※スペック×静臨。若干グロ。一部不適切な描写がありますので十分に気をつけてください。




足元から燃え上がる炎に、目の前の女は自分の現状がどうあるのか理解する前に、固いコンクリートに沈み込んだ。悶え苦しみ、地を這うような喘ぎ声。身体に纏わり付くオレンジは次第に赤へと変わり、人間が燃える独特の燻した匂いが、この街の真ん中から喧騒や悲鳴に巻き込まれていくのを、俺はぼんやり、と見ていた。暗闇と街のネオンに浮かび上がる蜃気楼。ゆらゆら、ゆらゆら、不規則に揺れるその向こうを俺はただただ、ぼんやり、と見ていた。

初めて臨也の力を見たのは、確か俺達がまだ高校生だった冬の事。寒さに悴む指先を真っ赤に染めて、臨也は手を繋ぎたいと俺に言った。勿論俺は嫌だと断ったが、断ったところで臨也がいう事を聞くはずも無く、俺達は寒空の下で指先を絡め、長く続く凍て付いた道を歩いた。本当は、感謝してたんだ。こいつの隣居れる事、こいつとこうして掌を合わせて温もりを分け合う事。そうさせてくれるこの寒さや季節にさえ、俺は感謝してた。そうして、俺達は、小さく芽吹いた恋を大きく大きく育んでいけると信じてたんだ。だけど、其れを変えてしまったのは、間違いなく、臨也に芽生えた力。化け物よりも、化け物。あの時の臨也は面白い物見せてあげるよと、無邪気に笑って居たけれど、あの時、俺がちゃんとこいつを止めていたら、臨也はこんな風にならなかったかも知れない。こんな風に、化け物になってしまう事も無かったかも知れない。
パイロキネシス。その日、臨也はそう言って俺に説明した。簡単に言うと、何も無い処から火を発生させることのできる能力、らしい。そんな馬鹿みたいな力、到底俺に理解出来るようなものではなかったが、臨也は何処か嬉しそうに笑って、その日の内に俺に力を見せてくれた。これで俺もシズちゃんと同じだね、と。これで俺もシズちゃんと同じところに居るね、と。子供みたいに無邪気に笑って、ゴミ捨て場にあったボロボロの家具や萎びたぬいぐるみを燃やして見せた。俺はすげえな、と褒めてやる。しかし、これがきっと俺の最初の過ちだったんだ。臨也は、俺が褒める度に、次から次へと"モノ"を燃やした。俺が授業がダルいと言えば、教師の教科書を燃やした。俺の陰口を叩く奴が居ればそいつの私物を燃やした。それからあらゆる物を燃やして、もう燃やす物が無いと分かると、"生き物"を燃やした。楽しいね、楽しいね。臨也はそう笑って、俺に褒められるのを待って居たんだと思う。
間違いなく、この世には説明できない物が存在してる。それは俺の力やセルティがその部類に入る事も理解しているつもりだ。だからこいつがこっち側の人間(いや、化け物か)になるなんて思っても見なかった。臨也の力は、間違いなく、俺達の分類の中でもトップに入るだろう。人間だけで、無くこの世の生き物全てを脅かし兼ねない。俺達の脅威になる事は確かだ。それでも、俺は臨也を愛する事を止められなかった。こいつをこんな風にしたのは、俺だ。こいつをこんな化け物にしてしまったのは、間違いなく俺なのだ。だからこそ、臨也には俺が必要で、傍に居てやらないといけない。俺に褒められる事を待ってる臨也を、俺の腕の中で守ってやらなければ。なんて、そんな物きっと俺のエゴでしかなかったのだと思う。それほど、俺は臨也に狂い始めていた。

剥き出しの皮膚が焼け落ちていく匂いは、そうしてる間にも辺りへと広がっていったが、俺の鼻にはすでに馴染んで居て気にならなくなった。悲鳴も、何も、聞こえない。赤い炎も、焼けて行く人間も、俺に視界には入らなくて、俺はただただ蜃気楼の中に浮かぶ臨也の歪んだ表情を見ていた。嫉妬に狂う瞳が紅色。青白く透き通った肌が小刻みに震えていて、今すぐにでも抱き締めてやりたくなる。臨也、臨也、俺の、臨也。そうして、俺は細い身体に僅かに纏わりつく蜃気楼を掻き消すように、熱くなった身体を抱き締めてやれば、臨也は直ぐに俺の胸に飛び込んだ。囁くように問い掛けた声に反応は無い。だが、やがて俺を抱き返す掌はそっと俺のシャツを握り締めて、急激に体温を下げていく。俺の体温に馴染むと、暫し安堵の息を吐き出した。
「、シズ、ちゃん、………あの女が悪いんだ…。あの女が、シズちゃんにッ!俺は殺したくないのに!あいつが、シズちゃんに近づくから!」
俺は悪くない。俺は悪くない。俺は悪くない。責めても居ない俺に、次から次へと吐き出されるヒステリックな声が、鼓膜を揺さぶった。しがみ付くように握られたシャツが多くの皺を作り、今にも破けそうである。もしかしたら、燃えているかも知れない。或いは焦げているか。どちらにしろこのシャツはもう着れそうにないな、なんて考えながら、俺はガタガタ、と震える細い身体をそっと抱き抱えた。大丈夫、大丈夫。臨也大丈夫だ。分かってる。暗示のように囁いた声に、臨也は安心したように脱力していく。そんな身体を強く抱き締めながら、俺は歪む唇を押し殺すように、たゆたう黒髪に口元を押し付けた。
臨也を、こんな風にしたのは俺。臨也を、人殺しにしてるのは俺。臨也を、苦しめているのは俺。臨也を、縛り付けているのは俺。臨也が、必要なのは俺だけなのだ。逆に言えば、全ての罪はお前にあるんだよ。なあ、そうだろ?臨也。俺を歪めたのは、お前。俺を狂わせたのは、お前。俺を化け物で生まれてきた物、きっとお前の所為なんだよ。だから、俺達は責任を取り合わないといけねえ。其れがケジメってもんだろ。俺が一生お前の隣に居る代わりに、お前も俺の隣に居なくちゃいけねえ。俺がこの馬鹿みたいにデタラメな力でお前の首をへし折ってやる代わりに、お前は俺の身体を跡形もなく焼き尽くさなきゃいけねえ。だから、いつか来るその時まで、人間が燃える独特の燻した匂いが、喧騒や悲鳴に巻き込まれていくこの街で俺達は、たった二人で、

生きていこう。






待ち囚は攫う









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