エイプリルフール静臨。




これだから、俺はシズちゃんがだいっきらいだよ。

「ねえ、シズちゃん」
別れよっか?と彼の背中に向かって呟く。なるべく平常心。まるで「お風呂一緒に入ろ」って誘うみたいに、明るい声でその旨を伝えた。俺の予想、シズちゃんはエイプリルフールのことを知らない。というか覚えないと思う。それを総合して考えると取り乱す事はまず無いだろうが、はあ?と聞き返すくらいはしてくれるだろうか。でなければ、冗談は顔くらいにしとけ、と笑ってくれるか。まあ、予想というよりは希望に近い物があるのだが。どちらでもいい。俺はどっちにしたって、彼の反応をみて楽しめるし、俺の予想通りの反応して振り返ってくれたら、俺は笑って「嘘でした、ごめんね」って君にキス出来る。だからね、早くこっち向いてよ。シズちゃん。
「ねえ、シズちゃんってば。聞いてる?」
ゆさゆさ、とシズちゃんの肩を撫でて、べったり、と頬を背中に付ける。こんな風にしたら、きっとすぐにバレてしまうのだろうけど。最初から吐く気の無い嘘なのだから、バレたとしても何の問題もない。ただ今日というイベントを楽しんで、シズちゃんに馬鹿だろって笑ってもらって、キスが出来れば俺にとってその他の事はどうでもいいのだ。ねえ、ねえ、と抱きついた背中から、彼の固い腹部に腕を回して指先を交差させる。これでもう逃げれない、と口元に笑みを浮かべて、さらさら、と揺れる金色の糸をくいくい、と引っ張れば、シズちゃんの整った横顔が見えた。笑ってない。え、何、もしかして本気にしちゃった?なんてくすくすと、込み上げる笑みを堪える事無くシズちゃんの背中に振動を伝える。はは、やばい。もしかして別れたくない、なんて泣いてくれちゃったりして?はは!有り得ない事ではないでしょう?
「ねえ、シズちゃん、シズちゃんってば」
「……俺もよお、別れてえと思ってた。だから丁度いいな。何で付き合ったかもわかんねえし。あー、なんかすっきりした」
ありがとな。とシズちゃんは振り返って笑った。え、え、何。何言ってるかわかんない。何、シズちゃんのくせに俺を騙そうとしてるわけ?あはは、冗談にしてはきついよ。俺でもないのに。シズちゃんが言うと本気に聞こえちゃうから不思議だよ。ね!シズちゃん、嘘だよね。俺のこと騙そうなんて、君も俺に中てられちゃったのかな。ふふ、と引き攣る顔に、笑みを浮かべてそれはもう嬉しそうに笑うシズちゃんに、ヘタクソな嘘だね、と吐き捨てる。もう何、ちょっとびっくりしちゃったじゃん、とばしり、とシズちゃんの肩を掌で叩く。おあいこってことで、これで許してあげる。もう、しょうがないな、シズちゃんってば。とへらへら笑った俺が触れたところをシズちゃんは汚い物をほろこる様に、何度か肩を叩いた。
「な、に…やめてよ、シズちゃんっ…シズちゃんのくせに嘘とか!100年早いから、もう!まじびっくりしたよ?もういいから!ね!十分びっくりした!」
「……ああ?嘘?嘘じゃねえよ。てめえから別れるつったんだろ。」
またまたあ、と突っ込もうとした俺の声に食い気味に、は、とシズちゃんは鼻で笑った。俺の経験上、其れは怒ってるときの笑い方だ。恐る恐る、見上げるシズちゃんの顔。その表情がマジ、だと言っていた。さっきまで浮かべていた笑みも消えて、いつも俺が映っていた瞳に俺の姿が映らない。交差してた腕が、うぜえ、と振り解かれ、突き放されるように伸びた腕は、彼と出会った時に戻ったように、冷たかったように思えた。之が本来の姿?いや、違う。俺は、こんなの、いやだ。うそだよ、シズちゃん。別れるなんて言ったの嘘だから。ね、君も嘘でしょ?ねえ、やだって。やだ、シズちゃんやだ。やだ、やだよ、やだ。だって、俺、君の事好きだよ。愛してるよ?恥ずかしくて普段言えないけど。世界中で一番君が好きなのに。これは嘘じゃないのに。
そう言いたいのに、さっきまでの饒舌が戻ってこない。息が詰まって上手く呼吸が出来ないし、全身が震えてるような感覚が湧き上がった。声を出そうとして、まるでカオナシみたいに、あ、あ、て咽喉が喘ぐだけ。馬鹿みたい。今ならまだ、嘘だよ、別れたくないよ、って縋りついたら、君だって許してくれるかも知れないのに。ただ彷徨うように、手を伸ばして、俺がもう少し、君に好かれるように頑張ってたら、なんて過去を後悔する事しか出来ないなんて。ほんと、がっかりだね。シズちゃん、ごめんね。ごめんね、ごめん、……俺死んじゃうかも。



「……嘘でも、死ぬほど此処、痛ぇだろ…」



こつり。シズちゃんの石頭が頭突きをするように(普通なら俺の頭がパーンとしてしまう程の勢いで)俺の額に触れる。そうして、伸ばされた指先が、抉るように心臓に触れて、よしよし、と慰めるように、俺を抱き締めた。泣くくらいならくだんねえ嘘なんて二度と吐くんじゃねえぞ。そう聞こえる声も何故か涙声である。見れば、シズちゃんも泣いていた。俺と同じ様に指先も肩も震えてたし、瞳から零れる大粒の涙は顎のラインから首元に流れていく。まるで、デジャブ。俺の姿を見ているみたいだった。だから、仕返しだと言われてもあまり理解出来なかったし、頭の痛みも心臓の痛みにも反応してる余裕なんてないし、抱き締められてる理由もわかんなかった。それくらい、動揺していたと言う事が今となれば悔しいし、シズちゃんの乏しい演技力に俺が騙された事も情けないのだけど。しかし、彼の貴重な涙が見れた事と、この後行われた今までに類を見ない激しいセックスでチャラ、と言う事にして置こう。
シズちゃんが、ごめん、と泣く。俺もごめんね、と泣いた。そうして、なだれ込んだリビングのカーペットの上で俺は誰よりも、何よりも大きな大きな愛を受け取るのだ。

これだから、俺はシズちゃんがだいっきらいだよ。






きらきらの二枚舌








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