静→←←臨前提のデリ臨。愛の使者デリック。果てしなくデリ→∞臨。




「やっと、見つけた臨也さん。」

彼はそう言って突如、俺の目の前に現われた。この街にはそんな不可思議な事が溢れては消えていく。それは俺が知っている事もあれば、知らない内に消えて行く事だってある。それを思えば何一つ不可思議に思う事は無いが、こいつの場合は、俺の中ではその部類には分別されなかった。だって、どう見たって、これは。シズちゃん、じゃ、ないのか?顔はどう見たって、シズちゃん。容姿は真っ白なスーツにピンク色のシャツ。特殊な艶のあるヘッドホンとシャツと同じ色の瞳に俺が映っていた。シズちゃんとサイケを混ぜたような。新型のボーカロイドだろうか?でもこんなの買った覚えは無い。俺はサイケだけで手一杯だ。(まあ、実際のところサイケは今シズちゃんとこに行ってるんだけど)それでもこんなシズちゃんに似たボーカロイドなんて、俺が傍に置いておく訳が無い。となったら迷子、なのか?その割には意識がはっきりしていて、俺に会いに来たと言う目的はしっかりしている。まさか、シズちゃんが買ったとか?いや、それは無い。あの貧乏人がこんな高性能でしかも、新型なんて買えるとは思えない。津軽だって俺が買ってあげたのに。じゃあ…、誰だ、こいつ。一体どっから来たわけ?
僅かドアを開けて数十秒。立ち尽くした俺の前で、跪く彼が手の甲を取り、流れるように唇を落とす。触れた唇は少しだけ柔らかく、新型特有の機能なのか、僅かに温かく肌を滑った。これが彼、新型ボーカロイドのサイケデリック静雄との出会い。今思えば其れも懐かしくさえ感じるが、まだ出会ってから一週間程度しか経っていなかった。俺だって、嘘だと思いたいよ。だが、その事実でさえ、俺を踏み躙って彼の存在は、驚くほどのスピードで俺の生活の中に溶け込んで、今や自然な物となっていた。
今日もサイケはシズちゃんとこの津軽に会いに行った。出来れば俺も行きたかったが、俺には留守番せざるを得ない理由がある。サイケデリック静雄。俺はこいつにデリックと付けてやった。ダサいがシズちゃんみたいで可愛い。とか断じて思っていないのだが。そんな事はさて置き、俺が留守番せざるを得ない理由。全部こいつの所為。今正に俺の、背後で俺にへばり付いてる、デリックの所為だった。結局出会ったあの日、俺はこいつを追い返した。まあ、生きてる人間ながら普通の反応だと思う。いきなり来たボーカロイドに、やっと見つけたなんて言われた上にキスなんかされて、(顔はかっこいいけど)更に、俺は貴方のものです、何て何処ぞのホストだよ!って突っ込みたくなるような甘ったるい台詞を吐かれたとなれば。男なら、気持ち悪くて手に終えない。(シズちゃんに好意を寄せている俺が言えた事では無いが)やはり、知らない人をおうちに入れてはいけませんと親から習った分、俺は帰れ、と言うしかなかった。だが、それだけでは済まない事くらい、俺も薄々は感じてた。さすが最新型のボーカロイド、と褒めるべきか。それとも、うちの旧型のぽんこつボーカロイドと罵るべきか。シズちゃんちに行ってたはずのサイケが、俺が知らない間に、デリックを内に招き入れていた。 (全く持って意味不明だし、毛頭言い訳も聞きたくはないが)サイケの言い草によると、うちのマンションの前に座っているのを拾ったそうだ。そして、何と驚く事に、(全く驚いてはいないが)サイケとデリックは兄弟で、デリックのマスターは俺と言う事だ。何言ってんの。俺の口からは其れしか出てこない。だが、俺の弟ー!と叫んで家の中を走り回るポンコツでも通信くらいは出来る。知りたくも無いデリックのプログラムをサイケを経由して読み取ると、やはり知りたくも無い事実が其処には並べられていた。それから何だかんだと在って、結局デリックは家で引き取った。(良い子は落し物は交番に届けるが)所有者不明の上返す宛ても無かったし、シズちゃんに顔も似ててかっこいいし。それに、うちにはもう馬鹿でポンコツが一人居るのだ。もう一人位増えても何も変わりはしないだろう。そういう軽い気持ちで、デリックを家に置いた。しかし、それが、そもそもの間違いだった事に、俺は一日目で気付く事になる。何かと臨也さん、臨也さん、と五月蝿いとは思っては居たが、こんなにスキンシップが激しいボーカロイドが居るなんて誰が想像しただろう。サイケも俺への執着が相当な物だとは思っては居たものの、こうして見るとデリックの比ではない。臨也さん、臨也さん、と仕事してる時はもちろん、本読んでる時も、料理してる時も、デリックは何処までも俺にべったりで。トイレまでついて来ようとした時はどうしようと思ったくらいだ。(結局説得するまでに10分ほど掛かって、俺の膀胱も緊急事態に陥ったと言う事は誰も知らない)だから、今のようにこうして抱きつかれているだけのように見えるこの光景も、ここ数日の俺の努力があってこその賜物なのだ。
「…臨也さん、ごめんなさい、」
俺の腰に巻きついたまま、首筋に口付けを落とすデリックが流暢な言葉遣いで、首を傾げる。さらさら、と人口毛には見えない綺麗な金色の髪が鮮やかなヘッドホンから零れ落ちる様に俺の首筋をなぞる、とそっと首を竦めて、べつにいいよ、と頭を撫でてやった。すると、ぎゅ、と抱き締められた力が強められ、シズちゃんと同じ声で、デリックは、静雄きらい、臨也さんすき、と子供のように、呟く。どういうプログラムなのか俺にも分からない。だが、デリックの初期プログラムには俺の存在もだがシズちゃんの名前も存在もインプットされていて、一方的に明らかな嫌悪を表した。だから、俺もシズちゃんの元にはいけない。デリックのお披露目も兼ねて自慢しに言ってやろうかと思ったが、この通り。デリックはシズちゃんの名前を聞く度に、嫌いだ、行きたくないと、子供のように駄々を捏ね、俺に抱きついたまま断固として動かなくなった。そして今に至る、と言う訳なのだが、案外こうしてるのも悪くないと思う自分が居る。怒りを通り越して、呆れているのかも知れないが、シズちゃんには無い可愛げがあるし、何より愛されてる優越感って物は格別だ。最初はシズちゃんに会いたいな、とか思う気持ちの方が強かったが、今となっては、デリックとこうしてる方が幸せなんかじゃないかと思ってる始末で。俺も手に終えなくなっている。だって、デリックはシズちゃんと違う。撫でてやると擦り寄ってくるし、キスすると照れたように笑うし。同じ顔で同じ事をするなら、断然こっちの方がいいじゃないかと思ってしまうのも分かってもらえるだろう。所詮、ボーカロイド、だと言われるかも知れない。けれどね、この可愛さに嵌ると、きっと誰も抜け出せない。俺自身も、例外では無いからね。シズちゃんの姿が、デリックの姿と重なって、もう、後戻り出来ない処まで来ている。デリックの唇が言葉を紡ぎ、デリックの声が鼓膜を揺らし、デリックの指先が俺の肌に触れる度。俺は、愛の海に落ちて、落ちて、もがいても遁れられない愛の底で、君に愛される夢を見るんだ。それが、俺も知らないデリックの新しいプログラムで、何の役にも立たない、愛するだけの新型の能力。








溺れる人魚









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