新羅視点。




「はい、新羅、あーん」

差し出された指先はとても長く綺麗で、その間に挟みこまれた其れをチョコレートだと認識するまでに、約2秒。それから、何の躊躇もなく、閉ざされた唇を開けてそのチョコレートを口の中に招き入れるまで、約3秒掛かった。至って普通のタイム。遅くもなければ早くもない。僕は咥内に蕩けていくチョコレートの甘みを味わいながら、そんなどうだっていい事を思っていた。
じんわり、と溶けてなくなっていく其れが、次第に液体と化して食道を流れていく。其れが自然の摂理で、食べ物を口にした人間が誰しもしなければいけない事でその行為自体誰にも止められない。それが、彼がわざわざ、僕の口にまで運んでくれたチョコレートだとしても、それはもうすでに胃の中に到達している頃だろう、と咥内に残る甘い余韻を、これまた、彼のくれたパック入りの緑茶で胃に流しながら、思案した。 まぁ、難しく言う必要はない。このチョコレートは僕には甘すぎる。ただ其れだけのことである。彼が、これから口にする言葉のみたいに。
「ねえ、新羅。シズちゃん今頃何してるから」
ほら、始まった。毎日のように聞いてるこの言葉を聞く度、僕は彼に問い質したくなる。君は恋する乙女かい?と。いや、そんな事問い質す必要もないかも知れないね。見れば分かる。彼は正に恋する乙女だ。正真正銘の、僕がうんざりするくらいの、かなり盲目の、ね。
「そんな事聞いてる暇があったら、静雄君を追いかけたらどうだい?大体、せっかく静雄君が迎えに来たのに断ったのは君じゃないか。」
「だって、…そのまま一緒に帰ったら、尻軽みたいじゃない?俺、シズちゃんには尻軽だって思われたくないし。そんなに安くないの!俺は!」
これはもう僕の理解の範囲を超えている感情だ。一緒に帰ったくらいで尻軽に思う男がこの世にいるだろうか。などと、不毛な疑問が込み上げてくる前に、僕は、目の前で頬杖を付いて腑抜けな顔をしている臨也に向かい溜息を吐いた。大体、静雄君も静雄君だ。迎えに来たのなら、引きずってでも連れ出してくれればいいものを。静雄君も臨也にご執心な為に、僕はこんなにも板ばさみなのだ。
さらに、僕の苦悩はこれだけじゃない。こうして助言にも似た、厄介払いをする事で解決するのならば、まだ幸せな方なのだが、このバカップルが此処だけで終わるはずもなく、毎度放課後に送られてくる静雄君からメールは、今日もまた軽やかなメロディーと共に僕の携帯を振動させた。平仮名ばかりのまるで支離滅裂なそれは目で追うだけでかなり、疲れる。僕だって出来ればこんな文章読みたくはないのだが、僕は馬鹿正直だ。素直に送られてきた文章を見てしまう。そして、何故かいつもの如く、臨也を静雄君の元に追い払う羽目になるのだった。
ああ!僕はなんて!友人想いのいい奴なんだろう!!君たちはこんな素敵な友人を持って本当に幸せ者だね!!静雄君、僕は本当にいい奴だよ!その事にいつか気付いてくれよ!いや、本気で気付いてくれ!そして、臨也を連れ出して、僕をこの居た堪れない程の惚気から解放してくれ!
と、僕は懇願しながら、その華麗なるミッションに取り掛かった。方法は至って簡単。静雄君から送られてきたメールに僕が返信をするだけでいい。「臨也が君と帰りたいって騒いでるよ。もう一回誘ってあげて。」だとか。「臨也が君を探してるよ」とか。とにかく何でもいい。臨也の事を持ち出せば、静雄君は引っ掛かってくれる。本当に簡単だろ?こんなに簡単なのに、僕を経由しなきゃ行けない時点で可笑しいんだけど。まあ、今のところは許してあげる。僕は何だかんだ言って、君たち二人を応援しているからね。本当、僕って呆れるくらい素晴らしい友人だよ。そう自嘲しながら、僕は簡単な文章を添えたメールを静雄君の元に、送信した。
その10秒後、臨也の携帯が鳴る。誰から、って決まってるじゃない。静雄君だ。すぐさま電話に出た彼の顔を見てれば、多分僕じゃなくたって分かる。頬を真っ赤に染めながら、幸せそうに顔を歪めたり笑ったり。ほんと恋する乙女って君の事を言うんだね。と微笑しながら、彼の指先に納まったチョコレートをもう一粒、つまみ食いして、教科書やノートを詰め込んだ重い鞄を持ち上げた。ガタリ、と席を立つと、臨也の赤い瞳が僕の姿を映し出す。その瞳は酷く恋に輝いていて、僕は優しく髪を撫でて、口の中で溶けていくチョコレートを味わいながら、教室を後にした。後ろ髪を引かれるような、臨也の甘い声がまだ聞こえてる。だんだん、と近付いてくる廊下を踏み鳴らす足音は静雄君のモノだろうか、なんて思いながら、校舎をぐるり、と遠回りした。悲しいくらい真っ赤に染まる廊下、僕の足音だけが響く。見上げた窓の向こうの向こう。遠くの方に静雄君と臨也の幸せそうな姿が見えた。
ほんと、僕の友人達は手が掛かる。けれど、決して嫌いではないし、寧ろ、きっとこの感情は愛にも似たモノだって分かってるから。僕は君たちの友人を辞めないで居てあげる。だから、いつか、いつか。あと10年後でも、20年後でも、おじいちゃんになってからでもいい。どれだけ時間が掛かってもいいから。僕が生きて君達の友人で居る間に。僕を最高の友人だ、と褒めて、抱き締めて、僕に君たちが幸せだって、教えてね。
頼んだよ、親愛なる、僕の怪物たち。







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