からせてやらなければ成らない。まあ、臨也の事だから。理解できねえんだろうけど。それでも、自分を蔑んだような手前に少しでも伝わるように俺が努力してやんねえとな。だって、それが俺の役目だろ?半ば自分に言い聞かせ、口付けの濃度を上げると、臨也は、あ、と口の中で声を上げる。色気もクソもねえな。もう笑えるくらいだ。唇を離して、なんだよ。と派手に叫んだ臨也の頬っぺたを撫でる。
すると、臨也は、なんとも可愛らしい笑顔で、鬼の様な事を言って退けた。もうさすがとしか言えない。だが、しょうがねえな。俺は給料、全部使うの覚悟で、その罰を甘んじて受けようと思う。
「その代わり晩ご飯はお寿司。それも大トロね、大トロ。いいよね?君に拒否権なんて無いから。覚悟してよ」






守って、あげたい。愛し愛し君へ










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