一ノ瀬さんとの合同企画宝石箱提出。
タイトルは著作権表記の関係で変更。
特殊設定の為、ご注意下さい。








「夕方には帰ってくるから、皆いい子にしててね」



そう言ってママが出て行ったのはつい30分くらい前。今はまだ、3:15。掛けっぱなしのテレビではニュースとお笑い番組みたいなのがくっついたような番組で。ただ流してるだけで中身は全く入ってこない。面白くないなって変えたチャンネルの先にも、目新しい物はなくて、結局、ポチポチって何度か変えただけで、続き物のドラマになってその動きを終えた。ふあ、と欠伸をして、其々好き勝手やってる兄弟達を見遣る。津軽は日々君と月君のオママゴトに付き合ってあげていて、デリックはサイケの足元でこくり、こくりと船を漕いでる。ろっぴーは一人黙々と難しい本を読んでは10分に一度程、テーブルに置かれたオレンジジュースを口にした。そんで、サイケはただソファーの上でごろごろしてるだけ。特にやる事も無くて、お歌でも歌おうかと思ったけれど、ろっぴーにうるさいって怒られて止めた。
むぅ、と唇を尖らせて、うつ伏せだった体勢を仰向けに変えて天井を見上げる。一面、真っ白の其れは、汚れ一つ無くて、足跡すらない雪みたいにただただ広がっていた。つまんない、小さく呟いて唸り声を上げる。その声はきっと、この、ママもパパも居ないさびしい部屋に居る兄弟全員に聞こえていたのだろうけれど。誰一人として、サイケに反応する事は無かった。だって、サイケが感じている違和感を、兄弟達が感じていないはずが無い。ただ其れを口にしてしまえば、寂しさは急速に増幅するだけ。現に、今、この空間で、サイケは少しだけ泣きそうになって、焦燥感が心臓をきゅ、と握り締めた。ママの声が、聞こえない。優しい声が、聞こえない。
「サイケ偉いね」って笑う赤い瞳が、くしゃり、と髪を撫でる細くて綺麗な指先が、ぎゅっとサイケの身体を包み込んでくれる温かい腕が、此処には、何処にも見当たらなかった。寂しさに、ぼんやり、と真っ白い天井に向かって腕を伸ばしてみる。まだまだ遠くて、届きそうにない天井に、ママより小さいサイケの掌が彷徨い、ぷらぷら、と頼りなく揺れて、何となくそれを見てたら、何故だか鼻の奥が痛くなって、まるで風邪を引いた夜みたいに、心細くなった。滲む涙と流れそうになる鼻水を、ずず、と吸い上げ、「ママ」と呟きそうになる唇を喘えがせる。そうして、何も掴めない掌に苛立ちとか、寂しさとか、込み上げる全部をぶつけるように、ぎゅ、と生温い空気を握り締めて、重力に身を任せるように力を抜いた。
革張りの柔らかなソファに向かってやたらとゆっくり落ちていく指先。一コマが10秒にも20秒にも感じるようなその動きは、どさり、と痛みすら伴わずに落ちていっちゃうのかな、なんて思ったりして、何か笑っちゃう。ふふふ、って出した笑い声も、いつもの楽しいやつじゃなくて、なんだか寂しいやつだし。おかしいなぁ。どっか他人事みたいに思ってたら、突然、津軽の顔がにょき、って現われて肩が揺れた。ぱちくり、と瞬きを繰り返して、ぼやける天井と津軽の顔を交互に見る。気付けば、天井に向かって伸びてた掌も落ちて、しっかり、津軽の手の中に収まってた。
「つがる?……どうしたの?」
一回りおっきな掌が緩く指先に絡みついて優しく優しく、壊れ物みたいに握られる。そうして伝わる温もりに、天井から視線を落とし、きゅ、と握り返すと津軽は優しく笑って、ソファにやる気なく横たわるサイケの身体を抱き締めた。とくり、とくり。溶けるみたいにサイケの心臓の音と津軽の心臓の音が混ざり合う。それが酷く、気持ちよくって。このまま繋がったとこから津軽に飲み込まれて、一つになっちゃうんじゃないかなって、少しだけ思った。
不意に顔を上げ、柔らかく蕩けた瞳と目が合うと、穏やかさと静けさに包まれる。寂しい、とは違う雰囲気がまるでサイケと津軽だけの世界みたいに、体中に纏わり付いて、ゆっくりとサイケの真ん中にぽっかり、と開いた穴が埋めていった。例えば、さっきろっぴーが飲んでたオレンジジュースがグラスに注がれるように。例えば、皆で入るお風呂にママがお湯を注ぐように。満たされていく其れに少しだけ顔を綻ばせると、津軽はぐしゃぐしゃ、とサイケの髪を掻き回しながら同じように笑う。
くしゃ、と出来た目尻の皺は、やっぱりどっか、ママとパパに似てた。

「サイケにいとつがるにいずるい!日々也もまぜて!」
その声と共に津軽の肩越しに突如、現れた、ぷくーと膨れた頬と黄色い瞳。透けるような視線に、サイケの姿が映し出され、途端に、のし、と身体に掛かる体重が倍程に増えた。津軽越しの日々君。それから遠慮がちに月君も此方を伺っていて、その内、とさ、とサイケに擦り寄ってくる。そして船を漕いでたデリックも難しい本読んでたろっぴーも皆して、サイケの周りに集まって。寂しいとかママが恋しいとかそういうのが少しだけ薄らいで行く気がした。ふふ、って零れる笑みが一瞬で変わる。もう寂しいやつじゃない。ねえ、これって、みんなも同じ?みんなもサイケみたい笑ってる?
「サイケにぃやっと笑った!」
そう言って、日々君が嬉しそうにきらきらして笑う。津軽も安心したように、サイケを包む腕の力を強めて、ゆっくり、ゆっくり、とサイケの身体を抱き起こした。そうして、次から次へとひょこり、と現れる月君や、デリックやろっぴーの顔。その表情は誰しも、安堵の表情を覚えていて。なんだか泣きそうになった。
「あのね!日々也いい事思いついた!みんなでおままごとしよ!」
サイケがママで、津軽がパパらしい。日々君がこどもで月君が赤ちゃんで。ろっぴーがお兄さんで、デリックは犬。いつもならろっぴー辺りが「そんなこどもみたいな事しない」ってこどものクセに拒否したり、めんどくさいってデリックがどっか行っちゃったりするクセに。今日に限って誰も、日々君の提案に反対する人は居なかった。だって、サイケ達兄弟だから。皆寂しいのは一緒だから。だからね、あともう少しだけ、皆で身体を寄せ合って。皆の寂しいのを少しずつ分け合って。ママが帰ってくるほんの僅かな間。さびしいおるすばんを楽しい事に変えてしまおう。そうしよう。と、サイケ達はきっとみんな、みんな、おんなじ事を考えているんだ。






優しい凶器









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