Happy BirthDay Shizuo!




「仕事が終わったらそっち向かうから。」と言い残して電話を切ったあいつの声はもう片手に握られた携帯からは聞こえない。そしたら、急に力が抜けて、身体が熱くなった。頭が働かない。けれど妙に冴えてるっていうか。倦怠感というよりは、安堵感に似ていて、もしかしたら、あいつからの電話に興奮したのかもな、なんて天井を仰ぎながら思った。それにしても、あいつ張り切ってたな。いつもより幾分か高い声色だけで其れを察知出来る自分もどうかと思うが、また何か突拍子もない事やってのけるのではないかと、想像するだけで、少しだけ笑えた。今日と、言う日。俺にとっては別に特別だとは思わない。だけど、あいつが年甲斐もなくはしゃぐ姿を見るのが嫌いではない俺は今年も例年と同じように何も言わずに、付き合ってやるのだろうと思う。我ながら少し呆れるが、浮かれているのもまた事実。認めたくはねえけど、好きな奴には何されたって嬉しいって事はここ数年であいつに何度も思い知らされてる。今更、といえば、今更ではあるが、そのまま認めてしまうのは癪に障るので絶対に口に出したりはしねえけどな。まぁ、あいつを待つ逸る気持ち位は、素直に認めてやろう。「早く来い。急いで来い。今すぐ来い。」声にならない声で、何度も何度もあいつに届け!と願うみたいに呟いて、不ぞろいの古い畳の上でごろり、と体を横たえる。見上げた規則正しい天井の木目が僅かに歪み、酔ってしまう前に、そっと目蓋を落とし、俺は鼻につく畳の匂いを肺いっぱいに吸い込んだ。
染み付いた煙草と微かに混じる甘い香水。ああ、あいつが近くに居るみたいだ。そう思うと、気が抜けたように、俺の意識はぷつり、ぷつりと途切れていく。そうして、いつの間にか失った意識の中で、覚えているのは、あいつの幻覚が見えたって事ぐらい。


「…脳みそ筋肉で馬鹿でも風邪は引けるんだねぇ。ほんと君って。実に興味深いよ。」
その柔らかな肉声。意識を失う前と変わらない、畳の固さと、額に掛かる僅かな圧。その直後、ひやり、と研ぎ澄まされた冷たさに、急に意識が戻った。目蓋を持ち上げるとほぼ、同時に不快な冷たさを残したソレを力の加減を知らない掌で掴めば、痛い、と非難の声が届く。ああ、幻聴では無さそう。その声の主を、見上げながら思う。いつの間に来たんだ。来たならもっと早く起こせよ。そう声を上げる。しかし、上手く声帯を震わせることすらままならない咽喉は、奴に俺の声を届ける事は出来ずに、ただ、空気を喘ぐだけだった。
唇から漏れる空気が熱い。全身もだるいし、掻いた汗が全身の不快感を更に増長させている。今更、自分の身体を襲っている不調に気付いたって遅いのだが、何もこんな日で無くとも思った事には違いなかった。死にはしねえだろうけど、こいつ、楽しみにしてたのにな、と視界を覆う水分で霞む先の臨也の白い頬っぺたに掌を伸ばす。氷みたいに冷たいソレは今の俺には心地よくて、無心で撫でれば臨也は少しだけ可笑しそうに笑って、俺の万年床から引っ張ってきたのであろう布団を顔面に掛けた。突如、視界に広がった暗闇と、詰まる息に眉を顰める。しかし、次の瞬間、聞こえた声があまりにも弱弱しくて、キレる訳にもいかなくなった。
「……君、死んでるのかと思ったよ、」
んなわけあるか。
顔面に掛けられた布団を避けて、言うと、臨也はまた可笑しそうに笑う。いつもならば、そうだよね、と嫌味を含んだ声で言ってのけるこいつが、そう言わずにただ笑うだけなんて、相当弱ってんな、と率直な感想だ。それでどうこうしようとは思わないが、まあ。うん。抱き締めてやんねえ事もねえな。ついでにこの風邪もこいつに感染せば、一石二鳥じゃねえか、と今にも折れそうな細っこい手首を掴んで、布団の中に引きずり込んだ。ぐ、と込めた力に、胸元から聞こえる詰まった声は、可愛げもクソもねえ。けど、抜け出せないように、有り余った腕力に物を言わせて力いっぱい抱き締める。下手したら背骨が折れるかも知れないが、そんな事は俺の知った事ではない。こいつは一遍死んだほうがまだマシになりそうな気もするしな。
そうして腕の中で地味な攻防をしている内に、もがいていた身体が、ゆっくり、と動きを止めて、俺の腕の中にピタリ、と納まる。まるで、最初から此処にあった物みたいに違和感なんて全くなくて、力いっぱい抱き締めていた腕の力を少しだけ緩めた。さらり、と撫でる黒髪。抵抗しない事をいい事に、キスの雨を落とす。細い猫っ毛に広めのおでこ。縁が赤くなった耳殻と白い頬っぺた。最後に落とすとこはあの薄い唇と決まっていて、順調に落としていったキスを臨也は甘んじて受けていた。しかし、唇に到達する、約1cm前。腹の辺りを蹴り上げられ、キスをする事は叶わなくなる。痛くはねえけど、目先にある少々顔色の悪い伏せられた表情は長めの髪に隠れていた。
「……シズちゃんの所為でケーキ台無しだよ。」
「あ?」
ほら、と顎で指した玄関先には横になって放置されたケーキ箱。綺麗にされていたのであろうラッピングもぐしゃり、と崩れてあられもない姿を晒していた。冷静に辺りを見渡せば他にも在る。脱ぎ散らかった臨也の靴や、家捜しされたみたいに荒れた部屋は多分臨也がテンパってやったのだろう。血相変えたこいつ。うわ、すげえみてえ。口に出せば途端に刺されそうだから言わないけどな。俺だって少しは悪いと思ってんだ。今日はこいつの好きにさせてやろうとか。その程度の償いをするくらいには。
「……ほんと、なんでよりによって今日なんだよ。」
「…悪かったな。」
バカシズちゃん、と紡いだ唇に今度こそキスを落とし、不機嫌な其れの髪を優しく梳いてやる。そうして、上がった視線と目を合わせて、もう一度ごめん、と呟けば、臨也は呆れたように笑った。誕生日おめでとう。赤いその瞳で、多分そう言ったんだと思う。







スイート・スイート・ラヴァーズ









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