気持ち的には静(→)←臨←新っぽいもの。臨也のオカズな静雄




空中を舞うような自分の声に吐き気がする。だけど、この手は止まらない。まるで俺とはまた別の意識を持ってるような、そんな感じだ。口では表しがたい感覚。理解してもらおうとは思ってない。元々俺を理解する人間など居ないのだから、心配せずとも大丈夫だと、何時だか諭された事もあったが。念の為だ。本人と、鉢合わせしても困る。ありえない事ではないのだ。この部屋の持ち主は俺よりよっぽど、彼に信用されているし、俺よりよっぽど近い位置に居る。この匂いが証拠だ。彼の匂いがする。彼の煙草の匂いも。それだけで、身体が熱くなって、俺の身体は彼だけで埋め尽くされていく。早まる掌の動き。止め処なく溢れる、先走りが纏わりついて、絡むように指先を流れると水音を立てる。全く持って不快な音だ。自分が人間である事を、雄である事を、突きつけられているような気がして。俺は、奥歯を噛み締めた。
「、ほんとに君も、飽きない男だね」
何時、入ってきたのか分からない。しばらく消えていた、新羅が溜息混じりに俺の手元を覗き込んで呆れたようにベッドを軋ませながら腰掛けた。掌の動きを止めて、何しに来たの、と言い放つ。くすり、と俺より笑んだ新羅が、僕の部屋なんだけど、と俺の襟足を撫でた。そうだ。此処は新羅のマンション。新羅の部屋。それも小奇麗にされた、リビングの真ん中で、俺は自慰に勤しんでいる。何故って?そんな事決まっているじゃないか。30分前まで彼が其処に居た。この言葉に限る。残った煙草の吸殻。飲みかけの紅茶。ほんのりと残る香水の匂い。くん、と鼻を鳴らすと、もはや動物並とも言えるほど、鼻腔を擽って、部屋に入った瞬間に熱を持て余した。そして毎回の事ながら自慰に走る。もう一度や二度ではない。彼がこの部屋を訪れる度に、俺には叶わない夢を此処で、この場所でかなえるのだ。何故新羅が許すのかは知った事ではない。知ったところで、もう止めるとか止めないとか、そういう領域で無くなってしまったのだ。今なら、新羅の視線でさえ、彼に置き換える事が出来る。新羅でさえ、役に立ててやることが出来る。この能力を褒めて欲しい程だ。まあ、この男は、そんな気の利くような男ではないことは重々承知しているのだが。現に、空気も読まずに俺と彼との時間を邪魔してくれている。早くしなければ、何れこの匂いは消えてなくなってしまうと言うのに。そうなれば、次何時出来るか、何て俺にも分からない。その事をこの男は分かっているのだろうか。いや、分かる訳が無い。化け物と恋愛なんて楽しんでるイカれた人間が、俺の淡い恋心など理解出来るわけもないのだ。
「あのさ、いいから出てってくんないかな?これ、途中なんだけど」
情け無いが、自分の勃起した股間を指差しながら、髪を梳く新羅の掌を払い除ける。そしてまた、目を閉じて俺は俺の世界へと閉じ篭った。シズちゃん、シズちゃん。シズちゃん。君が好きだよ。目を閉じて叫ぶように、君に届くように何度も心の中で唱える。握り込んだ俺自身を擦る掌の動きを早めながら、唇から漏れる吐息を堪えるように唇を噛んだ。そっと、その唇に触れる柔らかい何か。不快ではない、その感触。舐めるように舌を伸ばして、なぞる。股間と一緒に膨れ上がる好奇心を止めることが出来なくて、貪るように、其れに唇を押し付けた。ん、と鼻から抜けるような声はまるで女のようだと、ぼんやり思う。むしろ女になれた方が幸せだった、なんて俗っぽい事まで思ってしまって。どうしようもない。本当にどうしようもなくて、絶望的だ。
押し付けた其れから、そっと唇を離し、瞳を隠す目蓋をゆっくり、と持ち上げる。ぼんやり、と白む視界の中で、朧げに映る人型に目を細めた。その瞬間、温もりと一緒に、目の前を静かに闇が包む。そうして、再び触れる、柔らかな感触が唇を覆った。何故だか、泣きたくなる。俺はこんな優しさを知らなかった。
「臨也、僕じゃダメなのかい?ねえ、臨也、」
愛してるよ。そう紡がれた声は到底彼には似ても似つかないような少しだけ高い声だった。ねえ、シズちゃん。この唇が、君であれば良かったよ。本当に、君であれば良かったんだ。






孕む戯れを粉々に









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